2010-01-01から1年間の記事一覧

もうすぐ絶滅するという紙の書物について

電子書籍元年と言われた一年であった。関連本の出版も相次いだ。 一番本質をついていると思われるのは、ウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールの対話本『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(阪急コミュニケーションズ)であった。 もう…

本の収穫2010

映画に続いて、書物。 今年度の主な読了本・収穫本は以下のとおり。 渡辺京二『黒船前夜』(洋泉社) マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』(早川書房) マイケル・サンデル『完全な人間を目指さなくてもよい理由』(ナカニシヤ出版) 内田樹『街場…

映画ベストテン2010

今年を回顧する時期となった。まずは映画から。今年スクリーンで観た映画は、80本。少なくなった分は、ソクーロフ、カネフスキー、スコリモフスキ、フリッツ・ラングなどの旧作をDVD-BOXでみているので、トータルとしては年間100本以上になるだろう。徐々に…

パンとペン

女性作家の文章に<敬愛の念>を抱く。そんなケースは10年に一度くらいある。 10年前は、須賀敦子氏『ミラノ霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』など一連のイタリアへの、追憶のエッセイであった。 ミラノ霧の風景―須賀敦子コレクション (白水Uブックス―エ…

完全な人間を目指さなくてもよい理由

マイケル・サンデル著『完全な人間を目指さなくてもよい理由』(ナカニシヤ出版,2010)は、現在「ハーバド白熱教室」や東大安田講堂での講義であまりにも著名な政治哲学の教授が、生命倫理、とりわけ「エンハンスメント」*1について言及した小冊子を翻訳し…

日本を甦らせる政治思想

公正な税制に関連して、読了していたマイケル・サンデル『これから正義の話をしよう』(早川書房、2010)に関係する「政治思想」についての見取り図を確認すべく、菊池理夫著『日本を甦らせる政治思想 現代コミュニタリアニズム入門』(講談社現代新書、2007…

消費税のカラクリ

斎藤貴男『消費税のカラクリ』(講談社現代新書、2010)は、消費税の仕組みや、なぜ消費税の未納率が高いのかについてしっかり説明されている。冒頭で結論的に次のように書かれている。 消費税のカラクリ (講談社現代新書)作者: 斎藤貴男出版社/メーカー: 講…

街場のメディア論

内田樹『街場のメディア論』(光文社、2010)を、著者からの贈り物として読んだ。まず、冒頭における「キャリア教育」批判には大いに賛同する。現在多くの大学で、「キャリア教育」と称して二年生から、早い大学では一年生から始められている、あの「自己発…

17歳の肖像

『プレシャス』とは一見、対照的な環境にある16歳の少女ジェニー(キャリー・マリガン)は、オックスフォード大学を目指すエリート女学生。彼女は中年の男性デイビッド(ピーター・サースガード)に魅かれ恋をし、17歳で結婚まで決意するが、男性が既婚者で…

プレシャス

アカデミー賞助演女優賞受賞で話題となった『プレシャス』(Push, 2009)を観た。アフリカ系アメリカン(黒人)で、ハーレム育ちの少女クレアリース・「プレシャス」・ジョーンズ(ガボレイ・シディベ)の眼で捉えた現実。 プレシャス [DVD]出版社/メーカー: …

週刊東洋経済「哲学入門」

『週刊東洋経済』2010年8/14−21号が、「実践的「哲学」入門」を特集している。少し前なら考えられないことだ。もちろん、マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』が、学生・学者ではなく、30代のビジネスマンが多く購読しているという実態を踏…

アリス・イン・ワンダーランド

ティム・バートン&ジョニー・デップの『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)を観る。3Dで製作されているが、通常の画面で十分だ。映画の3Dはこれまで何度も試みられたが、ジェームス・キャメロン『アバター』の成功により、映画は一見3D化に向かっ…

スラヴォイ・ジジェクによる倒錯的映画ガイド

『スラヴォイ・ジジェクによる倒錯的映画ガイド』(The Pervert's guide to Cinema,2006)がDVD化され、注文していた商品が発売日(8月6日)に届いた。監督ソフィー・ファインズは、俳優レイフ・ファインズやジョセフ・ファインズの姉である。 [rakuten:surp…

図書館の歩む道

図書館の歩む道―ランガナタン博士の五法則に学ぶ (JLA図書館実践シリーズ 15)作者: 竹内悊出版社/メーカー: 日本図書館協会発売日: 2010/05メディア: 単行本 クリック: 8回この商品を含むブログ (1件) を見る いずれ図書館には、紙媒体の書物は消失し、電子…

松岡正剛の書棚

千夜千冊で周知の松岡正剛が、丸善丸の内店4階に「松丸本舗」として書棚構成を展開している。この度『松岡正剛の書棚』(中央公論新社、2010.7)が、書物化された。 松岡正剛の書棚―松丸本舗の挑戦作者: 松岡正剛出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2010/0…

電子書籍を読む!

