2007-01-01から1年間の記事一覧

天が許し給うすべて

ダクラス・サーク作品が、やっとまとまってDVD化された。第1回は3作品だが、メロドラマとして後に多くの作家たちに影響を与えた傑作『天が許し給うすべて』(1956)が収録されている。ダニエル・シュミットが、ダグラス・サークにインタビューした記録映画『…

カラマーゾフの兄弟

数多い文庫本のなかで、「光文社古典新訳文庫」の企画は快挙と言っていいだろう。亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』がよく売れているらしい。ドストエフスキーが多くの読者を獲得していることは嬉しいことだ。遅ればせながら、亀山新訳を読み始め、第2巻第5…

シッコ

マイケル・ムーア『シッコ』(SiCKO, 2007)を観る。優れたドキュメンタリーはフィイクションである、という映画的事実を証明してみせた、実に刺激的なフィルムになっている。世界の中で最も民主主義的な国家であるアメリカにはなんと、国民皆保険制度がない…

小林秀雄賞『私家版・ユダヤ文化論』

拙ブログ2006−07-29で取り上げた『私家版・ユダヤ文化論』(文藝春秋,2006)が、「第6回小林秀雄章」を受賞した。 私家版・ユダヤ文化論 (文春新書)作者: 内田樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2006/07/01メディア: 新書購入: 11人 クリック: 169回この商…

村上春樹にご用心

内田樹『村上春樹にご用心』(アルテスパブリッシング、2007.10)は、村上春樹の世界に意味を見出すのではなく、「無意味さ」こそハルキ的世界であることを、ウチダ節で語られる。 村上春樹にご用心作者: 内田樹出版社/メーカー: アルテスパブリッシング発売…

人間を守る読書

このところ気になる書評本の出版が続いている。坪内祐三『四百字十一枚』(みすず書房)、川上弘美『大好きな本』(朝日新聞社)、鹿島茂『鹿島茂の書評大全 洋物篇』『同 和物篇』(毎日新聞社)、四方田犬彦『人間を守る読書』など。坪内祐三と川上弘美本…

13/ザメッティ

グルジア出身のゲラ・バブルアニがフランスで撮った最初の映画『13/ザメッティ』(2005)は、集団ロシアンルーレット*1によるデスゲームが映画の核になっている驚くべき作品だった。いわゆるフィルムノワールというジャンルに収まらず、ハードボイルドあるい…

プラネット・テラー in グラインドハウス

ロバート・ロドリゲス監督の『プラネット・テラーinグラインドハウス』(2007)は、もう一本のグラインドハウス映画。こちらは、ゾンビ映画の引用とジョン・カーペンターをリスペクトした作品。『デス・プルーフ』ではあっさり殺人鬼に殺されたローズ・マッ…

デス・プルーフ in グラインドハウス

クエンティン・タランティーノ『デス・プルーフinグラインドハウス』(2007)は、B級作品、それもまぎれもなく低予算で、しかもドライブインシアターで上映されるような作品を目指したフィルムだ。 アメリカ大都市近郊の二番館・三番館にかけられるフィルム…

ヴンダーカンマーの謎

小宮正安『愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎』(集英社新書、2007.9)を店頭でみて、はらぱら頁をめくりながら中の図版をみると既視感にとらわれた。もちろん、高山宏の著書『魔の王が見る』(ありな書房、1994.6)の第1章「ヴンダーカンマー」であり、『表象…

魔笛

オペラ『魔笛』の「序曲」にあわせて、キャメラは緑あふれる自然を捉えたかと思えば大移動をし、第一次大戦の塹壕の中へ入り込む。大胆な解釈によるケネス・ブラナー版『魔笛』は、冒頭から一気にドラマに引きこんでいく。 映画「魔笛」オリジナル・サウンド…

ガラスのような幸福

高山宏『ガラスのような幸福』(五柳書院、1994)は、著者本人が一番気に入っている本というだけあって、物に即して、近代とはどのようなものであるかを語る実に刺激に富んだ書物になっている。しかしながら、2007年の現在から見ると7年前の著作であり、その…

ゴッホについて/正宗白鳥の精神

小林秀雄講演CD第七巻『ゴッホについて/正宗白鳥の精神』を聴く。小林秀雄講演CDについては、拙ブログ2005-10-11と2005-10-16、二度にわたり言及した。 小林秀雄講演 第7巻―ゴッホについて/正宗白鳥の精神 [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 7巻)作…

垂乳女(たらちめ)

河瀬直美が『殯(もがり)の森』(2007)でカンヌグランプリを受賞した翌々日、BSハイビジョンで放映があり、その時の感想は拙ブログ2007-05-29に記載した。今回、あらためてスクリーンで見直してみて、基本的な部分に変更はないものの、大きなスクリーン…

クロスしてリファー

高山宏は、作品のなかでしばしば『OED(Oxford English Dictionary)』や、チェインバーズの『サイクロペディア(Cyclopaedia: or, An Universal Dictionary of Arts and Sciences)』、更にロジェの『シソーラス(Roget's Thesaurus of English Words and P…

