書物

胃弱・癇癪・夏目漱石

漱石研究には、作家論、作品論等、いわば本流の作家研究があり、一方、漱石の私生活や恋愛などに主体的アプローチする批評がある。 胃弱・癇癪・夏目漱石 持病で読み解く文士の生涯 (講談社選書メチエ)作者: 山崎光夫出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/10…

今夜はひとりぼっちかい?日本文学盛衰史戦後文学篇

今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇作者: 高橋源一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/08/23メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る日本文学盛衰史 (講談社文庫)作者: 高橋源一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/06/15…

原民喜

梯久美子『原民喜ー死と愛と孤独の肖像』(岩波新書,2018)を読む。梯久美子さんの、対象の選択の見事さと資料収集の適確さに、読者は魅了される。前回の、『狂うひと ─「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社,2016)に続き、ノンフィクション作家の面目躍如た…

充たされざる者

2017年ノーベル文学賞受賞者、カズオ・イシグロ。彼の作品は、映画化された『日の名残り』と『私を離さないで』二本を観ただけであった。ノーベル文学賞受賞という栄誉に輝いている作家は読みたくない。しばらくの猶予を置いて、『日の名残り』から読み始め…

ゴーゴリ作品

後藤明生作品からゴーゴリに関心が移る。著名な作品は一度は読んでいるが、『ゴーゴリ全集04戯曲』で「検察官」や「結婚」「芝居のはね」などを、岩波文庫、講談社文芸文庫、光文社新訳古典文庫で「外套」「鼻」「ネフスキー大通り」「狂人日記」「肖像画」…

壁の中

後藤明生著『壁の中』(つかだま書房,2017.12)が、新装普及版として2017年末に刊行された。2018年最初の購入本。読むことができなかったポストモダンの傑作を、楽しみながら読む。国書刊行会の『後藤明生コレクション』にも、収録されていなかった幻の小説…

みすず読書アンケート2018

みすず書房から毎年発行されている、『みすず』2018年1・2月号は、読書アンケート特集である。毎年楽しみにしているが、今年も早速、確認してみたい。「みすず読書アンケート」の読み方として、誰がどんな本を選出しているかと、自身が読んだ本が取り上げら…

右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。

坪内祐三『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。』(幻戯書房 (2017.12)は、著者にとって三冊目の評論集と言う。『ストリートワイズ』(晶文社,1997)、『後ろ向きで前へ進む』(晶文社,2002)に続く三冊目ということだが、小生にとって『慶應…

松山子規事典

昨年2017年は子規・漱石生誕150年だった。坪内稔典『正岡子規』(岩波新書)、柴田宵曲『評伝 正岡子規』(岩波文庫)、復本一郎『正岡子規 人生の言葉』(岩波新書,2017)、森まゆみ『子規の音』(新潮社,2017)など子規関係書を読む。昨年が子規・漱石生…

バテレンの世紀

渡辺京二『バテレンの世紀』(新潮社,2017)を読む。 『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリ)『黒船前夜』(洋泉社)に続く三部作に位置する。ただし、時代は16世紀に遡及する。大航海時代ポルトガルの海外進出から記述が始まるが、フランシスコ・ザビエル…

坂口安吾論

柄谷行人が、『坂口安吾全集』(筑摩書房,1998−2012)の「月報」に「坂口安吾について」を連載していた。月報連載分を第一章として、個別論文を第二章、第三章が全集関連ものを収録したのが、『坂口安吾論』(インスクリプト,2017)である。 坂口安吾論作…

『ユリイカ』蓮實重彦特集

もはや御大としか呼びようがない蓮實重彦。氏の特集本が『ユリイカ』10月臨時増刊号として刊行された。 ユリイカ 2017年10月臨時増刊号 総特集◎蓮實重彦作者: 蓮實重彦,黒沢清,万田邦敏,青山真治出版社/メーカー: 青土社発売日: 2017/09/12メディア: ムッ…

小説の読み書き

佐藤正午著『月の満ち欠け』(岩波書店,2017)が直木賞を受賞した。映画化された『永遠の1/2』により、名前のみ印象に残り、「すばる文学賞」受賞(1983年)以来、佐藤氏は何をしていたのか知らず、正直小説家を続けていたのには驚いた。 月の満ち欠け作者:…

もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら

もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら作者: 神田桂一,菊池良出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2017/06/07メディア: 単行本この商品を含むブログ (10件) を見る やたらと長いタイトルが付された神田桂一・菊池良著『もし文豪たちがカップ焼きそば…

もう一度倫敦巴里

和田誠著『もう一度倫敦巴里』(ナナロク社,2017)を読む。といっても話の特集から出ていた原本『倫敦巴里』(1977)を所有していたはずだが、見つからない。復刻というより、「『雪国』海外編」」「雪国・70年2月号・73年11月号・75年2月号・77年2月号のつ…

