草森紳一の小説を超える雑文集『副島種臣(仮)』の出版を期待する

記憶のちぎれ雲

 

草森紳一というマエストロに遭遇してしまった。かつて文春新書の『随筆 本が崩れる』に拙ブログで触れたことがある。2005年10月24日に記載しているが、草森紳一氏についてほとんんど知らなかったことを、『随筆 本が崩れる』(中公文庫,2018)を読み知ることとなる。

 

記憶のちぎれ雲 我が半自伝

記憶のちぎれ雲 我が半自伝

  • 作者:草森 紳一
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 単行本
 

 

とりあえず入手可能な『記憶のちぎれ雲』(本の雑誌社,2106)を読む。

私は学生のころから小説の時代は終わったと思っていたし(すべては大江健三郎氏に任せるという感じ)、・・・(24頁『記憶のちぎれ雲』)

 

 

坪内祐三が『あやかり富士ー随筆「江戸のデザイン」』の跋文で草森紳一の言葉を引用している。引用元は、

草森紳一『旅嫌い』(マルジュ,1982)のインタビュー記事「旅の裏切り」。

僕は、小説というのは古いスタイルだと、うすうす思っていた。(313頁『旅嫌い』)

僕自身は肯定的な意味で、雑文を考えてきたんだけどね。雑文のスタイルが、一番自分の言いたいことを書けると思っているわけ。たとえば百枚のものを書いても雑文という意識があったし、小説も雑文の一体だとそこまで拡げて雑文を考えてきた。(314頁『旅嫌い』)

草森紳一は、<雑文の巨人>といわれる。そもそも草森紳一にとって小説にさほど関心がなく、大江健三郎に小説は任せたのだが、ここは私見によれば、古井由吉の死とともに小説は終わったというのが、実感だ。古井由吉とはすなわち内向の世代で小説は終わった。小説は、古井由吉の未読の作品群が控えている。

 

閑話休題。本題にもどろう。草森紳一の雑文とは『記憶のちぎれ雲』に記されている、真鍋博古山高麗雄田中小実昌中原淳一葦原邦子夫妻、そして伊丹一三(のちの十三)の記載ぶりにみることができる。草森紳一は映画監督になるのが夢であり、東映を受験するも、大川社長との最終面接時に、自説つまり『三国志』『水滸伝』など中国の古典をもとに映画を作る夢を語るが、大川社長に受け入れてもらえず、婦人画報社に入社し、編集者として上記の六名に出会ったいきさつをいかにもシンイチ的文体(雑文)によって、まとめられている。

とりわけ、伊丹一三の部分が全体の半分を占めるほど内容が膨らんでいる。伊丹の『ヨーロッパ退屈日記』のもととなる連載を依頼したのだ。当時の伊丹は戦前の大監督伊丹万作の息子というイメージがついており、俳優としての演技も草森紳一は評価していない。むしろ父万作の全集を編纂したその力量により、万作の息子一三がニコラス・レイ監督の『北京の55日』に出演するためヨーロッパに渡ることに目を付けて、原稿依頼したのだった。その頃の伊丹一三大映スクリプターであった野上照代により川喜多長政・かしこ夫妻の娘和子を紹介され、伊丹は川喜多和子と結婚した頃だったようだ。映画監督になる前、俳優・エッセイスト・デザイナーとしての伊丹一三を評価したのが草森紳一だった。このあたりのいきさつを読むには、きわめて面白い読み物となっている。

 

 ここまで書いてきて、注文しておいた古書店から草森紳一本が数冊届いた。
まず、一番に『北狐の足跡 「書」という宇宙の大活劇』(ゲイン,1994)の内容を確認する。土方歳三副島種臣、一休、白隠、澤庵、樋口一葉池大雅、徐文長、蘇東坡、李賀など、著者の関心の範囲がよく分かる人物たちの残した書をみるところから始まる。卒論に書いた<李賀>についての大著を『李賀 垂翅の客』(芸術新聞社,2013)として没後刊行されている。

 

李賀 垂翅の客

李賀 垂翅の客

  • 作者:草森 紳一
  • 発売日: 2013/04/04
  • メディア: 単行本
 

 

『北狐の足跡』の中でも気になるのは、副島種臣である。副島種臣に関する連載は、以下のとおり。
(1)「紉蘭 詩人副島種臣の生涯」『すばる』(集英社)1991年7月号〜96年12月号(65回)
(2)「薔薇香處 副島種臣の中国漫遊」『文學界』(文藝春秋)2000年2月号〜2003年5月号(40回)
(3)「捕鼠 明治十一年の文人政治家副島種臣の行方」『表現』(京都精華大学表現研究機構)創刊号(2007年7月)〜2(2008年5月)(2回・未完)

 

■「CiNii Articles」を検索していたら、草森紳一の「副島種臣」論文3点を発見したので、追加しておく。(2020-08-18)

 

(4)「明治10年--西南戦争副島種臣」『文字』(京都精華大学文字文明研究所)4号 2004年7月
(5)「巻頭対談 副島種臣の書・漢詩・思想」対談;石川九楊 『文字』7号 (京都精華大学文字文明研究所)2006年3月
(6)「咄嗟のカマイタチ--副島種臣の「書」をめぐって。勅使河原蒼風棟方志功」『文字』7号(京都精華大学文字文明研究所)2006年3月

 

 


連載3点に、単発論文3点を加えて計6点、連載分量(100回以上)等から一書(あるいは2冊以上か)にまとめることができるだろう。草森紳一著『詩人副島種臣(仮)』として、是非発行を期待したい。副島種臣の評伝などからでは、よく分からない部分に光を当てている可能性が大いにある。
もちろん、残された雑文集も一~二冊以上の単行本未収録原稿や未発表原稿も残されているはずだ。まずは『詩人副島種臣(仮)』の刊行を期待したい。

 

とりあえず入手できた草森紳一

 

随筆-本が崩れる (中公文庫)

随筆-本が崩れる (中公文庫)

  • 作者:草森 紳一
  • 発売日: 2018/11/21
  • メディア: 文庫
 

 

 

勝海舟の真実---剣、誠、書

勝海舟の真実---剣、誠、書

  • 作者:草森 紳一
  • 発売日: 2011/06/11
  • メディア: 単行本
 

 

 

荷風の永代橋

荷風の永代橋

  • 作者:草森 紳一
  • 発売日: 2004/12/01
  • メディア: 単行本
 

 

 

その先は永代橋

その先は永代橋

  • 作者:草森紳一
  • 発売日: 2014/04/26
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

 

写真のど真ん中

写真のど真ん中

 

 

 ナチスプロパガンダ(『絶対の宣伝』4冊)や毛沢東の大宣伝(『中国文化大革命の大宣伝』二冊)は、草森紳一の一大関心事であった。

 

中国文化大革命の大宣伝 上

中国文化大革命の大宣伝 上

  • 作者:草森 紳一
  • 発売日: 2009/05/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)