映画

ケリー・ライカートまたはケリー・ライヒャルトはハリウッド映画を解体する女性監督だ

ケリー・ライカートの映画 ケリー・ライカートの映画を、「ケリー・ライカートの映画たち~漂流のアメリカ」特集で4本、配信・DVD等で2本、計6本を見た。 Kelly Reichardt アメリカンインディーズ映画で著名だが、今回初めて彼女の既成ハリウッド映画を否…

『ボストン市庁舎』がフレデリック・ワイズマン監督二度目のベスト1となった

映画ベストテン2021 2021年映画ベストテンを以下に記して置きたい。そろそろ止め時と思いつつ今年も、コロナ禍を回避して49本を映画館で見た。作家別の作品ランキングなど、DVDや配信ビデオで見直すことも増え、よく映画を見た年だった。 映画ベストテン選出…

コメディ映画の偉大な監督ビリー・ワイルダーの基本は脚本にあった

脚本・監督=ビリー・ワイルダー ~「完璧な人間なんて、ひとりもいない」(『お熱いのがお好き』)~ ~「何よりも重要なのはよい脚本です。映画監督は錬金術師ではない。にわとりの糞から金を作り出すことなんて不可能なのだ。」(ビリー・ワイルダー)~ …

映画監督・川島雄三は時間経過によって普遍性を帯びてきた

花に嵐のたとえもあるぞサヨナラだけが人生だ~川島雄三覚書 川島雄三は、日活に入社し、清水宏、小津安二郎、木下恵介などの実力監督のもとに助監督として働き、『還って来た男』(1944)で織田作之助原作を第一作として監督昇格する。松竹最後の作品が『昨…

鈴木清順映画はバイアスを排除した評価をすべきときだ

鈴木清順映画 清純神話といういつの間にか神ががりの映画監督と称される鈴木清順について、ベストテンを記録しておきたい。もちろん、目標はあの淀川長治さんの「映画ベスト1000」にほかならない。 鈴木清順に関する言説はいまや至るところに横溢している。…

エルンスト・ルビッチはドアの開閉によって完璧な映画をつくる

エルンスト・ルビッチに関する二・三の事柄 エルンスト・ルビッチは完璧な映画をつくる。 ルビッチ・タッチと呼ばれる独特のショットのリズム、すべてがジャンル映画、すなわち「恋愛コメディ映画」の名手とされる。ヒッチコックが「サスペンス」に終始した…

ジャン・ルノワールの映画は美しく官能的だ

ジャン・ルノワールの映画 『淀川長治映画ベスト1000決定版・新装版』(河出書房新社,2021)をみていて、ジャン・ルノワールについては、次の6本しかあげていないことに気づいた。 淀川長治映画ベスト1000〈決定版 新装版〉 作者:淀川長治 発売日: 2021/04/…

トルストイは『セルギー神父』が経験する聖人への段階を示した(宗教批判的に)

セルギー神父 トルストイ原作の映画『セルギー神父』(1978)は、イーゴリ・タランキン監督による作品で、セルゲイ・ボンダルチュクが主演した、実に、19世紀ロシア社会のロシア正教という一種異端のキリスト教世界と現世のかかわりを、淡々と描く傑作であっ…

ジャック・リヴェットは舞台劇を導入し映画を再生させた

映画は20世紀最大の芸術である 新型コロナウィルスの世界的蔓延によって、パンデミックとなり、芸術活動全般が制御されている。アメリカの爆発的感染者の驚くべき増大により、ブロードウェイや、ハリウッド系の映画館が閉鎖されている。従来のように、映画が…

『裁かるるジャンヌ』以前のドライヤーのフィルムは「情熱」の現れだ!

『ミカエル』ほか・カール・Th・ドライヤーのサイレント作品 カール・Th・ドライヤーのサイレント作品6本を観た。DVD再生装置に不具合が起きたためPCにて再生した。結果として、サイレント映画を見るには、PCが好ましかった。観た順とは異なるが、製作順に…

今年は外国及び日本映画とも女性主演映画がベスト1となった

映画ベストテン2020 今年2020年は、コロナ禍のため、3月から5月まで映画館に行けなかった。例年に較べてスクリーンで観た映画は少なく、47本だった。目標が80本なのだが、新型コロナウイルスを回避するため、自宅巣ごもりの一年となった。 映画館で観た映画…

パラサイト 笑えないブラックユーモア

パラサイト 半地下の家族 パラサイト アカデミー賞、作品賞、監督賞(ポン・ジュノ)、脚本賞、国際映画賞の4部門を受賞した『パラサイト』を見た。ポン・ジュノ監督作品では、『殺人の追憶』『母なる証明』の2本を見ているが、その過去の作品と比較しても…

マッツ・ミケルセンの牧師が異彩を放っていた!

