2005-01-01から1年間の記事一覧

本の収穫2005

各種雑誌・新聞等で、著名人が「今年の収穫」として、3冊から5冊を挙げて、コメントを付している。拙ブログの建前は「独断と偏見による『読書』と『映画鑑賞』の記録」としているので、昨日の映画に続いて「書物」のまとめをしておきたい。 何といっても、私…

2005年映画ベスト10

年末恒例の回顧2005年。まずは映画から今年のベスト10を選んでみた。スクリーンで観た映画が旧作を含めると123本。年間100本が目標なので、今年は目標をクリアした。映画館で観た映画から、『キネマ旬報』2006年1月上旬号の「ベストテン選出用作品リスト」…

文芸時評という感想

『近代文学』1946年2月号に掲載された小林秀雄を囲む座談『コメディ・リテレール』は、荒正人、小田切秀雄、佐々木基一、埴谷雄高、平野謙、本多秋五が、小林秀雄に聴くという形の座談会だが、『小林秀雄全集第八巻』(新潮社、2001)に収められているのを…

SAYURI

オリエンタリズムという一語では表現することができない『SAYURI』(Memories of a Geisha,2005)は、一編の寓話として、観るべきものがある。1930年代から1940年代の日本の雰囲気を、昼間の明るさと薄暗い花街を照明による陰影に工夫がこらされていてその色彩…

小林秀雄対話集

小林秀雄対話集 (講談社文芸文庫)作者: 小林秀雄,秋山駿出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/09/10メディア: 文庫 クリック: 19回この商品を含むブログ (26件) を見る 『小林秀雄対話集』のなかで、小林秀雄はヨーロッパ旅行について、永井龍男との対談で語…

アラマタ図像館5

荒俣宏『アラマタ図像館5、エジプト』(小学館文庫)をじっくり読む、というより視る。ナポレオンのエジプト遠征は、文化的に大きな遺産を残した。ナポレオンは否定的に評価される傾向にあるけれど、エジプト遠征はもちろん軍事的行動であったが、170名に及…

図書館総合展

12月2日、パシフィコ横浜で開催されていた「図書館総合展」へ行って来た。雄松堂書店主催のフォーラムにて、荒俣宏の講演「発見されたエジプト」を拝聴した。荒俣氏の実家には一冊の本もなく、少年当時にあった貸本屋ではじめて本と出会う。それがマンガ本で…

クオリア降臨

クオリア降臨作者: 茂木健一郎出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2005/11/25メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (41件) を見る 茂木健一郎『クオリア降臨』、タイトルが凄い。文芸評論家の批評が面白くないのは「文芸批評」というフレーム…

エリザベスタウン

キャメロン・クロウには、ビリー・ワイルダーから聞き書きした『ワイルダーならどうする?』(キネマ旬報社、2001)があり、映画監督が前世代の監督に話を聴くスタイルとしては、フランソワ・トリュフォーがヒッチコックを相手に作品毎の手法やセオリーを聴…

団扇の画

随筆集 団扇の画 (岩波文庫)作者: 柴田宵曲,小出昌洋出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2000/08/17メディア: 文庫 クリック: 18回この商品を含むブログ (8件) を見る 川本三郎が10回にわたり、「柴田宵曲のいた時代」を朝日に連載していた。大きな物語が終…

近代文学の終わり

近代文学の終り―柄谷行人の現在作者: 柄谷行人出版社/メーカー: インスクリプト発売日: 2005/11/01メディア: 単行本 クリック: 18回この商品を含むブログ (40件) を見る 柄谷行人の『近代文学の終わり』の標題講演と、「歴史の反復について」を読めば、今日…

街場のアメリカ論

街場のアメリカ論 NTT出版ライブラリーレゾナント017作者: 内田樹出版社/メーカー: NTT出版発売日: 2005/10/13メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 2人 クリック: 11回この商品を含むブログ (71件) を見る アメリカナイズされた社会だの、グローバリゼー…

ALWAYS 三丁目の夕日

映画の舞台となる昭和33年とは、戦後13年目で、中世から続いてきた日本人の生活スタイルが高度成長期の入り口になり、大きく変容し始める年。また東京タワーが完成した年でもある。 昔は良かったという単純な話で終わりになっている、と書いてしまえば見もふ…

TAKESHIS'

「北野たけし」と「ビートたけし」を演じる俳優にして監督。スターである「ビートたけし」と、コンビニでバイトをしながら、オーディションを受け続ける「北野たけし」を描いているのだが、冒頭の『戦場のメリークリスマス』から『その男、凶暴につき』や『…

埋もれ木

『泥の河』でデビューした小栗康平の到達した場所が、『埋もれ木』であるとすれば、この先、小栗氏はどのような方向に進むのか、換言すれば、徹底したリアリズム手法から、次第に映像表現に主体を移し、物語の解体と抽象化の極地に達してしまった。作品とし…

