坪内祐三の死が気になって

追悼・坪内祐三

 

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 1月15日付け『朝日新聞(大阪版)』による坪内祐三氏の訃報に驚いた。享年61歳は若い。60代70代の著作も十分可能だったと思うと残念に思う。坪内氏の著作は、『ストリートワイズ』( 晶文社、1997)以後、『古くさいぞ私は』( 晶文社、2000)などから、『「別れる理由」が気になって』( 講談社、2005)を頂点として、随分お世話になった。

 

ストリートワイズ (講談社文庫)

ストリートワイズ (講談社文庫)

 

 

 

古くさいぞ私は

古くさいぞ私は

 

 

 

最も大きいのは、小島信夫作品との出会いへの補強だった。加えるとすれば

筑摩書房の『明治の文学』責任編集者としての坪内祐三である。

 

拙ブログで、坪内祐三氏について何度か言及している。

2018年1月27日、『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない』( 幻戯書房、2017)を取り上げたのが最後だった。

それ以前はというと、2006年10月25日、『本日記』(本の雑誌社,2006)、このとき三冊まとめて出版された『酒日誌』(マガジンハウス,2006)『『近代日本文学』の誕生』(PHP新書,2006)についてである。

2006年8月30日には、『考える人』( 新潮社、2006)を取りあげた。

同じく、2006年6月13日は、『同時代も歴史である 一九七九年問題』( 文春新書、2006)に言及している。

さかのぼり、2005年4月3日に、『「別れる理由」が気になって』を取り上げたことになる。拙ブログ上の評価の分岐点は、この『「別れる理由」が気になって』にあるだろう。過去のブログ記事を読み返して、前妻神蔵美子(『たまもの』と末井昭との三角関係ののち離婚あたりから、坪内氏の生活的な危機を乗り超えて、小島信夫にたどり着くあたりになろうか。

いずれにしても、『ストリートワイズ』から『古本的』( 毎日新聞社、2005)あたりまでが、一番興味深く坪内氏を読んでいたことになる。

もちろん、代表作は『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り』(マガジンハウス、2001)になるのかも知れないが、小生にとって小島信夫への接近に意味を見出したことは大きかった。

最近の著作について、追いかけて読むことはなかった。文学理論的だの、文芸批評的だの、理論家だのというより、文学にまつわる雑学的な博覧強記ぶりが、著者の真骨頂だったと思う。その意味では、明治以降の日本近代文学史に関する、坪内氏独自の切り口による大著を60代以降に書き上げて欲しかった。

突然の死。あまりに突然故に、若い写真像の坪内氏の印象が残る。ご冥福を祈りたい。

 

 

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後ろ向きで前へ進む

後ろ向きで前へ進む

 
日本近代文学評論選“明治・大正篇” (岩波文庫)

日本近代文学評論選“明治・大正篇” (岩波文庫)

 

 

 

一九七二―「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」

一九七二―「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」

 

 

 

 

広津柳浪 (明治の文学)

広津柳浪 (明治の文学)

 

 

 

本を読むことは他者の世界を知ること

本の贈りもの2019


今年2019年の書物の収穫を、とりあえず列挙(順不同)してみよう。

 

1.四方田犬彦『聖者のレッスン』(河出書房新社,2019)
四方田犬彦著『聖者のレッスン 東京大学映画講義』は、宗教に関わる聖者が、映画の中でいかに描かれたを語る内容である。四方田犬彦は、研究対象範囲が広く、氏の核心的な思想はどこにあるのかが、非常に掴みにくい。しかし、本書は著者の志向性がよくわかる内容になっている。

 

聖者のレッスン: 東京大学映画講義

聖者のレッスン: 東京大学映画講義

 

 

 


2.『夢見る帝国図書館』(文藝春秋,2019)
中島京子『夢見る帝国図書館』は、図書館をテーマとする作品は数多く書かれているが、本書は、日本近代図書館の歴史にも言及される、究極の図書館小説になっている。何よりその仕掛けが素晴らしい小説。

 

3.『彼自身によるロベール・ブレッソン』(法政大学出版局, 2019)

映画作家へのインタビュー集で代表的なものは、『定本映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(晶文社,1990)だろう。映画製作の過程、撮影方法など、あのシーンはどのように撮影されたのか、など興味深々となるような本である。
同じように『彼自身によるロベール・ブレッソン』を購入し、期待したが、内容をみてみると、ブレッソンの<シネマトグラフ>発言以上のものではないことが分かった。ロベール・ブレッソンへのインタビュー集だが、内容は作品同様きわめてストイックな『シネマトグラフの覚書~映画監督のノート』( 筑摩書房,1987)に続く、作品毎に関するブレッソンの意図が引き出される。しかし、その内容は映画に関するシネマトグラフ論そのものであり、作品解読には繋がらない。本書が、ブレッソン映画の解説やどのように撮影したのかを、『ヒッチコック/トリュフォー』と同じように期待すると裏切られる。清々しいほど、俳優排除、モデル論などに終始する。この間、『罪の天使たち』『田舎司祭の日記』『ジャンヌ・ダルク裁判』『ラルジャン』4本をDVDで再見て、ブレッソンの映画への基本的スタンスが了解できたように思う。どの映画もいわゆる映画的な面白さとは無縁の映画だ。宗教性、カソリック、聖性、無垢、棒読みに近い台詞、部分手とりわけ手や足などに画面が集中される。聖なる映画。ここまで徹底されると心地よい。

