書物

そして漱石はつづく

漱石関連文献 林原耕三『漱石山房の人々』(講談社文芸文庫,2022.02)の復刊 漱石山房の人々 (講談社文芸文庫) 作者:林原 耕三 講談社 Amazon 森まゆみが永井荷風『鴎外先生』(中公文庫,2019)の「解説 鴎外と荷風」のなかで記している。 残念なことだが、…

古井由吉は最後の日本近代作家であり、作品は古典になる

古井由吉の文(アンケート) 『新潮』(2022年3月号)に古井由吉三回忌に寄せてと題して、19名の作家・評論家などから、あなたの一文を寄せる」アンケート回答が掲載されている。 まずは、19名による引用文を列挙してみよう。 石井遊佳撰 汗まみれになった気…

森田芳光の・ような映画監督は今後出てこないだろう

森田芳光全映画 宇多丸、三沢和子編『森田芳光全映画』(リトルモア,2021)を読了した。ひとりの映画作家の全作品を解題する書物は、めずらしいことだ。自主映画から始め、どこの映画会社にも所属せず、助監督修行もなく、自ら自分が撮りたい映画で出発する…

「映画女優の自伝」を読む2(キッチリ山の吉五郎)

私の渡世日記 高峰秀子の自伝、『私の渡世日記』(文春文庫,1998)を読む。 わたしの渡世日記 上 (文春文庫) 作者:高峰 秀子 文藝春秋 Amazon わたしの渡世日記 下 (文春文庫) 作者:高峰 秀子 文藝春秋 Amazon 女優の自伝について、小津安二郎メモの関連とし…

「映画女優の自伝」を読む

女優岡田茉莉子 女優 岡田茉莉子 作者:岡田 茉莉子 文藝春秋 Amazon 小津安二郎のDVDを見直していると、小津映画サイレント期の名優岡田時彦の娘、岡田茉莉子の出演作二本、『秋日和』と『秋刀魚の味』にコメディエンス的女優として出演している。岡田茉莉子…

『情報の歴史21』の25年ぶりの増補改訂版の出版を寿ぎたい

情報の歴史21 松岡正剛監修『情報の歴史21』(編集工学研究所,2021)を入手した。 25年振りの増補改訂版だ。初版からは30年経過している。 この本にこそ松岡正剛の思想が凝縮している。 情報の歴史21: 象形文字から仮想現実まで 作者:編集工学研究所,イシス…

『羊の歌』は加藤周一の<優秀な知的観察者>に共感できるかどうかだ

『羊の歌』 かねてから懸案だった加藤周一『羊の歌』正・続編および、『「羊の歌」その後』を読む。かつて所持していた新書二冊は、所在不明のため購入しなおした。2014年に改版され活字が大きくなっていた。 羊の歌―わが回想 (岩波新書 青版 689) 作者:加藤…

トルストイは『セルギー神父』が経験する聖人への段階を示した(宗教批判的に)

セルギー神父 トルストイ原作の映画『セルギー神父』(1978)は、イーゴリ・タランキン監督による作品で、セルゲイ・ボンダルチュクが主演した、実に、19世紀ロシア社会のロシア正教という一種異端のキリスト教世界と現世のかかわりを、淡々と描く傑作であっ…

溝口健二『残菊物語』とフリッツ・ラング『スピオーネ』は必見の映画だ

見るレッスン 映画史特別講義 『ゴダール マネ フーコー 増補版』(青土社,2019)の刊行から、2020年に入り、『言葉はどこからやってくるのか』(青土社,2020)や『アメリカから遠く離れて』( 河出書房新社,2020)が矢継ぎ早に刊行され、ついに新書版で『見…

パティニール画集の出版を期待したい

三つの庵 ソロー、パティニール、芭蕉 クリスチャン・ドゥメ著『三つの庵 ソロー、パティニール、芭蕉』(幻戯書房,2020)は、隠遁生活を求めていたものにとって、きわめて刺激が強いタイトルだ。タイトルと出版社をみて購入することはあまりないことだが、…

坪内祐三は、シブく古くさいエッセイストとして出発し、少年時代に回帰した

#坪内祐三 玉電松原物語 坪内祐三の最後の連載もの「玉電松原物語」が2019年『小説新潮』五月号からであり、2020年1月突然の死によって中断された。今回、遺作として『玉電松原物語』が、新潮社から発売された。現物を入手。 玉電松原物語 作者:坪内祐三 発…

「品川猿」「品川猿の告白」は「ラガー」ではなく「黒ビール」で読み解く

一人称単数 村上春樹の6年ぶりの短編小説集『一人称単数』(文藝春秋,2020)を、遅ればせながら読了した。 一人称単数 (文春e-book) 作者:村上 春樹 発売日: 2020/07/18 メディア: Kindle版 八編の短編が収録されているが、中でも特筆すべきは「品川猿の告…

高山宏の翻訳書は歴史に残る快挙、更に『ガリヴァー旅行記』が一冊加わる。

アリスに驚け 高山宏『アリスに驚け アリス狩りⅥ』(青土社,2020)が、 発売予告から10年以上の時を経て刊行された。 アリスに驚け 作者:宏, 高山 発売日: 2020/09/26 メディア: 単行本 目次の構成は次のとおり。第1部 アリスに驚け第2部 *メルヴィル・…

草森紳一・副島種臣・石川九楊

蒼海 副島種臣―全心の書―展 図録 蒼海副島種臣 全心の書 草森紳一が、李賀(長吉)とほぼ同じ分量の原稿を書き残している副島種臣の「書」に関する図録・佐賀県立美術館編『没後100年記念 蒼海 副島種臣―全心の書―展 図録』(佐賀新聞社,2007二刷)を入手し…