映画ベストテン2019 恒例の映画ベストテン。今年は87本をスクリーンで見た。ベストテン選出基準は『キネマ旬報2019年12月下旬号』に掲載されている映画(2019年1月1日~12月19日公開)から、あくまで自分の眼で見た結果であり、独断と偏見によるもの。 今年…

太宰よりも安吾を好む

人間失格 蜷川実花監督『人間失格ー太宰治と3人の女』(2019)を見た。 映画の設定は、昭和21年から始まり23年で終わる。戦後の混乱期だが、映像は時代感覚を混乱させるほど美しく、花が絢爛豪華に咲き、画面を浮遊する。戦後の時代の雰囲気や衣装などは、汚…

ラース・フォン・トリアーは畏怖すべき芸術家である

ハウス・ジャック・ビルト ラース・フォン・トリアーの最新作『ハウス・ジャック・ビルト』(2018)を見る。見る者を不快にさせる映画だが、主人公は監督の分身であり、距離を置いて見ることで、芸術作品としてなぜこのようなサイコキラーの男を主人公にして…

「死」をどのように受け入れるかを問う問題作

長いお別れ 『湯を沸かすほどの熱い愛』で、監督・中野量太の名前が強く印象つけられた。 映画「長いお別れ」オリジナル・サウンドトラック(特典なし) アーティスト: 渡邊崇 出版社/メーカー: SMM itaku (music) 発売日: 2019/05/29 メディア: CD この商品を…

ブラックユーモアとは決して言えない映画

ブラック・クランズマン スパイク・リー監督作品『ブラック・クランズマン』(2018)を観た。 ブラック・クランズマン 作者: ロンストールワース,丸屋九兵衛,鈴木沓子,玉川千絵子 出版社/メーカー: パルコ 発売日: 2019/02/28 メディア: 単行本 この商品を含…

シャーロット・ランプリングは老いの美しさを露出している

ともしび シャーロット・ランプリング主演『ともしび』(Hannah,2017)は、老境にさしかかった主婦が、遭遇する一種普遍的な問題を内包している。冒頭、画面の右側にアン(シャーロット・ランプリング)の顔のアップが映り、奇妙な声が続いて発せられる。何か…

映画版『アンナ・カレーニナ』は、トルストイ作品解釈に一石を投じた

アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語 トルストイ原作『アンナ・カレーニナ』はこれまでに何度も映画化されている。 カレン・シャフナザーロフ監督の『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』(2017)は、日露戦争時代に時間を設定し、アンナ死後30年後…

『映画めんたいぴりり』は地方発の貴重なフィルムだ

映画めんたいぴりり テレビ西日本制作の『めんたいぴりり』が2013年テレビドラマとして放映され、好評につき『めんたいぴりり2』が2015年に放映された。第30回ATP賞・奨励賞、第51回ギャラクシー賞・奨励賞を受賞し、地方発の連続ドラマとしては異例の大き…

「鈴木家の嘘」は、予想範囲内の出来だ。

野尻克己監督『鈴木家の嘘』(2018)を観る。 父・岸部一徳、母・原日出子、長男・加瀬亮、長女・木竜麻生の家族。引き籠りの長男が自殺したことで、ひきおこされる家族の混乱を、一種のユーモアを交えてに描かれる。しかしながら、冗長さは否めない。この主…

映画ベストテン2018

今年、映画館のスクリーンで観た映画は113本。久々の100本超えだった。 例によって『キネマ旬報12月下旬号』に依拠して、外国映画、日本映画それぞれのベストテンを以下に記す。 【外国映画】1.スリー・ビルボード(マーティン・マクドナー〉 2.ボヘミアン…

寝ても覚めても

濱口竜介の商業映画第一作『寝ても覚めても』(2018)が、雑誌『ユリイカ』で特集されるなど、今の若手監督では最も注目すべき作家だろう。2015年に公開された『ハッピーアワー』は、素人俳優がロカルノ映画祭で4人が主演女優賞を獲得したことで話題となって…

犬ヶ島

ウェス・アンダーソン監督、パペットアニメーション『犬ヶ島』(Isle of Dogs,2018)には、映画作りの巧さが随処に見られ、感動アニメの部類に入る。ベルリン銀熊賞受賞作品。 新品DVD!【犬ヶ島】 Isle of Dogs!<ウェス・アンダーソン監督作品>ジャンル: C…

モラン神父

ジャン=ピエール・メルヴィル監督特集上映で、7本の映画を観た。短篇『ある道化師の24時間』のみ未見であった。二人の道化師の24時間を追うドキュメンタリー。年老いた道化師の生活ぶりには、哀愁がただようものだが、一種のユーモアを織り込み凝縮された…

映画ベストテン2017

2017年に映画館で見た映画は54本であった。例年どおりのベスト10選出は難しいが、外国映画に関して10本選出は可能だ。しかし、日本映画はあまり見る気分になれなかった。コミック原作の映画化や、高校生が主人公となる映画はどうしてもパスする。選出は『キ…

ブレードランナー

ドゥニ・ビルヌーブ監督『ブレードランナー 2049』(2017)を観た。リドリー・スコットが監督した『ブレードランナー』(1982)は、2019年が舞台であった。『2049』では、ダッカードを演じたハリソン・フォードの登場までに、三分の二の時間が経過していた。…

夢を見ましょう

サッシャ・ギトリのDVD-BOXが発売された。『とらんぷ譚』のみ評価が高い、この演劇・映画などマルチ才能のヌーヴェル・ヴァーグ先駆者のサッシャ・ギトリ作品集は貴重だ。 サッシャ・ギトリ 傑作選 DVD BOX(初回限定生産)出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)発…

わたしは、ダニエル・ブレイク

ケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』(I, Daniel Blakee,2016)は、『麦の穂をゆらす風』に続き、二度目のカンヌグランプリに輝いた作品であり、いかにもケン・ローチらしい労働者を主人公に据え、心臓病のために働けないダニエルは、国の社会…

沈黙サイレンス

遠藤周作原作『沈黙』は1966年に書き下ろされた小説。新潮社「純文学書き下ろし特別作品」というものがあった。沈黙 (1966年)作者: 遠藤周作出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1966メディア: ? クリック: 2回この商品を含むブログ (5件) を見る 安部公房『砂の…