 

 

 

4.荒川洋治『霧中の読書』(みすず書房,2019)
荒川洋治の読書エッセイ最新刊『霧中の読書』を読む。このところ、必ず購入著者は少なく荒川洋治はその中の一人で、外れはない。短文が多いが、読むことの楽しさに、真剣さがにじんでいる。中でも気になったのは、以下のくだり。

「ある若手の評論家は、文芸。学術各紙に登場。石牟礼道子について書き、岡倉天心について書き、鈴木大拙原民喜についても書き、河合隼雄須賀敦子について連載し、漱石についての本、茨木についての放送テキストまで刊行。それらはいずれも本格的な長さのもの。誰についてもたくさん書けるのだ。

ある若手の評論家とは、若松英輔氏のことと推測される。確かに若松氏のHPを見ると、かず多くの著作があり、石牟礼道子岡倉天心鈴木大拙原民喜河合隼雄須賀敦子漱石茨木のり子等々、あまりにも多岐にわたる。漱石に関する『こころ異聞』は、拙ブログでも取り上げている。

短い文章が多いけれど、荒川洋治のエッセイ本は、必ず買ってしまう。


5.新國誠一詩集(思潮社,2019)

詩人・新國誠一についてこれまで全く知らなかった。前衛詩人あるいは視覚詩人と言われている。ダダ・シュルレアリスムの影響下に居る詩人と言ってもいいだろう。

「コンクリートポエトリー」とは、言葉の意味を排除し、形式・形態にこだわった詩のことである。新國氏は、国際的には評価されているようだが、現代詩文庫に「新国誠一詩集」が刊行されたのは、2019年8月であり、詩人としての国内的な位置付けがやっとなされた。

言葉を解体し、文字をデザインのように配置する手法。斬新である。

 

 

新国誠一詩集 (現代詩文庫)

新国誠一詩集 (現代詩文庫)

 

 

 

6.バーバラ・ピム著、小野寺健訳『秋の四重奏』(みすず書房,2006)
書棚の奥で見つけた本書を購入から10年以上経過して、読了した。バーバラ・ピム(1913-1980)は、<現代のオースティン>と評価されているようだ。ジェイン・オースティンを未読の者にとって、バーバラ・ピムに言及することは、不遜の誹りを免れまい。『秋の四重奏』の主役は四人、いずれも独身で同じ職場に勤めているが、定年が近い年齢である。平凡などこにでも居そうな人物ばかり。取り立ててこれといった特徴があるというわけではない。職場での昼食、あるいは夏季休暇の取り方、クリスマスの過ごし方などがまず綴られる。やがて、レティとマーシャ、女性二人が退職する。エドウィンとノーマンも近々に退職が控えている様子。


7.秋田麻早子『絵を見る技術』(朝日出版社,2019)

漠然と西洋絵画を見て、例えばベラスケスが好きだだの、ブリューゲルが好きだだの、フェルメールが好きだだのと、気楽に言うことに特別な理論付けなどなかったけれど、科学的・技術的に見る方法を提示されると、なるほどと首肯してみる。しかし、それ以上でも以下でもない。技術的な理屈など後付けであり、体系化するための理論にほかならない。最後に読者の好きな三つ選び、3点の絵画共通した要素をあげ、「私は、・・・などの特徴がある表現が好きです、惹かれます、グッときます、など。とあり、私の3つは、ベラスケス、フラ・アンジェリコ、ボッテチェルリ、ブリューゲルラ・トゥールフェルメールなどの、それぞれ1点が浮かぶが、3点というのは逆に難しい。

 

絵を見る技術 名画の構造を読み解く

絵を見る技術 名画の構造を読み解く

 

 

8.フローベール著,菅谷憲興訳『ブヴァールとペキシェ』(作品社,2019)
フローベールの未完の問題作、『ブヴァールとペキシュ』の完全なる翻訳が、菅谷憲興によってなされ、作品社から刊行された。集英社で出版された『フローベール ポケットマスターピース 07 』に収録された「ブヴァールとペキシェ(抄)」は、抄訳であり、今回作品社版ではじめて完璧な、解説・訳注が付されたわけだ。菅谷憲興は、東大教養部時代には蓮實重彦の映画講義を受けている。その様子は、『論集 蓮實重彦』(羽鳥書店,2016)で、「批評と贅沢――『「ボヴァリー夫人」論』をめぐって」の冒頭、ヒッチコック『めまい』のワンショットを描きながら、フランス文学を専攻する前の自己に言及している。

9.ツルゲーネフ著,工藤精一郎訳『父と子』(新潮文庫
ツルゲーネフの代表作と評価されている。遅ればせながら、読了した。
アルカージーが、友人でありニヒリストでもあるバザーロフとともに、父ニコライ・ペトローヴィチのもとへ帰郷するシーンから物語は始まる。『父と子』について、ナボコフは次のように最大の評価を与えている。


