「器官なき身体」あるいはシュルレアリスムのこと

シュルレアリスム宣言

 

 

シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫)

シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫)

 

 

シュルレアリスムを中心に,、20世紀アヴァンギャルドに集中していた。
アンドレ・ブルトンの『ナジャ』は、人文書院の全集で未読だったが、今回岩波文庫でも読了できなかった。

 

ナジャ (岩波文庫)

ナジャ (岩波文庫)

 

 

アンドレ・ブルトンシュルレアリスム宣言』を、延べ30余年かけてやっと読了した。

シュルレリスム。男性名詞。心の純粋な自動現象であり、それにもとづいて口述、記述、その他あらゆる方法を用いつつ、思考の実際上の働きを表現しようとくわだてる。理性によって行使されるどんな統制もなく、美学上ないし道徳上のどんな気づかいからもはなれた思考の書きとり。(46頁「シュルレアリスム宣言」岩波文庫

 

スウィフトは悪意においてシュルレリストである。
サドはサディズムにおいてシュルレリストである。



ボードレーリは道徳においてシュルレリストである。
ランボーは人生の実践その他においてシュルレリストである。
マラルメは打ち明け話においてシュルレリストである。



ルーセルは逸話においてシュルレリストである。
等々。(47-48頁「シュルレアリスム宣言」岩波文庫

 

 言語とは、シュルレアリスム的に用いられるように人間にあたええられているものだ。(59頁「シュルレアリスム宣言」岩波文庫

 

以上、引用を試みた。

判然としないが、100年後も、アンドレ・ブルトンの評価は高いようだ。

 

ヘリオガバルス: あるいは戴冠せるアナーキスト (河出文庫)

ヘリオガバルス: あるいは戴冠せるアナーキスト (河出文庫)

 

 アントナン・アルトーヘリオガバルス あるいは戴冠せるアナーキスト』(河出文庫,2016)読了。

 

ギボンは、『ローマ帝国衰亡史』において「最悪の皇帝」との評価を下したが、退廃的な、性的倒錯者として、歴代ローマ皇帝のなかでも特筆に値する、というのがヘリオガバルスへの評価だろう。

 

 

神の裁きと訣別するため (河出文庫 (ア5-1))

神の裁きと訣別するため (河出文庫 (ア5-1))

 

 

しかしながら、アントナン・アルトーは、『ヘリオガバルス』をギリシア悲劇的な残酷劇として謳いあげた。実に、畏怖すべき作品につくりあげている。

後に『神の裁きと訣別するため』(河出文庫,2006)において、

人間は病んでいる、人間は誤って作られているからだ。
・・・(中略)・・・
人間に器官なき身体を作ってやるなら人間をあらゆる自動性から解放して真の自由にもどしてやることになるだろう。(44-45頁「神の裁きと訣別するため」)

 

 アルトーにおける器官なき身体」とは、ヘリオガバルスを想起しながら、真に自由なる人間への変容を期待したのではないだろうか。

アルトーは、確かに器官なき身体という言葉を使用した。この器官なき身体という言葉は、後に、ドゥルーズ=ガタリが『アンチ・オイディプス』で、基本的な概念として使用していることは周知のとおりである。

 

アンチ・オイディプス(上)資本主義と分裂症 (河出文庫)

アンチ・オイディプス(上)資本主義と分裂症 (河出文庫)

 

 

 

アンチ・オイディプス(下)資本主義と分裂症 (河出文庫)

アンチ・オイディプス(下)資本主義と分裂症 (河出文庫)

 

 

けれども、「器官なき身体」や「戦争機械」など、未だに理解することが困難な用

語であることに変わりない。

 

文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7)

文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7)

 

 

 

シュルレアリスムに関連して、レイモン・クノーの『文体練習』の朝日出版社版を持っていたはずだと思い、書棚何カ所を探してみたが、見つからない。やむを得ず、水声社版の『レイモン・クノーコレクション』7巻の『文体練習』を古書店にて求める。

 

冒頭に「1.覚え書」が置かれ、その内容について、99の文体で表現される。この実験的試みは、ウンベルト・エコーやイタロ・カルビーノに影響を与えた。

 

地下鉄のザジ (中公文庫)

地下鉄のザジ (中公文庫)

 

 

レイモン・クノーといえば、映画化された『地下鉄のザジ』で知られるが、反シュルレアリスムのグループ「ウリポ」に所属していた。しかしながら、『文体練習』は「ウリポ」結成以前に出版されており、むしろ、前衛文学者というべきだろう。

 

シュルレアリスムは「超現実主義」と翻訳される、一種の前衛運動であり、カウンターカルチャーだろう。前衛運動とすれば、続く、ヌーヴォーロマンの位置づけはどうなるのだろうかなどと考える。

 

 気がかりなシュルレアリスムは、読むことの愉悦が少なく、19世紀文学がはるかに楽しく読めるというアイロニー、そんな心境にある。

 

シュルレアリスムを理解するための今回読んだ参考文献は以下に列挙しておく。

 

巌谷國士シュルレアリスムとは何か』(ちくま学芸文庫,2003)

 

シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫)

シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫)

 

塚原史『ダダ・シュルレアリスムの時代』(ちくま学芸文庫,2003)

 

ダダ・シュルレアリスムの時代 (ちくま学芸文庫)

ダダ・シュルレアリスムの時代 (ちくま学芸文庫)

 

 〇塚原史『切断する美学―アヴァンギャルド芸術思想史 』(論創社,2013)

 

切断する美学―アヴァンギャルド芸術思想史

切断する美学―アヴァンギャルド芸術思想史

 

 

塚原史ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動』(岩波現代全書,2018)

 

ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動 (岩波現代全書)

ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動 (岩波現代全書)

 

 〇斎藤哲也『零度のシュルレアリスム』(水声社,2011)

 

零度のシュルレアリスム (水声文庫)

零度のシュルレアリスム (水声文庫)

 

塚原史、後藤美和子訳『ダダ・シュルレアリスム新訳詩集』(思潮社,2017) 

 

ダダ・シュルレアリスム新訳詩集

ダダ・シュルレアリスム新訳詩集