草森紳一の小説を超える雑文集『副島種臣(仮)』の出版を期待する

記憶のちぎれ雲 草森紳一というマエストロに遭遇してしまった。かつて文春新書の『随筆 本が崩れる』に拙ブログで触れたことがある。2005年10月24日に記載しているが、草森紳一氏についてほとんんど知らなかったことを、『随筆 本が崩れる』(中公文庫,2018…

文壇「坪内組」ならこう言うぜ、『坪内祐三文学年表』出版もあるでよ

東京タワーならこう言うぜ 坪内祐三いうところのヴァラエティ・ブック『東京タワーならこう言うぜ』(幻戯書房,2012)を入手した。この種の本は『古くさいぞ私は』(晶文社,2000)以来のことである。この間12年間に、坪内氏の姿勢は文学や書店・古書店など…

坪内祐三にサヨウナラ、はまだ早い

みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。 坪内祐三追悼特集雑誌が二冊刊行された。『本の雑誌2020年4月「さようなら、坪内祐三」』(本の雑誌社,2020)と『ユリイカ総特集坪内祐三』(青土社,2020)だ。 本の雑誌442号2020年4月号 発売日: 202…

レスコフは義人の物語作家であるとベンヤミンは評価した

左利き 髪結いの芸術家 群像社のHPを見ていたら、ブーニン作品集4『アルセーニエフの人生』(2019)に刊行されていたことを知り、更に、レスコフの短編集新訳二冊『左利き』『髪結いの芸術家』が、「レスコフ作品集1,2」として2020年2月に発行済である…

彼岸と此岸をつなぐ古井由吉の<ことば>

神秘の人びと 古井由吉の『神秘の人びと』(岩波書店,1996)は、『仮往生伝試文』の西洋版であり、私は、中世西洋の修道院の人びとによる神秘体験を興味深く読んだ。マルティン・ブーバー編纂の説教集や、マイスター・エックハルトの説教集のドイツ語訳を、…

古井由吉氏の訃報は、近現代文学の終わりを告げる

古井由吉氏の訃報 新型コロナウイルスのパンデミック的感染拡大により、報道はこの武漢発生のウイルス一色となっている。この間、日常的な外出を控え、読書に集中していた。 古井由吉の訃報が小さく扱われていた。2月18日他界されたとのこと。 近現代文学の…

本を読むことは他者の世界を知ること

本の贈りもの2019 今年2019年の書物の収穫を、とりあえず列挙(順不同)してみよう。 1.四方田犬彦『聖者のレッスン』(河出書房新社,2019)四方田犬彦著『聖者のレッスン 東京大学映画講義』は、宗教に関わる聖者が、映画の中でいかに描かれたを語る内容…

高山宏氏の超弩級・新刊書刊行を待ちながら・・・

トランスレーティッド 高山宏『トランスレーティッド』(青土社,2020)を入手した。単行本3冊分の厚さに驚く。高山氏は、翻訳を自ら最も好んだ翻訳と解題を、責務と考える学魔だったことが、この一冊に凝縮されているためよく分かる。 トランスレーティッド…

「器官なき身体」あるいはシュルレアリスムのこと

シュルレアリスム宣言 シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫) 作者: アンドレブルトン,Andre Breton,巖谷國士 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1992/06/16 メディア: 文庫 購入: 4人 クリック: 47回 この商品を含むブログ (53件) を見る シュルレア…

モーパッサンは面白い

わたしたちの心 ブヴァールとペキュシェ 作者: ギュスターヴフローベール,Gustave Flaubert,菅谷憲興 出版社/メーカー: 作品社 発売日: 2019/08/23 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る フロ-ベール『ブヴァールとペキュシェ』(作品社,2019)の…

『こころ』異聞は、女性の強さに着目している

『こころ』異聞 『こころ』異聞: 書かれなかった遺言 作者: 若松英輔 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/06/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 若松英輔著『『こころ』異聞』(岩波書店,2019)を、7月1日購入後、一気に継続して読んだ…

「トルストイを読み給へ」と小林秀雄は答えた

アンナ・カレーニナ ずっと敬遠していた作家トルストイの最高傑作とも言える『アンナ・カレーニナ』(望月哲男訳,光文社古典新訳文庫)全4冊、8部を読了した。アンナとヴロンスキーが中心というか、むしろ狂言回し的に書かれていること、リョーヴィンこそが…

ツルゲーネフを19世紀ロシア文学の中で正当に評価しよう

父と子 ツルゲーネフ著、工藤精一郎訳『父と子』を時間がかかりながらも、読了した。ツルゲーネフの代表作と評価されているのも首肯できる。 父と子 (新潮文庫) 作者: И.С.ツルゲーネフ,工藤精一郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1998/05/04 メディア: 文…

P.G. ウッドハウスを読む

年末から、2005~2007年にかけて発売されていた国書刊行会と文藝春秋版の文庫版・P.G. ウッドハウスのジーブスものを読む。文庫本は、2011年刊行。 気楽に読むことの楽しさ、それ以上でも以下でもない。 ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻 (文春文庫) 作者: P.G…

未読了の図書2018

2018年に購入して、一部読みかけの図書、読み終わっていない図書・10点を記録しておきたい。 1.長谷川郁夫『編集者 漱石』(新潮社,2018.06)編集者 漱石 [ 長谷川 郁夫 ]ジャンル: 本・雑誌・コミック > 人文・地歴・哲学・社会 > 文学 > その他ショップ:…

19世紀ロシア文学

19世紀ロシア文学とは、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフ、ゴーゴリなどの作家の作品群である。革命以前の作家達だ。革命に遭遇し亡命したブーニンは20世紀の作家として当該範疇には属しない。また革命に翻弄されたゴーリキも含まないものとする。1…