『父と子』はツルゲーネフの最良の長編であるのみか、十九世紀の最も輝かしい小説の一つである。ツルゲーネフは自分が意図したことを、すなわち男性の主人公、一人のロシア青年を創造するという仕事をうまくやってのけた。・・・(中略)・・・ザハロフは疑いもなく強い人間であって、―もし三十過ぎまでいきていたら、この小説の枠を超えて偉大な社会思想家、あるいは高名な医者、あるいは積極的な革命家になったかもしれない人物である。だがツルゲーネフの資質と芸術には共通した弱さがあった。つまり自分が考えだした主人公の枠内で、男性の主人公に勝利を掴ませることができないという弱さである。・・・(中略)・・・ツルゲーネフはいわば自らに課した類型から登場人物を救いだして正常な偶然性の世界に置く。(p172-173『ナボコフロシア文学講義』)


ニヒリストであるバザーロフは、ロシア十九世紀の突出した人物造型がなされている。確かに20世紀以降ではやや奇異な人物にみえる。バザーロフは、アルカージーの伯父パーヴェル・ペトローヴィチと、父の愛人フェニーチカを巡って決斗に至る。パーヴェルの負傷に終わる。アルカージーと、友人バザーロフは、美人の未亡人アンナと妹カーチャの住む家を訪ねるシーンは、『父と子』の中で唯一ロマンティックな読みどころとなっている。バザーロフは、唯一恋らしきものを感じたアンアに介抱されながらも、パンデミックに侵され死亡する。アルカージーは、妹カーチャと結ばれる。父ニコライ・ペトローヴィチは、愛人フェニーチカと再婚にこぎつける。
物語の終わりに蛇足が置かれ、その後の登場人物たちの生活が綴られる。読む者は、ほっと一息つく。しかしながら、これは早すぎたニヒリストの物語であった。
ツルゲーネフを19世紀ロシア文学の中で評価したい。

10.トルストイ著,木村浩訳『復活(上)(下)』(新潮文庫
トルストイの筆は、かつて妊娠させ、娼婦にまで堕落させたカチューシャの裁判に陪審員として参加したとこからはじまる長編。著名な小説ゆえ梗概は略す。

大著『戦争と平和』が、光文社古典新訳文庫で刊行が始まるようだ。


〇追悼和田誠

和田誠氏の訃報が報じられた。2019年10月7日逝去。享年83歳。拙ブログで、『もう一度倫敦巴里』(ナナロク社,2017)に言及したのが最後となった。和田誠といえば、第一に映画『麻雀放浪記』(1984)だろう。冒頭のマージャンシーンで、ワンショットでマージャンの一回分を上がるまで、捉えた撮影は見事だった。『お楽しみはこれからだ』シリーズで、映画の台詞を絵とともに再現した多才かつ稀有ななイラストレーターだった。山田宏一との共著『ヒッチコックに進路を取れ』(草思社,2009)も思い入れがある。年末に『ユリイカ 2020年1月 和田誠』(青土社,2020)が刊行された。もちろん追悼号。寄稿者は誰もが、和田氏への絶賛メッセージを送っている。

 

 

ユリイカ 2020年1月号 特集=和田誠 ―1936-2019―

ユリイカ 2020年1月号 特集=和田誠 ―1936-2019―

 

 〇加藤典洋の死
2019年5月21日の「朝日新聞」に掲載されていた。享年71歳。まだ若いが、平均健康寿命という考えもあろう。いずれにせよ、文芸評論家を職業とする知識人がまた一人いなくなったことは確かだ。『敗戦後論』(講談社,1997)は、論争を喚起させる本だった。とりわけ村上春樹研究を、『村上春樹イエローページ』の形で読者に読む手法を提示したことは評価される。

 

敗戦後論 (ちくま学芸文庫)

敗戦後論 (ちくま学芸文庫)

 

 

 

池内紀の死

2019年8月30日、池内紀氏逝去。ドイツ文学者で翻訳家。多数の著作がある。何よりも、白水社の『カフカ小説全集』6冊が、カフカを読むことの意義を変更させてくれた。文庫本やブロート編集に依拠した新潮社版『カフカ全集』に収録されている日記や書簡も、カフカ作品ではある。しかし、M・ブロートから解放された故に、池内氏が読み解くカフカの小説はこのように構成されると主張する全集は新鮮だった。池内紀の功績は大きい。特に「アメリカ」というタイトルが、カフカ自身は「失踪者」と命名していたことは、一例だが、ブロート編集版からの解放の意義を翻訳で届けた池内紀の名前は消えない。

 

 

失踪者 (カフカ小説全集)

失踪者 (カフカ小説全集)

  • 作者:カフカ
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2000/11
  • メディア: 単行本
 

 

高山宏氏の超弩級・新刊書刊行を待ちながら・・・

トランスレーティッド

 