漱石辞典

漱石没後150年。ついに出た『漱石辞典』(翰林書房,2017)は、漱石事典ではなく、あくまで「ことば」に拘った、辞典であるところが、これまでの<各種漱石事典>と異なるところである。 漱石辞典作者: 小森陽一,飯田祐子,五味渕典嗣,佐藤泉,佐藤裕子,野網摩…

夫・車谷長吉

高橋順子さんが、『夫・車谷長吉』を、三回忌に合わせて、書き下ろしとして出版された。異端的文学者と女流詩人の組み合わせ、結婚に至るまでが冒頭に置かれ、たしかにこの二人はどのようにして、出会ったのだろうかという疑問に答えている。 夫・車谷長吉 […

騎士団長殺し

村上春樹の新作長編、『騎士団長殺し:第1部 顕れるイデア編』『騎士団長殺し:第2部 遷ろうメタファー編 』(新潮社,2017)は、タイトルの壮大さに較べて、残念ながら、過去の長編を超えるものではなかった。 騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編作者: 村上…

みすず読書アンケート2017

『みすず』(みすず書房,2017)1・2月号「読書アンケート特集」を例年どおりさっと眼を通した。146名の回答が掲載されている。6人が挙げている図書は、カルロ・ギンズブルグ著,上村忠男編訳『ミクロストリアと世界史‐歴史家の仕事について』(みすず書房,…

漱石記念年の出版

2016年は、夏目漱石没後100年だった。2017年は、漱石生誕150年になる。二年連続した漱石記念年になり、漱石関連の出版物が多い年だった。吾輩は猫である (定本 漱石全集 第1巻)作者: 夏目漱石出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2016/12/10メディア: 単行本こ…

狂うひと

梯久美子著『狂うひと「死の刺」の妻・島尾敏雄』(新潮社,2016)を読了する。島尾敏雄に関しては、晶文社刊行の『島尾敏雄作品集』全5巻、『幼年記』(弓立社,1973)『その夏の今は・夢の中での日常』(講談社文芸文庫、1988)『出発は遂に訪れず』(新潮…

漱石の宮島訪問

漱石は、夏目金之助名にて、四国松山から熊本へ転任の途中、高浜虚子と一緒に、宮島を訪れ一泊している。1896(明治29)年4月10日、松山・高浜港にて、横地校長、村上霽月、久保より江らの見送りを受け、虚子と乗船する。このときの船の中の様子は、虚子の回…

憂鬱なる漱石

憂鬱なる漱石作者: 小林敏明出版社/メーカー: せりか書房発売日: 2016/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 小林敏明著『憂鬱なる漱石』(せりか書房,2016)は、久々に出版される500頁超えの本格的な評論になっている。著者が、『柄谷行人…

ブーニン作品集

渡辺京二『私のロシア文学』(文春学藝ライブラリ,2016)を読み、ロシア文学の中で忘れられているブーニンについて傑作『日射病』にたどり着き、ブーニンの詩的ともいえる作品群を知った。 私のロシア文学 (文春学藝ライブラリー)作者: 渡辺京二出版社/メー…

現代思想 安丸良夫

青土社の雑誌『現代思想』が、9月臨時増刊号で「総特集 安丸良夫 民衆思想とは何か」を組んでいる。 現代思想 2016年9月臨時増刊号 総特集◎安丸良夫―民衆思想とは何か作者: 色川大吉,ひろたまさき,鹿野政直,酒井直樹,福井憲彦,喜安朗,成田龍一,岩崎稔,三宅芳…

現代思想史入門

船木亨著『現代思想史入門』(筑摩新書、2016)を読了した。著者は、生命、精神、歴史、情報、暴力の五項目に分け、冒頭に一覧表を掲げ、序章「現代とは何か」に始まり、「おわりに」で結論をもってきている。 現代思想史入門 (ちくま新書)作者: 船木亨出版…

TRCブックポータルの廃止

日々の新刊図書のチェックが可能な唯一のサイトであり、実際毎日の閲覧が楽しみなTRCブックポータルが、2016年3月で廃止との告知がHP上に出ている。 TRCブックポータル 【TRCブックポータル運営終了のお知らせ】お客様各位 平素よりTRCブックポータルをご…

みすず読書アンケート2016

「みすず」の読書アンケートを例年どおりさっと眼を通した。その後、今年はゆっくり読み、集計しないことにした。145名の回答から、それぞれの専門分野での収穫があり、集計することにあまり意味を見いだせない。書物を読むことはきわめて個人的な営みである…

漱石没後生誕記念

2016年2月12日「朝日新聞」に、現在再連載中の『門』が3月に終了したあと、『夢十夜』を、4月1日から、『吾輩は猫である』の連載告知があった。 夢十夜 他二篇 (岩波文庫)作者: 夏目漱石出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1986/03/17メディア: 文庫 クリック…

<漱石の初恋>を探して

荻原雄一『<漱石の初恋>を探して 「井上眼科の少女」とは誰か』(未知谷,2016)は、昨年出版された『漱石の初恋』(未知谷,2015)を、ドキュメンタリー風にたどった作品である。“漱石の初恋”を探して―「井上眼科の少女」とは誰か作者: 荻原雄一出版社/メ…