比類なきジーヴス

およそ「書評」として成立しがたい類の書物がある。ユーモア小説などがその典型であろう。洗練されたユーモア小説とは、寅さんではないけれど「てめえ、さしずめインテリだな」と揶揄される知識人が好むジャンルでもある。探偵小説はまだ「書評」が成立する…

悪い男

『サマリア』で救いがないと書いたけれど、『悪い男』のラストはフェリーニの『道』そのものであり、ハンギとソナは救われている。ラストショットとして理解可能なシーンが三つあり、冒頭で二人が出会ったベンチに、二人が座り別れるシーンが最初。ここで終…

春夏秋冬そして春

湖水に浮かぶ寺院。この光景だけで、すでに絵になっている。幼年時代の春から少年時代の夏へ。春=幼年時代に、動物へのいたずら故、老師から重い石を背中に負う戒めを受ける。 夏=少年時代、気の病を帯びた少女が母親に連れられて湖上の寺院にやってくる。…

蔵書を残すこと

一般的には、学者・研究者・趣味人・文士などは、死してのち蔵書を残す。その蔵書構成を見れば、その人の関心領域などを覗うことができる。ある知り合いの学者が亡くなられ、未亡人から蔵書を見せていただいた。学説史研究が専門であったので、当該分野の基…

四月の雪

ホ・ジノは、日本でリメイクされる『八月のクリスマス』と『春の日は過ぎゆく』の二本で知られている。主演にペ・ヨンジュンを迎えた『四月の雪』(原題は「外出」)は、話題が先行しているが、あくまで、ホ・ジノの作品として観るべきフィルムである。 八月…

私の頭の中の消しゴム

コンビニで出会うソン・イェジンとチョン・ウソンは、相手が飲もうとしているコーラの缶をソン・イェジンがいきなり、奪って飲み、缶を相手に返す。同じことが、逆パターンで繰り返される。不倫相手に捨てられた傷心のソン・イェジン、家庭の崩壊と母との葛…

図書館を使い倒す

図書館本というジャンルがあるかどうか寡聞にして知らないけれど、いわゆる図書館学関係の専門書の類ではない、図書館活用のための新書版に、思わぬ収穫を得ることがある。千野信浩著『図書館を使い倒す!』も、この種の図書館本だが、週刊誌記者から見た図…

蝉しぐれ

文四郎(市川染五郎)と小和田逸平(ふかわりょう)が、おふく(木村佳乃)を救うため、決死の覚悟で、楓御殿に向かい、そこで刺客と真剣で闘うシーンがある。あるだけの刀を畳に突き刺し、刀を変えながら刺客たちと、真剣を交えるシーンが迫力ある。はじめ…

リンダリンダリンダ

高校の文化祭前日から最終日、女子高生たちのロックバンドが、ブルーハーツの曲を体育館で演奏するまでのお話。高校生の日常が、きわめて自然に、いかにものリアルさで撮られている。文化祭前日に、前田亜季が廊下を移動しながら、各教室を回るシークエンス…

サイドウェイ

ダメ中年男二人のロード・ムービー。カリフォルニア・ワインの産地巡りの旅。監督は、『アバウト・シュミット』のアレクサンダー・ペイン。小説家志望の中年男マイルスは、『シンデデラマン』でラッセル・クロウのマネージャー役を見事にこなした脇役ポール…

この胸いっぱいの愛を

『黄泉がえり』で感動をもたらした塩田明彦の、タイムスリップもの。2006年から1986年へ。場所は門司。比呂志(伊藤英明)が20年前に過ごした門司へ、出張で飛行機に乗る。到着した門司は、1986年だった。 「泣ける映画」が流行っているらしい。けれども、『…

小林秀雄講演CD

小林秀雄講演(CD)を、毎日一巻づつ購入し、結局五巻を手元に持つことになった。第一巻『文学の雑感』*1、第五巻『随想二題〜本居宣長』*2を聴く。小林秀雄の声は甲高く、志ん生落語を聴く雰囲気があり、講演冒頭の枕のふり方など、見事な落語になってい…

信ずることと考えること

茂木健一郎の『脳と仮想』に導かれて、小林秀雄の講演『信ずることと考えること』と『現代思想について』『本居宣長』をこの連休に聴いていた。小林秀雄の文章は、難解であり、考え抜かれたレトリックを駆使しているので、『本居宣長』やベルグソン論である…

考える人

『考える人』14号を購入した。この種の雑誌はなるべく、購入しないことにしている。第一雑誌として大きすぎるし、分厚いので、保存するのに困る。連載ものは、単行本としてまとめられたとき、購入した方が読みやすい。したがって、購入するには余程の理由が…

ライフ・イズ・ミラクル

ユーゴスラビア崩壊のあと、ボスニア戦争があったことが忘れられようとしている。エミール・クストリッツァ『ライフ・イズ・ミラクル』(2004)は、彼独自の祝祭的空間の中で突然起きた戦争の悲劇を、一種ユーモラスに描きながらも、民族争いのむなしさや、…