高山宏『トランスレーティッド』(青土社,2020)を入手した。単行本3冊分の厚さに驚く。高山氏は、翻訳を自ら最も好んだ翻訳と解題を、責務と考える学魔だったことが、この一冊に凝縮されているためよく分かる。

 

トランスレーティッド ―高山 宏の解題新書―

トランスレーティッド ―高山 宏の解題新書―

  • 作者:高山宏
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2019/12/21
  • メディア: 単行本
 

 

 

「訳魔じまい口上」としてあとがきを記している。

僕が翻訳家と呼んで並みはずれた自負と誇りを持つのは、文化動向そのものをゆっくり変えていく大きな見通しというか戦略・戦術をもって翻訳事業を進めていく重要きわまる営みだと捉えてきたからです。
・・・(中略)・・・
翻訳人間・・・その誇りかけて孜々営々とやってきた事業報告が即『トランスレーティッド』という絶対に類書のあり得ない一冊という次第です。これも僕の翻訳の特徴と言われた各作品の巻末解題を総結集するという構成上の
工夫をもって編集方針としました。(913頁)

序の「翻厄こんにゃく、或いは命がけ」は、『ユリイカ』「翻訳作法」特集号から転載し、以下の内容も全て既出の文を掲載している。

第一部「愚神礼賛」(200枚)
第二部「錯視美学」(180枚)
第三部「視と幻想」(90枚)
第四部「視と都市」(170枚)
第五部「システム疲労」(180枚)
第六部「新人文学」(70枚)
跋 解題の解題「あと、これだけは翻訳してあげたい」

以上が、本書の構成である。

 

超人高山宏のつくりかた (NTT出版ライブラリーレゾナント)

超人高山宏のつくりかた (NTT出版ライブラリーレゾナント)

  • 作者:高山 宏
  • 出版社/メーカー: NTT出版
  • 発売日: 2007/08/01
  • メディア: 単行本
 

 

「跋」の「翻厄困訳」は、『超人 高山宏のつくりかた』(NTT出版,2007)と同じ文だ。


これから翻訳したい百冊を記しているが、この時点から既に、何冊か翻訳出版されている。だからこのリストは、変更増補されるべきだが、そのまま再掲しているのは、「訳魔じまい口上」を読むと理解できる。

 

アレハンドリア アリス狩りV

アレハンドリア アリス狩りV

  • 作者:高山宏
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2016/10/25
  • メディア: 単行本
 

 

2016年刊の『アレハンドリア アリス狩りⅤ』(青土社)時点では、視力の低下をタブレットで拡大してネットを見るなど、まだまだ新著の愉しみを期待させるに十分であった。

 

しかし、『トランスレーティッド』で<訳魔じまい>の宣言がなされた。

高山氏は、ポーの「使い切った男」を座右において、

最末期帝国海軍連合艦隊の短期必至・超弩級戦艦さながらの企画が続々と形になる態勢になりました。(912頁)

と現状報告している。

超弩級戦艦さながらの企画が続々と形になる」日を心待ちにしながら、

とりあえずは、この年末・年始は貴重な新着図書『トランスレーティッド』を、じっくり味わいながら読みたい。

 

 【補足】

『見て読んで書いて、死ぬ』(青土社,2016)は、梯久美子『狂うひとー「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社,2016)と同時購入し、後者を優先的に読み、ブログへUPしたので、後回しになっていた。たしか松宮秀治『ミュージアムの思想』(白水社,2003)を取り上げていたはずだ。参考文献に高山氏は「著者の抜群の着眼」と評価していた。「ミュージアムの思想」そのものがいわば「文化帝国主義」と同義であることの指摘により、類書を抜くと高い評価を与えていた。

ウリポ集団の鬼才ジョルジュ・ペレック『美術愛好家の陳列室』(水声社,2006)も、<25.全美術史を壺中に封じる、これも「記憶の部屋」だ>で取り上げられていた。

 首都大学東京で石原某都知事のもと、苦戦を強いられていた「失われた十年」から解放された時期で、最後の書評本となった経緯が、「前口上」や「あとがき」に記されている。現物が見つからず、探していたが見つかったので、付記しておく。

見て読んで書いて、死ぬ

見て読んで書いて、死ぬ

  • 作者:高山宏
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2016/12/07
  • メディア: 単行本
 

 アリス本二冊は、未購入だが、気にかかる。

 

詳注アリス 完全決定版

詳注アリス 完全決定版

 

 

 

新訳 不思議の国のアリス 鏡の国のアリス

新訳 不思議の国のアリス 鏡の国のアリス

 

 二冊の対談本も読了していない。

 

マニエリスム談義: 驚異の大陸をめぐる超英米文学史 (フィギュール彩)
 

 

 

インヴェンション (La science sauvage de poche)

インヴェンション (La science sauvage de poche)

 

 

 

マッツ・ミケルセンの牧師が異彩を放っていた!

