2006-01-01から1年間の記事一覧

2006年書物の収穫

【小説】 川上弘美『真鶴』(文藝春秋) 真鶴作者: 川上弘美出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2006/10メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 25回この商品を含むブログ (171件) を見る 短い文章で綴られる簡潔な文体。女性の生理的な生なましさが、今生と他…

2006年映画ベスト10

年末恒例の映画ベストテン。今年スクリーンで観た映画は、102本だった。 まずは日本映画から。 【日本映画2006ベストテン】①『ゆれる』(西川美和)ゆれる [DVD]出版社/メーカー: バンダイビジュアル発売日: 2007/02/23メディア: DVD購入: 3人 クリック: 216…

神の道化師フランチェスコ

映画は原則、スクリーンで観ることにしている。がしかし、長い間待っていたけれど、スクリーンで観ることは当分無理だろうと観念し、ロッセリーニ『神の道化師フランチェスコ』(1950)をDVDで観た。ロッセリーニといえば、ネオリアリズモの代表作『無防…

翻訳・新訳本補遺

12月19日の拙ブログで取り上げた「翻訳・新訳本」に漏れがあった。以下、補遺として記しておく。ラシーヌ論作者: ロランバルト,Roland Barthes,渡辺守章出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2006/10/11メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (…

ウェブ人間論

梅田望夫・平野啓一郎『ウェブ人間論』(新潮新書)読了。『ウェブ進化論』の著者と、『日蝕』で芥川賞受賞の作家の対談は、興味深い。 ウェブ人間論 (新潮新書)作者: 梅田望夫,平野啓一郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/12/14メディア: 新書購入: 17…

翻訳・新訳本

12月になって、何故か忙しい。読書中の本が多くどれも読了できない状態。今年は、翻訳本が話題になっている。アンチ・オイディプス(上)資本主義と分裂症 (河出文庫)作者: ジル・ドゥルーズ/フェリックス・ガタリ,宇野邦一出版社/メーカー: 河出書房新社発売…

硫黄島からの手紙

クリント・イーストウッド『硫黄島からの手紙』(Letters from IWO JIMA, 2006)は、まぎれもなく日本映画だ。日本人以上に、硫黄島で絶望的な戦いで死んだ若者たちに敬愛の念を持って描くことができたことは特筆に値する。日本人監督が描けば、どうしてもセ…

生き延びるためのラカン

斎藤環『生き延びるためのラカン』(パジリコ, 2006.11)を読了。晶文社のHPに連載していた原稿に加筆したもので、著者によれば「日本一わかりやすいラカン入門」とのこと。確かに、本書を読めばラカンが提起している様々な問題が、現代社会で起きている現…

武士の一分

山田洋次の藤沢周平時代劇三部作、『たそがれ清兵衛』(2002)『隠し剣 鬼の爪』(2004)に続く『武士の一分』を観る。海坂藩下級武士の日常生活のつつましさを描きながらも、妻(壇れい)を陵辱された新之丞(木村拓哉)が、武士の面目をかけて島田(坂東三…

紙屋悦子の青春

黒木和雄の遺作『紙屋悦子の青春』を観る。1945年3月から4月ころの鹿児島県地方の紙屋家の日常風景が、戦争そのものを描くのではなく、戦闘行為を一切画面に出さずに描く手法は、黒木氏の『TOMORROW/明日』(1988)と同様。異なるのは、冒頭病院の屋上で原…

麦の穂をゆらす風

ケン・ローチのカンヌ映画祭・パルムドール受賞作『麦の穂をゆらす風』(The Wind that shakes the barley, 2006)を観る。1920年代のアイルランド独立戦争を、南部コークの人々に焦点をあてて描く。この監督ならではの手法、ドキュメンタリータッチの直球勝負…

戦争映画の差異、リアリズムの頂点

戦争を描きながら、そのスタイルにおいて全く対照的な映画二本を続けて観た。ケン・ローチ『麦の穂をゆらす風』と黒木和雄『紙屋悦子の青春』。戦争に正義はない、しかし・・・

図書館総合展2006

パシフィコ横浜で開催された「第8回図書館総合展」に行ってきた。11月21日(火)開催の二つのフォーラムに参加した。午前中は、「図書館の「壁」〜発展を妨げるものは何か?理想の図書館とは?」と題して、アカデミーヒルズ六本木ライブラリーの小林麻美氏が…

シネマ2*時間イメージ(続)

ジル・ドゥルーズ『シネマ2*時間イメージ』読了。 シネマ2*時間イメージ (叢書・ウニベルシタス)作者: ジルドゥルーズ,宇野邦一,江澤健一郎,岡村民夫,石原陽一郎,大原理志出版社/メーカー: 法政大学出版局発売日: 2006/11/15メディア: 単行本購入: 2人 ク…

小さな町

小山清『小さな町』(みすず書房, 2006.10)読了。 作者は、つつましく普通であることに価値を置き、新聞配達や、北海道で炭鉱夫として働いた経験が、素直な文体で綴られる。『小さな町』は、著者二冊目の小説集であり、冒頭に置かれた「小さな町」をはじめ「…

