今宵、フィッツジェラルド劇場で
ロバート・アルトマンの遺作『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(A Prairie Home Companion,2006)を観る。アルトマン映画の特徴は、登場人物が多いことだろう。『今宵、・・・』は、アルトマン映画の最後を飾るに相応しい俳優・歌手たちが数多く出演している。『ザ・プレイヤ−』(1992)の冒頭の長まわしはあまりに有名だが、楽屋裏事情をいくつか捉えたのち、キャメラは地下から舞台の上に移動し、司会のギャリソン・キーラー(本人)の背後から客席を映すまで、一気に捉ええる手法は、いかにもアルトマンらしい。
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探偵ガイ・ノワール*1(ケヴィン・クライン)は、フィリップ・マーロウのように劇場を閉鎖するラストステージに立ち会う役どころ。舞台の幕が開くまえの楽屋風景から始まる。ヨランダ(メリル・ストリープ)とロンダ(リリー・トムリン)の姉妹歌手。ヨランダの娘ローラ(リンジー・ローハン)は、自殺についての詩を書いている。一方で、ダスティ(ウディ・ハレルソン)とレフティ(ジョン・C・ライリー)のカントリーウエスタン・コンビが待機している。ゲストの大物歌手チャック・エイカーズ(L・Q・ジョーンズ)が最後のゲストとして呼ばれている。
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ギャリソン・キーラーの助手モリー(マヤ・ルドルフ)は臨月のおなかを抱えて、てんやわんやの状態。ノワールが口にする金髪で理想の美女(ヴァージニア・マドセン)は、番組のファンだったが、ラジオに夢中になり交通事故を起こして死んだ女性。白いトレンチコートを着た美女は、神が下したもうた天使であった。今宵一晩でフィッツジェラルド劇場は、テキサスの大企業家アックマン(トミー・リージョーンズ)に買収されたために閉鎖される。天使はアックマンを死へ導くが、そのシーンは画面に出さない慎ましさ。
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これらの設定で、劇場を舞台とするラジオのためのライヴが始まる。役者は揃った、あとはお手並み拝見、というわけだ。ギャリソン・キーラーがリードするラジオの生中継は、安心して楽しむことができる。大物歌手チャック・エイカーズが歌った後、楽屋で静かに息をひきとる。天使は「老人が死ぬのは悲劇ではない」という言葉に符合するようにギャリソン・キーラーは、放送で一切老歌手の死に触れない。
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アルトマンの凄いところは、歌手でもない俳優に吹き替えではなく、本当に歌を歌わせるところであり、しかも、歌のうまさは本物顔負けだった。リリー・トムリンは別格として、メリル・ストリープやウディ・ハレルソンやジョン・C・ライリーなど、歌のうまさに舌を巻く。舞台が、ミュージカル風な歌とギャグ風のトークで盛り上がり、これが劇場最後の舞台であるとは思わせない。すなわち、この映画がアルトマンの遺作であると思えないのだ。
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しかしそれでも、アルトマンの新作がもう観れないのは確かで淋しいことだ。そこで、私のロバート・アルトマンベスト5を選出しておきたい。
1.『ザ・プレイヤー』(1992)
2.『M★A★S★Hマッシュ』(1970)
3.『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(2006)
4.『ショート・カッツ』(1994)
5.『プレタポルテ』(1994)
- 作者: レイモンド・チャンドラー,村上春樹
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アルトマンの名作といわれるチャンドラー原作『ロング・グッドバイ』(1973)を、今回あらためて見直してみて、村上春樹訳のあの格調高さと、気の利いたせりふがすっかり影を潜めてしまうほど、原作が改変されているのに驚いた。ラストでまさかのテリー・レノックスが・・・。あくまでアルトマン版『ロング・グッドバイ』になっていることは異化作用が本領の作家らしい。本来はベスト5に入れておきたい映画なのだが、ここは村上春樹訳原作につきたいと思う。
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