映画ベストテン2019

 

恒例の映画ベストテン。今年は87本をスクリーンで見た。ベストテン選出基準は『キネマ旬報2019年12月下旬号』に掲載されている映画(2019年1月1日~12月19日公開)から、あくまで自分の眼で見た結果であり、独断と偏見によるもの。

今年は『スターウォーズ』公開42年にあたる。9部作の完結編である『スカイウォーカーの夜明け』も公開された。公開当日12月20日に見たが、結論から言えば、全6部作で完結が正解であったと思う。


キネ旬の対象外ではあるけれど。そういえば『男はつらいよ』も50周年記念として、『お帰り寅さん』が27日に公開される。これも見逃せない。

まあそれはさておき、なんとか80本はクリアできたことに安堵しよう。

 

【外国映画】
1.ニューヨーク公共図書館(フレデリック・ワイズマン
2.アダムス・アップル(アナス・トマス・イェンセン)
3.グリーンブック(ピーター・ファレリー)
4.バイス(アダム・マッケイ)
5.ブラック・クランズマン(スパイク・リー
6.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(クエンティン・タランティーノ
7.ピータールー マンチェスターの悲劇(マイク・リー
8.永遠の門 ゴッホの見た未来(ジュリアン・シュナーベル
9.ジョーカー(トッド・フィリップス
10.運び屋(クリント・イーストウッド
次点:ハウス・ジャック・ビルト(ラース・フォン・トリアー
  :ROMA/ローマ(アルフォンソ・キュアロン

 

グリーンブック [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: DVD
 

 

 

バイス [DVD]

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  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2019/10/09
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ピータールー マンチェスターの悲劇 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2020/02/04
  • メディア: DVD
 

 

 

永遠の門 ゴッホの見た未来

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運び屋 [DVD]

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フレデリック・ワイズマン『ニューヨーク公共図書館』は文句なしのベスト1。ドキュエンタリーの手法で、図書館の内側と外側を距離を持って描いた傑作である。図書館と来館者を対等に扱い、著名人であろうと一般人であろうと同じ目線だ。この視点の素晴らしさ。
『アダムス・アップル』は、2005年製作のデンマーク映画で、牧師役のマッツ・ミケルセンの演技の素晴らしさが堪能できる。マッツ・ミケルセンは、『永遠の門』でも牧師を演じて、ゴッホが病院に収容されていたとき、彼の悩みに寄り添うように話を聞く姿は、印象に残る。

『グリーンブック』から『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はアメリカ映画。マイク・リー『ピータールー』は、<ピータールーの虐殺>を淡々と主役を敢えて立てない手法でリアリスティックに描いた作品。民主主義を求める民衆と弾圧する王政。なぜか香港で起きている現実を想起させる。
フォアキン・フェニックス演じる『ジョーカー』は、DCコミックの悪役の誕生を悲哀を帯びたピエロとして際立たせる意図と、演技に凝りすぎていることに若干の違和感を持った。

イーストウッドは、このところ実録ものを撮っているが相変わらずうまい。『運び屋』はこの位置になる。

この他では
女王陛下のお気に入り
〇立ち上がる女
〇ギルティ
〇マイ・ブックショップ
〇記者たち
〇ザ・バニシング(1988年作品)
〇ドクター・スリープ
〇希望の灯かり
などが気になった。

なお、ゴダール『イメージの本』は、期待したが『映画史』のような撮り方で、160本以上の映画が引用され、絵画・言葉などとともにコラージュされている。しかし、この手法は『映画史』で十分表現されたので、商業映画に戻るべきだろう。

同じ年齢のクリント・イーストウッドゴダールは、毎年一本映画を撮っている。老いてなおエネルギーが凄い。


【日本映画】
1.新聞記者(藤井道人
2.宮本から君へ(真利子哲也
3.旅のおわり世界のはじまり(黒沢清
4.長いお別れ(中野量太)
5.火口のふたり(荒井晴彦
6.ひとよ(白石和彌
7.カツベン(周防正行
8.決算!忠臣蔵中村義洋
9.記憶にございません(三谷幸喜
10.町田くんの世界石井裕也
次点:天気の子(新海誠

 

新聞記者 [DVD]

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宮本から君へ [Blu-ray]

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旅のおわり世界のはじまり [DVD]

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町田くんの世界[DVD]

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  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2019/11/06
  • メディア: DVD
 

 

『新聞記者』は安倍政権批判の映画。忖度ばやりの状況の中で、よくぞここまで踏み込んだ。評価に値する。
『宮本から君へ』は、熱量が半端ない迫力で、最近の冷めた映画が多いなかでは、貴重な作品。池松壮亮は主演男優賞、蒼井優は主演女優賞もの。
黒沢清『旅のおわり世界のはじまり』は、ウズベキスタンロケによるロードムービー前田敦子は好演。彼女は『町田くんの世界』では、醒めた高校生を演じて絶妙。
『火口のふたり』は、荒井晴彦の世界を、柄本佑瀧内公美が監督の期待に応え熱演してた。
周防正行『カツベン』は、日本独自の活動弁士に光を当て、映画内・無声映画も周防監督自らが撮ったもの。コミカルタッチは、この人の作品歴から当然の力量を示していた。石井裕也町田くんの世界』は、不思議な世界を監督が不思議な世界へ誘っていて秀逸。

