2008-01-01から1年間の記事一覧

芸術崇拝の思想

松宮秀治『芸術崇拝の思想ー政教分離とヨーロッパの新しい神』(白水社、2008)を読了した。既に柄谷行人と三浦雅士が書評を書いているので、主な論点を整理するため、まず二人の書評を引用しておく。 芸術崇拝の思想―政教分離とヨーロッパの新しい神作者: …

2008映画ベストテン

2008年に映画館で観た映画は、82本。これまで100本を年間目標にしてきたが、今年から80本に下げた。目標を下げたので、何とかベストテンの選出ができそうだ。【日本映画】 「トウキョウソナタ」(黒沢清) 「おくりびと」(滝田洋二郎) 「実録・連合赤軍」…

2008年本の収穫

【書物2008年】 ◎ドゥルーズ『シネマ1*運動イメージ』(法政大学出版局、2008.10)シネマ 1*運動イメージ(叢書・ウニベルシタス 855)作者: ジル・ドゥルーズ,財津理,齋藤範出版社/メーカー: 法政大学出版局発売日: 2008/10/01メディア: 単行本購入: 4人 ク…

老魔法使い

12月22日(月)の『朝日新聞』(大阪版)で、「種村季弘は終わらない」の記事を見た。『ぺてん師列伝』からの引用で紹介が始まる種村季弘の不在は、テクストの輝きによって不滅ではあるが、新作が読めないことの寂しさは否めない。今年6月に出版された翻訳…

雑誌記事索引のRSS配信

国立国会図書館「雑誌記事索引」の新着記事RSS配信が可能となった。国会図書館のデジカルアーカイブである「PORTA」の登場以来、国会図書館は強烈に進化し続けている。「PORTA」は、デジタルアーカイブや目録・索引、さらにウェブサイトなどを検索対象と…

風のガーデン(最終回)

TV

12月11日(木)放映で、貞美(中井貴一)と父貞三(緒形拳)は和解のあと、貞美の最後の希望が娘ルイ(黒木メイサ)とヴァージンロードを歩くことであることを知り、貞三がルイに形だけの結婚式を挙げて、死を前にした貞美の願望を叶えるべく、貞美の同級生…

風のガーデン

TV

普段はほとんどテレビドラマを見ない。観たいと思うドラマがないからだ。ところが、倉本聡脚本『風のガーデン』を見はじめて、このドラマの素晴らしさに気づいた。大人が観るに耐え得る良質な作品になっている。 風のガーデン作者: 倉本聰出版社/メーカー: …

加藤周一氏の逝去

今朝の新聞により、加藤周一氏の訃報を知る。戦後日本の最後の知識人だった。いわゆる偉大なる知識人は、加藤氏の死によって不在となった。戦後の知識人として代表的な丸山眞男、埴谷雄高、吉本隆明などが直ちに想起されるが、吉本氏のみいまだ健在・現役で…

アキレスと亀

無表情のビートたけしが、妻樋口可南子に支えられ川沿いを歩くシーン。北野武監督『アキレスと亀』(2008)は、芸術の評価の基準の曖昧さと、「芸術」にとりつかれながら主体性を持たない一人の男の半生を実にシニカルに捉えたフィルムになっている。 アキレ…

街場の教育論

内田樹『街場の教育論』(ミシマ社、2008)には、近年注目されているユビキタス教育を批判してる個所がある。いつでも、どこでも受けられるウェブ大学なるものとは、通販の論理であるという。つまりカタログにない商品は購入できないのと同様、開講科目にな…

ハッピーフライト

やむを得ない事情がないかぎり飛行機には乗りたくない。仕事上の出張や、自ら望んで行く旅行以外では、飛行機は避けたい乗り物だ。私たちが飛行機に乗るとき、せいぜいCS(キャビンアテンダント)の女性たちや、地上勤務のGS(グランドスタッフ)の女性…

日本語が亡びるとき

梅田望夫氏がブログで取り上げたからというわけではなく、漱石の続編『続明暗』(筑摩書房、1990)が旧字・旧かな文字によって書かれて以来、『私小説』(新潮社、1995)、辻邦生との往復書簡共著『手紙、栞を添えて 』(朝日新聞社、1998)、『本格小説』(…

読むので思う

荒川洋治『読むので思う』(幻戯書房、2008)は、本を読むことに関する様々な話題に触れていて、実に楽しい読み物になっている。 読むので思う作者: 荒川洋治出版社/メーカー: 幻戯書房発売日: 2008/11メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 16回この商品を含…

なにもかも小林秀雄に教わった

木田元『なにもかも小林秀雄に教わった』(文春新書、2008)を、タイトルに魅かれて購入した。 なにもかも小林秀雄に教わった (文春新書)作者: 木田元出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2008/10/01メディア: 新書購入: 2人 クリック: 50回この商品を含むブロ…

