もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら
- 作者: 神田桂一,菊池良
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2017/06/07
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (10件) を見る
やたらと長いタイトルが付された神田桂一・菊池良著『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社,2017)を購入した。新聞広告に出ていたこと、作家のパロディを100連発と銘打ち、和田誠著『倫敦巴里』(話の特集,1977)の「雪国」パロディへの挑戦である、と見た。
- 作者: 和田誠
- 出版社/メーカー: 話の特集
- 発売日: 1977/08/10
- メディア: 単行本
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
和田誠がとりあげた、「雪国」パロディ編と「カップ焼きそばの作り方」の双方の文体を模倣している共通する著者は、以下のとおり。
村上春樹、大江健三郎、レイモンド・チャンドラー、シェイクスピア、蓮實重彦、星新一、俵万智、川端康成(和田版は「雪国」戯作としている)、それに『暮らしの手帖』冒頭の言葉からのパロディ。
神田・菊池版から、これは面白いと思った著者たちは、以下のとおり。
星野源、蓮實重彦、サミュエル・ベケット(『ゴドーを待ちながら』)、内田樹、スーザン・ソンタグ、松本清張、米原万里、アンドレ・ブルトン(「シュールレアリスム宣言」から模倣している〜秀逸)、ウィリアム・ギブソン、吉本隆明(関係の絶対性)、井上章一(「京都ぎらい」)、[対談]村上龍×坂本龍一(一種の文明批評対談)、芥川龍之介(『羅生門』を下敷きにした傑作)、最後の解説で、レイモン・クノーの『文体練習』はひとつの情景を99通りの文体でできている。「カップ焼きそばの作り方」は100の文体で、レイモン・クノーを1点超えたことになる。
- 作者: サミュエルベケット,安堂信也,高橋康也
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2013/06/18
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (15件) を見る
- 作者: アンドレブルトン,Andre Breton,巖谷國士
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1992/06/16
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 47回
- この商品を含むブログ (53件) を見る
- 作者: 芥川龍之介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/05/24
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
フェイク、オマージュ、見立てなど、「本書に登場する作家、著名人、媒体などの文章は著者がリスペクトしているからこその文体模写」と神田・菊池氏は言及している。これは、敬愛する対象でなければ、模倣や模写はできないことで、それだけ読み込んでいることにほかならない。
和田誠は、イラストレーター、映画批評、映画監督である。映画監督として撮った作品は少ないがすべてが、傑作であり、映画へのオマージュに満ちている。
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2012/09/28
- メディア: Blu-ray
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2017/05/17
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 出版社/メーカー: video maker(VC/DAS)(D)
- 発売日: 2007/12/21
- メディア: DVD
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
和田誠は村上春樹とのジャズ対談『ポートレイト・イン・ジャズ 』(1997)『ポートレイト・イン・ジャズ2』(2001)がとっても 良いのだ。以下は本とCD版。
- 作者: 和田誠,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/12/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 20回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
- 作者: 和田誠,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/04/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
- アーティスト: オムニバス,ビリー・ホリデイ,マイルス・デイビス,ベニー・グッドマン,ビックス・バイダーベック,ジェリー・マリガン,デクスター・ゴードン,チュー・ベリー,ルイ・アームストロング,チャーリー・クリスチャン
- 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックレコーズ
- 発売日: 1998/06/20
- メディア: CD
- 購入: 1人 クリック: 26回
- この商品を含むブログ (25件) を見る
■追記(2017年7月15日)
パロディや戯作とは、部分の模倣であるが故に、著者へのオマージュとして成立する。ところが、本書企画の石黒健吾氏は、次回作として、『もし日常のシーンに村上春樹が侵入してきたら』を目論んでいるらしい。村上春樹に成り替わり村上春樹的小説を、文体模写しようという魂胆である。これはいささか「はた迷惑な話だ」(蓮實重彦)。文学を冒涜することは許容の範囲を超える。換言すれば、ミメーシスは許されるが、文体模写はあくまで「文体練習」に留めるべきことと、敢えて苦言を呈して置きたい。
和田誠『倫敦巴里』を超えられない「カップ焼きそばの作り方」の延長上に、村上春樹的模写を上梓することは笑って済む話ではない。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2015/09/10
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログ (54件) を見る
村上春樹『職業としての小説家』を読み、拳拳服膺すべし。
■追記の追記(2017年7月16日)
パスティーシュといえば清水義範氏がいる。代表作『蕎麦ときしめん』(講談社文庫,1989)は、全編名古屋弁を用いて一貫している。清水氏を超えるパスティーシュのハードルを設定すれば、村上春樹の文体模倣本を書こうなどということ気恥ずかしならないのだろうか。
- 作者: 清水義範
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1989/10/06
- メディア: 文庫
- 購入: 13人 クリック: 211回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
もうひとり著名な言語学者にして、中世を舞台にした小説を書いたウンベルト・エーコがいることを付け加えて置こう。
『ウンベルト・エーコの文体練習』(新潮社,1992)は優れて、ユーモア溢れるパロディ、パスティーシュ集であることを申し添えておきたい。
- 作者: ウンベルトエーコ,Umberto Eco,和田忠彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/08
- メディア: 文庫
- クリック: 45回
- この商品を含むブログ (14件) を見る