コメディが好きなので、二本入った。『決算!忠臣蔵』は、討ち入り費用に着目、実際膨大な金銭がどう使われたのか興味深い。もちろん、討ち入りシーンは演習のみ。討ち入り後の世評の高さを、義士たちは予測し得ただろうか。面白い。岡村隆史がはまり役で、助演賞ものだった。ちなみに、助演女優賞松岡茉優だろう。松岡茉優は『ひとよ』の稲村園子役と『蜂蜜と遠雷』の栄伝亜夜役で、受賞してもいい出来だった。

 

この他では
〇映画めんたいぴりり
〇楽園
人間失格
〇コンフィデスマンJP
〇洗骨
〇ダンス・ウイズ・ミー

〇蜂蜜と遠雷
〇翔んで埼玉
などが気になった。

 

洗骨 [DVD]

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翔んで埼玉 通常版 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: Blu-ray
 

 

 

コンフィデンスマンJP ロマンス編 通常版DVD

コンフィデンスマンJP ロマンス編 通常版DVD

 

 山田洋次監督『男はつらいよ お帰り寅さん』を公開日に見た。如何に渥美清の寅さんを映像に復活させるかに注目されたが、本作の基本は光男(吉岡秀隆)と再会した泉(後藤久美子)の展開に焦点を当てている。光男やさくら(倍賞千恵子)が回想するシーンに、寅さんが甦るのだが、実に見事に映画内に収まっていた。あのメロン・シーンもしっかり引用されていた。この作品は感動ものだ。

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「器官なき身体」あるいはシュルレアリスムのこと

シュルレアリスム宣言

 

 

シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫)

シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫)

 

 

シュルレアリスムを中心に,、20世紀アヴァンギャルドに集中していた。
アンドレ・ブルトンの『ナジャ』は、人文書院の全集で未読だったが、今回岩波文庫でも読了できなかった。

 

ナジャ (岩波文庫)

ナジャ (岩波文庫)

 

 

アンドレ・ブルトンシュルレアリスム宣言』を、延べ30余年かけてやっと読了した。

シュルレリスム。男性名詞。心の純粋な自動現象であり、それにもとづいて口述、記述、その他あらゆる方法を用いつつ、思考の実際上の働きを表現しようとくわだてる。理性によって行使されるどんな統制もなく、美学上ないし道徳上のどんな気づかいからもはなれた思考の書きとり。(46頁「シュルレアリスム宣言」岩波文庫

 

スウィフトは悪意においてシュルレリストである。
サドはサディズムにおいてシュルレリストである。



ボードレーリは道徳においてシュルレリストである。
ランボーは人生の実践その他においてシュルレリストである。
マラルメは打ち明け話においてシュルレリストである。



ルーセルは逸話においてシュルレリストである。
等々。(47-48頁「シュルレアリスム宣言」岩波文庫

 

 言語とは、シュルレアリスム的に用いられるように人間にあたええられているものだ。(59頁「シュルレアリスム宣言」岩波文庫

 

以上、引用を試みた。

判然としないが、100年後も、アンドレ・ブルトンの評価は高いようだ。

 

ヘリオガバルス: あるいは戴冠せるアナーキスト (河出文庫)

ヘリオガバルス: あるいは戴冠せるアナーキスト (河出文庫)

 

 アントナン・アルトーヘリオガバルス あるいは戴冠せるアナーキスト』(河出文庫,2016)読了。

 

ギボンは、『ローマ帝国衰亡史』において「最悪の皇帝」との評価を下したが、退廃的な、性的倒錯者として、歴代ローマ皇帝のなかでも特筆に値する、というのがヘリオガバルスへの評価だろう。

 

 

神の裁きと訣別するため (河出文庫 (ア5-1))

神の裁きと訣別するため (河出文庫 (ア5-1))

 

 

しかしながら、アントナン・アルトーは、『ヘリオガバルス』をギリシア悲劇的な残酷劇として謳いあげた。実に、畏怖すべき作品につくりあげている。

後に『神の裁きと訣別するため』(河出文庫,2006)において、

人間は病んでいる、人間は誤って作られているからだ。
・・・(中略)・・・
人間に器官なき身体を作ってやるなら人間をあらゆる自動性から解放して真の自由にもどしてやることになるだろう。(44-45頁「神の裁きと訣別するため」)

 

 アルトーにおける器官なき身体」とは、ヘリオガバルスを想起しながら、真に自由なる人間への変容を期待したのではないだろうか。

アルトーは、確かに器官なき身体という言葉を使用した。この器官なき身体という言葉は、後に、ドゥルーズ=ガタリが『アンチ・オイディプス』で、基本的な概念として使用していることは周知のとおりである。

 

アンチ・オイディプス(上)資本主義と分裂症 (河出文庫)

アンチ・オイディプス(上)資本主義と分裂症 (河出文庫)

 

 

 

アンチ・オイディプス(下)資本主義と分裂症 (河出文庫)

アンチ・オイディプス(下)資本主義と分裂症 (河出文庫)

 

 

