本日記


10月発売の坪内祐三本が三冊あった。いずれも、連載ものをまとめたものだから、偶然出版時期が重なったのかも知れない。入手した順に並べると以下のとおりとなる。

『『近代日本文学』の誕生』(PHP新書)
『酒日誌』(マガジンハウス)
『本日記』(本の雑誌社


本日記

本日記


『本日記』は、『本の雑誌』連載の「坪内祐三の読書日記」を単行本化した『三茶日記』の続編。1997年から始まったこの連載は現在も続いていて、「読書日記」から読む本が発見できる楽しみがある。2002年2月15日から26日の日記では、「小島信夫の『別れる理由』全三巻を探し求めて」と題して、『別れる理由』の探索・入手過程が綴られる。私が小島信夫へ傾斜して行くきっかけとなった文章だ。坪内氏は、散々探したあと、龍生書林で三冊一万円で購入している。注文したあと、「古本まつり」の光芳書店コーナーで2,900円で並んでいるのをみつけるが、「でも、いいのさ、龍生さんの三冊一万円は、初版だし、状態だとても良かったんだから。」と結ぶ。この感覚は、本好きなら誰もが経験したことがあるはずだ。


三茶日記

三茶日記


2002年3月には、『考える人』への連載の話や、『群像』への『『別れる理由』が気になって』の連載中の話題が出てくる。


考える人

考える人


坪内祐三の日記のスタイルは、今や多くの「ブログ」で模倣され、ブロガーの「読書日記」として定着した。早稲田大学中央図書館で雑誌のバックナンバーを調べることが多い。卒業者への配慮だろうが、当該大学以外の卒業者は、嫉妬の思いを抱きながら読むシーンだ。


「別れる理由」が気になって

「別れる理由」が気になって


本に対する熱い想いは、本好きなら誰もが同じだろうが、本のジャンルや分野について殆ど同じというケースは多くないはずだ。ある著者のファンで、著者が関心を持つ全ての本を同じように収集するというのは、一種のストーカー的なファン心理で、もちろん、どのように著者に同化しようが読者の自由であり、それゆえ様々な本好きが存在しているし、似て非なる同志も居る。ただ、本好きは、お互いの本を薦めあうという奇妙な性癖があることも否めない。


まぼろしの大阪

まぼろしの大阪


坪内祐三のライフスタイルは、本好きには一種の規範あるいは羨望の対象となる。映画ファンにしても、微妙な差異があるのと同じように、本好きも百人百様だ。その点では「ブログ」という便利なツールの出現が、この世に似た趣味を持つ人たちが予想外に多いことに気づかせられた。既存のメディアのみでは、絶対に分からない種類の趣味人が居ることを知ることが出来るのが「ブログ」の楽しいところだろう。


古本的

古本的


拙ブログは、ひたすら淡々と「独断と偏見」で記録しつづけたいと、ツボちゃんの本を読みながらしみじみ思う。継続こそ力なり、か。「ブログ」とは楽しむものと見つけたり。


「近代日本文学」の誕生―百年前の文壇を読む (PHP新書)

「近代日本文学」の誕生―百年前の文壇を読む (PHP新書)


話が逸脱した。坪内祐三の本への造詣の深さは、『『近代日本文学』の誕生』に表れている。明治32年7月から、1ヶ月毎に適切な話題を採り上げ、明治39年10月まで辿る筆致は見事というほかない。明治39年が「近代文学」の誕生であることを漱石坊っちゃん』の『ホトトギス』4月号別冊への発表と、『草枕』の『新小説』9月号への掲載にみる。『坊っちゃん』『草枕』から、今年が100年目にあたる。


草枕 (岩波文庫)

草枕 (岩波文庫)


さて、最近の坪内日記(2006年7月20日)から、岡田睦を知りえたことは収穫の一つだった。講談社文芸文庫で一冊の本にして欲しいものだ。


酒日誌

酒日誌


坪内祐三は、酒好きでもあった。



■補記(2006年10月26日)


日記といえば、大岡昇平『成城だより』が時代を超えて読み応えがある。

成城だより 上 (講談社文芸文庫)

成城だより 上 (講談社文芸文庫)

成城だより 下 (講談社文芸文庫)

成城だより 下 (講談社文芸文庫)