定本久生十蘭全集

久生十蘭『湖畔/ハムレット』(講談社文芸文庫、2005)の短編群には打ちのめされた。まず、華麗で精緻な彫琢された文体に魅せられる。現在の小説家では、とても表現できない語彙や技巧に満ち満ちている。また、作品内容が一作ごとに異なるのに、驚いた。直木…

寡黙なる巨人

いまここに、「生と死」に関する本質論が記録された書物が二冊ある。多田富雄『寡黙なる巨人』と須原一秀『自死という生き方』の二冊。 寡黙なる巨人作者: 多田富雄出版社/メーカー: 集英社発売日: 2007/07/26メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 27回この…

シネマ 1*運動イメージ

待ちかねたドゥルーズ『シネマ 1*運動イメージ』(法政大学出版局、2008.10)を読了した。ドゥルーズ自身が言うように、本書と『シネマ 2*時間イメージ』は、映画史ではなく、映画の分類の試みと記している。映画は古典的なモンタージュによる「運動イメージ…

映画論講義

蓮實重彦『映画論講義』(東京大学出版会、2008)は、著者のほぼ30年前の『映像の詩学』(筑摩書房、1979)を反復し、談話体で書き直したと思える内容になっている。 映画論講義作者: 蓮實重彦出版社/メーカー: 東京大学出版会発売日: 2008/09/27メディア: …

追悼・緒形拳

俳優・緒形拳氏の訃報を聞き、衝撃を受けている。緒形拳の作品で一番印象深いのは今村昌平監督『復讐するは我にあり』(1979)になる。詐欺師で殺人者・榎津厳役は、緒形氏の役者人生において、演じる役の幅を広げたという意味では画期的な作品だった。同じ…

フェルメール展

東京都立美術館で開催されている「フェルメール展」に行ってきた。9月10日(水)の午後。平日だというのに、待ち時間が20分、入場券を窓口で購入するのに約10分。従って、会場に到着し、絵画を観るまでに30分を要した。この分だと、土日の混雑ぶりが予測され…

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

押井守のフィルムを遡及しながら、アニメ作品は『うる星やつら2、ビューティフル・ドリーマー』(1984)までたどり着いた。いわゆる押井節の原点がこの作品にあったことが分かった。終わらない学園祭前夜、繰り返される前夜祭、何度も反復される行動は、最…

吉本隆明の思想

アカデミズムに属さず、筆一本で生活者として自立し、60年代から70年代の思想的カリスマだった吉本隆明。氏の理論的大著で唯一、単行本化されていなかった『心的現象論本論』(文化科学高等研究院出版局、2008.7)が上梓された。豪華版は、既刊の『心的現象論…

スカイ・クロラ

押井守の新作『スカイ・クロラThe Sky Crawlers』(2008)を観る。『イノセンス』(2004)は、遅ればせながら押井守を発見させ、『立喰師列伝』(2006)でその世界に圧倒されてしまい、「アニメあなどるなかれ」の契機となった作品。もちろん、それまでに宮崎…

読書中の図書

今、読書中の本の内の一部を列挙して1ヶ月の空白の言い訳をしておく。 ・蓮實重彦『映画崩壊前夜』(青土社、2008.7)映画崩壊前夜作者: 蓮實重彦出版社/メーカー: 青土社発売日: 2008/06/25メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 38回この商品を含むブログ (2…

RURIKO

林真理子の実名フィクション『RURIKO』(角川書店、2008.5)を読了。満州時代、父源二郎が満映で甘粕正彦と出会い、娘の信子ちゃんを必ず女優にしてくださいと、約束するシーンから、浅丘ルリ子物語は静かに始まる。 RURIKO作者: 林真理子出版社/メーカー: 角…

ノーカントリー

ジョエル&イサーン・コーエン『ノーカントリー』(No Country for old men, 2007)も、畏怖すべきフィルムだった。コーエン兄弟のフィルムの中でも傑出した仕上がりになっている。ベスト作品と言ってもいいだろう。それは何よりもハリウッド映画のルールから…

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

第80回アカデミー賞・主演男優賞を受賞したダニエル・デイ=ルイス主演、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(There will be blood, 2007)を観た。 ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]出版社/メーカー: ウォルトディ…

昭和の短編一人一冊集成

未知谷という出版社から『昭和の短編一人一冊集成』が刊行されはじめ、五冊五人の予定で、6月現在、吉行淳之介、戸川昌子、源氏鶏太、藤原審爾までが出版された。残る一人は色川武大である。そのうち、未読でありなおかつ今日では、その著書がきわめて入手し…

実録・連合赤軍 

若松孝二『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)を観る。観ることのつらさを克服すれば、この作品のもつ意味が明らかになる、そんな映画だ。 降雪のなかを一列に歩く九人の姿が捉えられると画面は一転、1960年の安保闘争に遡及する。60年安保とそれ…

それから

漱石の『それから』を岩波版全集第六巻にて読む。文庫本で読んだのは数十年前であり、森田芳光監督の映画化作品が印象強く残っている。森田作品は、1985年つまり20年以上も前の映画であった。代助を松田優作が、三千代を藤谷美和子が、平岡を小林薫が演じて…