けれども、「器官なき身体」や「戦争機械」など、未だに理解することが困難な用

語であることに変わりない。

 

文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7)

文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7)

 

 

 

シュルレアリスムに関連して、レイモン・クノーの『文体練習』の朝日出版社版を持っていたはずだと思い、書棚何カ所を探してみたが、見つからない。やむを得ず、水声社版の『レイモン・クノーコレクション』7巻の『文体練習』を古書店にて求める。

 

冒頭に「1.覚え書」が置かれ、その内容について、99の文体で表現される。この実験的試みは、ウンベルト・エコーやイタロ・カルビーノに影響を与えた。

 

地下鉄のザジ (中公文庫)

地下鉄のザジ (中公文庫)

 

 

レイモン・クノーといえば、映画化された『地下鉄のザジ』で知られるが、反シュルレアリスムのグループ「ウリポ」に所属していた。しかしながら、『文体練習』は「ウリポ」結成以前に出版されており、むしろ、前衛文学者というべきだろう。

 

シュルレアリスムは「超現実主義」と翻訳される、一種の前衛運動であり、カウンターカルチャーだろう。前衛運動とすれば、続く、ヌーヴォーロマンの位置づけはどうなるのだろうかなどと考える。

 

 気がかりなシュルレアリスムは、読むことの愉悦が少なく、19世紀文学がはるかに楽しく読めるというアイロニー、そんな心境にある。

 

シュルレアリスムを理解するための今回読んだ参考文献は以下に列挙しておく。

 

巌谷國士シュルレアリスムとは何か』(ちくま学芸文庫,2003)

 

シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫)

シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫)

 

塚原史『ダダ・シュルレアリスムの時代』(ちくま学芸文庫,2003)

 

ダダ・シュルレアリスムの時代 (ちくま学芸文庫)

ダダ・シュルレアリスムの時代 (ちくま学芸文庫)

 

 〇塚原史『切断する美学―アヴァンギャルド芸術思想史 』(論創社,2013)

 

切断する美学―アヴァンギャルド芸術思想史

切断する美学―アヴァンギャルド芸術思想史

 

 

塚原史ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動』(岩波現代全書,2018)

 

ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動 (岩波現代全書)

ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動 (岩波現代全書)

 

 〇斎藤哲也『零度のシュルレアリスム』(水声社,2011)

 

零度のシュルレアリスム (水声文庫)

零度のシュルレアリスム (水声文庫)

 

塚原史、後藤美和子訳『ダダ・シュルレアリスム新訳詩集』(思潮社,2017) 

 

ダダ・シュルレアリスム新訳詩集

ダダ・シュルレアリスム新訳詩集

 

 

モーパッサンは面白い

わたしたちの心

 

ブヴァールとペキュシェ

ブヴァールとペキュシェ

 
フロ-ベール『ブヴァールとペキュシェ』(作品社,2019)の読書とともに、どういわけか、師フローベールによって激賞された『脂肪の塊』から、モーパッサンの短編・編群にのめり込み、『わたしたちの心』(岩波文庫,2019)に遭遇することとなった。
 

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わたしたちの心

『わたしたちの心』は、モーパッサンの遺作でありながら、遺作とは思えな内容。

19世紀の男と女の心理的かけひきが、如何ともしがたい状態に陥り、そこから抜け出せない奇妙な関係、それは自立した女性に翻弄される男性というきわめて現代的な問題として、きわめて斬新な作品として甦ったといっても過言ではない。

 

『わたしたちの心』がモーパッサンの最後の長編とは思えないほど、若やいだ官能と苦痛を描いている。趣味人マリオは、社交界に君臨するビュルヌ夫人に魅せられ、人生を翻弄されることになる。


第二部の終末に至り、やっとビュルヌ夫人への別れの手紙を書き、パリを離れ、フォンテーヌブローに居を構え、若きエリザベトと出会う。やすらぎを得たかと思いきや、田舎まで蠱惑的なビュルヌ夫人がやってくる。そしてまたも、夫人に惑わされ、パリへ行くことになりそうだ。


読む者にとって、死を前にしたモーパッサンが、このような濃密な恋愛遊戯劇を書いたとは、どうしても考えられない。とりわけ、師の『ボヴァリー夫人』に影響を受けたであろうと思わせる『女の一生』を書きながらも、遺作は、『わたしたちの心』であったことが、逆にモーパッサンらしいのかも知れない。

 

 

宝石/遺産 (モーパッサン傑作選)

宝石/遺産 (モーパッサン傑作選)

 

  光文社古典新訳文庫の二冊『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』『宝石/遺産』、岩波文庫モーパッサン短編選』を読了する。

 

モーパッサン短編集(一) (新潮文庫)

モーパッサン短編集(一) (新潮文庫)

 

 短編「首飾り」と「宝石」は、よく似た妻の宝石に関するお話。モーパッサンの短編には「落ち」があり、読者としては、読む楽しみがある。

 

ボヴァリー夫人 (河出文庫)

ボヴァリー夫人 (河出文庫)

 