『ユリイカ2010年8月号』(青土社)の特集は「電子書籍を読む!」であり、あたかも2010年が「電子書籍元年」を象徴しているように見えるが、実は電子書籍なるものは、1990年代から例えばCD-ROMのような形式を借り、パッケージとして流通していた。ユリイカ20…

図書館情報学検定試験問題集

ここで、根本彰[ほか]共著『図書館情報学検定試験問題集』(日本図書館協会、2010)が登場する。 図書館情報学検定試験問題集作者: 根本彰出版社/メーカー: 日本図書館協会発売日: 2010/05メディア: 単行本 クリック: 22回この商品を含むブログ (4件) を見る…

ブックビジネス2.0

岡本真・中俣暁生編著『ブックビジネス2.0 ウッブ時代の新しい本の生態系』(実業之日本社、2010)は、2010年を電子書籍元年として、在るべき本の生態系を示すことを志向している。7編の論考のうち、最も関心を引くのは、国立国会図書館長・長尾真の「ディジ…

よみがえる市川雷蔵

昨日のブログで時代劇復活に言及したので、時代劇最盛期のスター俳優であった市川雷蔵について記録しておきたい。 新・平家物語 [DVD]出版社/メーカー: 角川エンタテインメント発売日: 2009/11/27メディア: DVD クリック: 37回この商品を含むブログ (12件) …

必死剣鳥刺し

時代劇の復活は、藤沢周平原作、山田洋次監督『たそがれ清兵衛』(2002)から始まった。山田洋次は藤沢時代劇三部作として、『隠し剣鬼の爪』(2004)『武士の一分』(2006)と併せて、時代劇映画復活の嚆矢となった。たそがれ清兵衛 [DVD]出版社/メーカー: …

漱石はどう読まれてきたか

石原千秋『漱石はどう読まれてきたか』(新潮選書、2010)が面白い。ほぼ同じ時期に出た小森陽一『漱石論』(岩波書店、2010)も、石原氏の読み方の中に収まるだろう。 漱石はどう読まれてきたか (新潮選書)作者: 石原千秋出版社/メーカー: 新潮社発売日: 20…

緊急発言 普天間基地圏外移設案

大澤真幸氏による緊急出版(ネット版)本、『緊急発言 普天間基地圏外移設案』(朝日出版社,2010.5.11)に大いに参成する。(http://www.asahipress.com/)この小冊子は、きわめて論理的に「普天間基地の廃止論」を展開している。つまり「県外」ではなく「圏…

森銑三著作集・索引

森銑三には、『森銑三著作集 13巻』(中央公論社、1970−1972)と『森銑三著作集 続篇 17巻』(中央公論社、1992−1995)の二つの正続著作集がある。更に、著作集から漏れた作品を集めた小出昌洋編『森銑三遺珠1・2』(研文社、1996)がある。 初期文章・…

チェチェンへ アレクサンドラの旅

アレクサンドル・ソクーロフ『チェチェンへ アレクサンドラの旅』(2007)をスクリーンで観た。ソクーロフ作品をスクリーンで観る機会は少ない。貴重な機会を逃したくない。本作はソクーロフ自らが脚本を書いたもので、ロシア軍駐屯地を訪れる祖母アレクサン…

電子図書館

国立国会図書館長の長尾真氏による『電子図書館 新装版』(岩波書店、2010)が出版された。元の版が1994年であり、Windows95発売以前であったことを思うと、インフラとしての電子的環境はほぼ予想されたように進捗している。しかし、肝心の電子図書館に関す…

黒船前夜

渡辺京二が、『逝きし世の面影』(葦書房、1998・平凡社ライブラリ、2005)において幕末・明治初期に、外国人から見た記録をもとに前近代の<江戸文明>というべき財産を描いて、いまなお読み継がれている。 黒船前夜 ~ロシア・アイヌ・日本の三国志作者: 渡…

日本の公文書

2月13日付け『朝日新聞(大阪版)』に、国立国会図書館館長・長尾真氏のインタビュー「日本文化のデジタル化」が掲載されている。2007年に長尾氏が館長に就任して以来、電子化が加速されグーグルの英語支配に対して日本語文化を守るためにも、出版業界との連…

東京新聞の気概

政治について拙ブログで書くことはまずない。原則として書かないことにしていた。昨年9月の「政権交代」は、私が選挙に参加し始めて以来、画期的な出来事だったが敢えて触れなかった。しかしながら、2月7日(日)付けの『東京新聞』社説は、他紙を圧する傑出…

みすず読書アンケート2009

毎年、年度初めの愉しみの一つは、今年の出版予定でありいまひとつが『みすず』1/2月号の「読書アンケート特集」である。本日、入手した『みすず』1/2月号を早速チェックする。関心を持つ著者が5冊にどんな本をあげているか、また、多くの著者が収穫として重…

エリック・ロメール追悼

2010年1月12日の新聞報道で、ヌーヴェル・ヴァーグの牽引者エリック・ロメールの訃報(11日他界)が伝えられた。かつて「覚書」として記録した「優雅で繊細な古典的恋愛喜劇」作家としてのロメール論を以下に貼付することで追悼にかえたい。 【優雅で繊細な…