現代思想 安丸良夫

青土社の雑誌『現代思想』が、9月臨時増刊号で「総特集 安丸良夫 民衆思想とは何か」を組んでいる。



日本の近代化と民衆思想 (平凡社ライブラリー)

日本の近代化と民衆思想 (平凡社ライブラリー)


「安丸史学」とよばれもする『日本の近代化と民衆思想』(青木書店,1977)のちに平凡社ライブラリ版(1999)で入手可となった、「民衆思想」史の専門家。色川大吉『明治精神史』(黄河書房 ,1964)のちに、『新編 明治精神史』(中央公論社 (1973)として刊行された、民衆思想史の古典に連なる歴史学者である。



一介の歴史学者が、思想家としてとりあげられたのは、網野善彦『無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和』(平凡社,1978)を代表作とする網野史学が嚆矢であろう。


無縁・公界・楽 増補 (平凡社ライブラリー)

無縁・公界・楽 増補 (平凡社ライブラリー)


民衆思想史家として、鹿野政直『資本主義形成期の秩序意識』(筑摩書房,1979)とひろたまさき著『福沢諭吉研究』( 東京大学出版会,1976)など、代表的歴史家であった。


福沢諭吉と福翁自伝 (朝日選書)

福沢諭吉と福翁自伝 (朝日選書)

福沢諭吉研究

福沢諭吉研究


色川大吉鹿野政直安丸良夫ひろたまさき氏たちが、切り開いた分野である。


なかでも、安丸良夫の『日本の近代化と民衆思想』は、丸山眞男に代表される近代化論者への批判から始まったと記憶している。いわば「民衆思想」への傾斜の淵源は、安丸良夫氏の「日本の近代化と民衆思想(1)(2)」が『日本史研究』に掲載され、それが一冊の書物として私たちの前に出現したときは、驚きであった。


そもそも、思想史とは、歴史上著名な頂点的思想家の「思想」を論じたものが、「思想史」であった。無名の民衆に焦点を充て「勤勉を基とする通俗道徳」によって、丸山眞男大塚久雄への批判が、「民衆思想」ということばを、歴史学の中に定着させた。このあたりまで、安丸氏の思想史方法論の斬新さに圧倒されたものだ。


神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)

神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)


以後、安丸氏が批判した丸山眞男を読むことで、「民衆思想」は時代的な一種の傾向として、離れてしまった。安丸氏の著者は、『出口なお』(朝日新聞社、1977)、『神々の明治維新神仏分離廃仏毀釈』(岩波新書,1979)あたりまで、追っていた。


戦中と戦後の間

戦中と戦後の間

〔新装版〕 現代政治の思想と行動

〔新装版〕 現代政治の思想と行動

日本の思想 (岩波新書)

日本の思想 (岩波新書)


丸山眞男氏が、『戦中と戦後の間―1936―1957』(みすず書房,1976)を出版した頃から、丸山氏『増補版 現代政治の思想と行動』(未来社,1975)や『日本政治思想史研究』( 東京大学出版会、1952)を古書で買い求め、超ベストセラー『日本の思想』(岩波新書、1961)などを読むことによって、皮肉にも安丸良夫氏から離れた行った。


日本政治思想史研究

日本政治思想史研究


今回の『現代思想 安丸良夫特集』は、ある意味で予想外だった。忘れていた過去を遡及的に、回想させることになった。

思想史への関心は、後に現代思想へと移ることになった自己を顧みる機会を与えられた。

「民衆思想」を提唱し、「安丸史学」と呼ばれた歴史学者としての安丸良夫氏の突然の死を悼み、合掌。