 師のフロ-ベール『ボヴァリー夫人』は、はらはらしながらも読了できたが、遺作となった『ブヴァールとペキュシェ』は、読書が進捗しないのだ。著者の意図するところは解かるのだが、物語としては愚鈍な試みの連続にうんざりしてしまう。いまだ読書中だが、途中から、モーパッサンに横滑りしてから、次々と文庫本を読了してしまうほど面白い。かつ現代においても、同じような人間の生活がある。

 

女の一生 (光文社古典新訳文庫)

女の一生 (光文社古典新訳文庫)

 いいま

新潮文庫の『モーパッサン短編集』全三冊を読む楽しみが残されている。奇しくも、いま、<読書週間>が始まっている。

 

モーパッサン短編集(二) (新潮文庫)

モーパッサン短編集(二) (新潮文庫)

 

 

 

モーパッサン短編集(三) (新潮文庫)

モーパッサン短編集(三) (新潮文庫)

 

 

 

 

太宰よりも安吾を好む

人間失格

蜷川実花監督『人間失格太宰治と3人の女』(2019)を見た。

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映画の設定は、昭和21年から始まり23年で終わる。戦後の混乱期だが、映像は時代感覚を混乱させるほど美しく、花が絢爛豪華に咲き、画面を浮遊する。戦後の時代の雰囲気や衣装などは、汚れてきたないはずだが、蜷川監督は全く気にせず、全てを美しく撮っている。

 

太宰治小栗旬)は、戦後文壇の中で傑作を書くべく模索したいた。そこに沢尻エリカ(太田静子)から誘いの手紙が届く。太宰の自宅では、妻・美智子(宮沢りえ)が二人の子どもを育てながら夫を支え、3人目の子どもを妊娠している様子。

 

沢尻エリカとの出会いは後に、『斜陽』として作品化され、ベストセラー作家となる。

蜷川実花氏は、実話をもとにしたフィクションとことわっている。

 

ヴィヨンの妻』にまつわる評判や、志賀直哉への批判『如是我聞』を編集者(成田凌)に、口述筆記させる。

更に、後に心中する相手、山﨑富栄(二階堂ふみ)の援助を受けて、『人間失格』を完成させるなど、基本的に事実ベースを押さえている。

太宰治の戦後を、これほど鮮やかに美しく切り取ったのは、蜷川実花氏の卓抜した表現力だったと思う。

 

三人の女性、宮沢りえ沢尻エリカ二階堂ふみは、それぞれ個性が発揮されており、とりわけ、夫人役の宮沢りえは、太宰死後マスコミが殺到しても、平気で洗濯を始める光景は、女性の強さを体現し圧倒される。沢尻エリカも、太宰を利用して自ら作家的に『斜陽日記』を刊行してみせるところなど、誇らしげである。二階堂ふみは、自らの自殺願望に太宰を誘い込み、意地をみせる。それぞれ好演といえるだろう。

 

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太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫)

太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫)

 

 

 

随分長い間、太宰治を回避してきた。持っているのは、ちくま書房版の文庫全集10冊。戦後に関わる作品だけでも再読してみたいと思わせる。

 

もう一つの太宰治伝 桜桃とキリスト (文春文庫)

もう一つの太宰治伝 桜桃とキリスト (文春文庫)

 

 太宰治に関する論文や関係本は多数ある。奥野健男太宰治』を既読しているが、書架を探してもみつからない。長部日出雄『桜桃とキリスト』(文藝春秋,2002)が書家で見つかった。太宰が、美知子夫人との出会いから始める、興味深い評伝だった。

 

 最近では、『太宰よ!45人の追悼文集』(河出文庫,2018)が刊行されている。
如何に多くの作家や、評論家が太宰に想いを寄せていたかが解かる読み物だ。

 

 

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映画では、安吾役の藤原竜也が線が細いのは、やむを得ないだろう。

 

坂口安吾は、太宰の情死について下記のように記している。

どんな仕事をしたか、芸道の人間は、それだけである。吹きすさぶ胸の嵐に、花は狂い、死に方は偽られ、死に方に仮面をかぶり、珍妙、体をなさなくとも、その生前の作品だけは偽ることはできなかった筈である。
 むしろ、体をなさないだけ、彼の苦悩も狂おしく、胸の嵐もひどかったと見てやる方が正しいだろう。
この女に惚れました。惚れるだけの立派な唯一の女性です。天国で添いとげます、そんな風に首尾一貫、恋愛によって死ぬ方が、私には、珍だ。惚れているなら、現世で、生きぬくがよい。
 太宰の自殺は、自殺というより、芸道人の身もだえの一様相であり、ジコーサマ入門と同じような体をなさゞるアガキであったと思えばマチガイなかろう。(「太宰治情死考」)

 安吾の太宰情死解釈は、納得できるものだ。

 

 太宰は文庫版全集だが、安吾は、筑摩書房版『坂口安吾全集』を持っている。

太宰よりも安吾を好むと言いたい。生きることは「堕落」することであり、安吾は47歳で死去するも、最後まで求道精神で生き抜いた。

 

坂口安吾全集〈06〉

坂口安吾全集〈06〉

 

 

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)