魔の王が見る

高山宏は、「博物学の想像力」(『魔の王が見る』)で、バルトルシャイティスの魅力を次のように記している。 魔の王が見る―バロック的想像力作者: 高山宏出版社/メーカー: ありな書房発売日: 1994/06メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (7…

アベラシオン

はじまりは、四方田犬彦『先生とわたし』(新潮社、2007.6)だった。先生とは由良君美であり、拙ブログ2007-07-27で取り上げた。英文学の由良君美は、四方田氏の見解を引用すれば、 私見するに、由良君美という存在の再検討は、かつては自明とされていた古典…

表象の芸術工学

書物を通じて著者に出会う。それは数多くの作家や評論家やライターなどの物書きなのだが、ある書物が、決定的な衝撃をもたらし、その著者との遭遇を一種奇蹟のように感じることは、これまでの乏しい経験から言っても、10年に一人だ。そのひとりになるかも知…

近代文化史入門

『超人 高山宏のつくりかた』に続いて、高山宏著『近代文化史入門-超英文学講義』を読む。 近代文化史入門 超英文学講義 (講談社学術文庫)作者: 高山宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/07/11メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 93回この商品を含むブロ…

天然コケッコー

山下敦弘監督『天然コケッコー』(2007)を観る。少年少女の物語でこれほど切なく、心地よい映画は珍しい。ボーイ・ミーツ・ガールものの変種であるが、田舎の小中学校に通う7人の生徒を中心とする原作漫画からのお話。中学生3名、小学生3名の複式学級に、…

超人 高山宏のつくりかた

出るべくして出た高山宏の『超人 高山宏のつくりかた』(NTT出版、2007.8)、14日に読了。マニエリスムを核とする半自叙伝になっている。由良君美との師弟関係でいえば四方田犬彦『先生とわたし』と併読することで、1970年代から90年代の「知の運動」の輪…

夕凪の街 桜の国

こうの史代の漫画を原作とする、佐々部清監督『夕凪の街 桜の国』(2007)を観る。 夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)作者: こうの史代出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2004/10/12メディア: コミック購入: 60人 クリック: 1,350回この商品を含むブログ …

ヒロシマナガサキ

今、広島・長崎に投下された原爆について語ることの意味、戦後は終わっていないこと、戦後体制の終焉などと決して言えないことが、日系三世スティーヴン・オカザキ監督『ヒロシマナガサキ』の証言からはっきりわかる。イデオロギーだの政治性だのを極力排除…

怪談

中田秀夫『怪談』(2007)を観る。本格的なジャパニーズ怪談は実に久しぶり。三遊亭円朝の講談『真景累ヶ淵』を原作として、歌舞伎俳優尾上菊之助を主役の新吉に迎え、豊志賀に黒木瞳。 怪談 (角川ホラー文庫)作者: 行川渉,三遊亭円朝,奥寺佐渡子出版社/メー…

イノセント

ルキーノ・ヴィスコンティ『イノセント』(1976、無修正版)をスクリーンで観る。修正版は観たが、違いはヘアと男性の性器が写されていることであった。日本公開時は「ぼかし」が入っていたので、他のヴィスコンティ映画のように上映時間に変更がはない。19…

先生とわたし

四方田犬彦が、彼の師・由良君美についてまとめた『先生とわたし』(新潮社、2007.6)を読了。 [rakuten:book:12079768:detail] 既に高山宏が、紀伊国屋書店Web「書評空間」で取り上げているので、それ以上のことはとても書けない。まず高山宏が、石原都政下…

溝口健二の映画

ビデオやDVDでは観ているものの、リアルタイムで観ていない溝口健二をスクリーンで観る経験は多くない。特にロングショットが多い溝口作品の場合、可能ならば全作品をスクリーンで見たいと願っている。小津安二郎は、バストショットが多いので、TV画面…

黙読の山

荒川洋治『黙読の山』(みすず書房、2007.7)を入手した。巻末の初出一覧をみながら、短文ばかりだなとは思いつつ読めば、内容は濃い。言いたいことが素直に、率直なことばで読者に響く。飾らない良い文章の見本だ。 黙読の山作者: 荒川洋治出版社/メーカー:…

エドワード・ヤン(楊徳昌)を悼む 

今朝の「朝日新聞」の小さな記事で、エドワード・ヤンの死去を知る。享年59歳はあまりに若い。才能に恵まれた監督だけに惜しまれる。メディアが、大きく伝えることもなく、ひっそりと他界された台湾の映画監督について、弔辞にあたる「ことば」や作品解説も…

17歳のための世界と日本の見方

松岡正剛が帝塚山学院大学で「人間と文化」と題した講義を復元・編集したのが、『17歳のための世界と日本の見方』(春秋社、2006)*1であり、まずこちらを読了した。 「関係」と「編集」、「文化感覚距離」などの「ことば」を駆使して、世界の成り立ちの根底…