シネマ2*時間イメージ

ジル・ドゥルーズ『シネマ』の第2巻、『シネマ2*時間イメージ』が宇野邦一ほか訳により、法政大学出版局から刊行された。『シネマ1*運動イメージ』は来年度刊行になる。なぜ、第二巻が先行して出版されたのか。読者としては奇異な印象を禁じえないけれど…

父親たちの星条旗

クリント・イーストウッドが、硫黄島の戦いを二部作で撮ることは早くからニュースとなっていた。最初に公開されたのは『父親たちの星条旗』(Flags of our Fathers, 2006)であり、アメリカ側からみた硫黄島の日米戦争である。 父親たちの星条旗作者: ジェー…

心理

荒川洋治『心理』(みすず書房、2005)が、丸山眞男の三島庶民大学に触発されて書いた「詩」であることを、拙ブログ、「2005-07-04 自由について」において引用紹介した。 その引用部分に続くことば。 初回「明治の精神」(この日 子犬が集まる) 翌年二月か…

丸山眞男回顧談

松沢弘陽・植手通有編『丸山眞男回顧談(上)(下)』(岩波書店,2006.8,10)は、『丸山眞男集』刊行の過程で生まれた時代の証言記録になっている。生前の丸山眞男は、自分の全集を出すことに消極的だった。論文の単行本化すら、極端に禁欲的であったことは…

小島信夫

小島信夫氏が10月26日に他界された。享年91歳。小島氏の『月光 暮坂』について書いた日に亡くなられるとは、何ということだ。ご冥福をお祈りいたします。合掌。

月光 暮坂

小島信夫『月光 暮坂 小島信夫後期作品集』(講談社文芸文庫,2006.10)読了。 月光・暮坂 小島信夫後期作品集 (講談社文芸文庫)作者: 小島信夫出版社/メーカー: 講談社発売日: 2006/10/11メディア: 文庫 クリック: 5回この商品を含むブログ (17件) を見る 『…

本日記

10月発売の坪内祐三本が三冊あった。いずれも、連載ものをまとめたものだから、偶然出版時期が重なったのかも知れない。入手した順に並べると以下のとおりとなる。『『近代日本文学』の誕生』(PHP新書) 『酒日誌』(マガジンハウス) 『本日記』(本の…

ブラック・ダリア

ブライアン・デ・パルマ久々の作品『ブラック・ダリア』(2006)は、フィルム・ノワールの傑作に仕上がっている。1946年から47年のロスが舞台。二人の刑事バッキー(ジョシュ・ハートネット)と、リー(アーロン・エッカード)は、惨殺された女優志望のエリ…

腐女子化する世界

杉浦由美子『腐女子化する世界 東池袋のオタク女子たち』(中公新書ラクレ,2006.10)を読む。小説や漫画・アニメにしても、通常は読者が登場人物に感情移入して読む。ところが、「腐女子」と呼ばれる「オタク女子」は、「自分探し」だの「自己実現」とは全く…

マッチポイント

この30数年間、一年に一本コンスタントに映画を撮り続けている作家がいる。ウディ・アレン。彼は俳優=コメディアンとして、脚本を兼ねる映画監督だけではなく、小説も書く才人として知られている。 ウディ・アレンの映画は、ユダヤ系ジョークに満ちた一種パ…

図書館のプロが教える<調べるコツ>

浅野高史+かながわレファレンス探検隊/編集『図書館のプロが教える<調べるコツ> 誰でも使えるレファレンス・サービス事例集』(柏書房,2006.9)が有用かつ読み物としても面白い。まずは、関心のある分野について通読してみると、回答に到達する手順を、時…

図書館は本をどう選ぶか

安井一徳『図書館は本をどう選ぶか』(勁草書房,2006.9)は、安井氏の卒業論文を基にした本であることにまず驚いた。著者は、現在国立国会図書館勤務。 図書館は本をどう選ぶか (図書館の現場 5)作者: 安井一徳出版社/メーカー: 勁草書房発売日: 2006/09/08…

ドゥルーズ『シネマ2』

ジル・ドゥルーズ『シネマ1(Cinema 1: L'image-mouvement 』(1983) と『シネマ2(Cinema 2: L'image-temps )』(1985) の2冊の翻訳を待つこと20年以上となった。法政大学出版局から、この10月下旬に宇野邦一訳『シネマ2−時間イマージュ』が刊行されるら…

文学全集を立ちあげる

「文学全集」が発行されなくなって久しい。かつてはどこの家庭でも、応接間や居間に「○○文学全集」全○巻がどんと居座っていた。今そのなごりが、古書店で全集の端本として売られている。講談社、筑摩書房、新潮社、集英社、小学館等々、各出版社がこぞって「…

トリュフォーの映画術

映画本の購入は控えていたのだが、アンヌ・ジラン編・和泉涼一・二瓶恵訳『トリュフォーの映画術』(水声社、2006)を、買い求めてしまった。膨大なトリュフォー自身の作品に関するインタビュー。それは、トリュフォーがヒッチコックに対して行った*1と同様…