チェ 39歳別れの手紙


1月31日公開の続編『チェ 39歳別れの手紙』(Che part2;Guerrilla, 2008)を観る。第一部が「明」とすれば、第二部は「暗」に相当する。画面は終始暗い。ボリビアに偽名で侵入し、ゲリラ闘争を指導するゲバラは、ボリビア共産党からの支援を得られず、ゲリラ仲間の士気はいまひとつ盛り上がりに欠け、更に、頼みの農民に支持されない。追い打ちをかけるように、農民に密告されてしまう。孤立無援の1年あまりの解放闘争は、革命家の「宿命」なのか。あまりに悲しい。


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結果として二部作になった『チェ』は、ボリビアでの武装闘争から撮影を始めたようだ。ベニチオ・デル・トロの体型も腹が出た中年体型で、冒頭、カストロがチェからの手紙をテレビで読み上げるシーンから始まり、続いてゲバラは、OAS米州機構)の特史ラモンに変装して登場する。一旦、キューバの自宅で父の友人ラモンとしてくつろぐシーンがあり、家庭的な雰囲気をみせるが、画面は直ちにボリビアに転ずる。



ゲバラ自身は、アルゼンチン生まれであり、若い頃から旅を愛した。最初の旅行は『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)に記録されており、カストロとの出会いが、医者から革命家に転身する契機となったわけだが、ボリビアでのゲリラ闘争とは、ゲバラにとって何であったのか、ラストシーンから、第一部のキューバへ向かうゲバラにに戻り、無音のエンディング・ロールを見続けていると、映画を逆回転させて、第二部を見てから第一部を見た方が、ゲバラの生き方がより良く分かることに気づく。


二本が、あまりに対照的に撮られているが故に、ソダーバーグによる伝記映画の手法が分裂しているのではなく、敢えて異質な作品に仕上げたことが分かる。第一部はシネマスコープ、第二部はビスタサイズと画面の大きさを変えている。横長サイズの第一部は、希望と明るさに満ちているが、ビスタサイズの第二部は陰々滅滅たる色調に変化を持たせているのも、スティーヴン・ソダーバーグの意図があったからだ。


『チェ』は、132分+133分、計265分(約4時間半)の大作であり、ベニチオ・デル・トロの代表作になった。もちろん、ソダーバーグにとっても、アメリカ人として、チェ・ゲバラを映画化したことは勇気のいることであり、自身の代表作になったことは申すまでもない。傑作である。



なお、リチャード・フラーシャーが『革命戦士ゲバラ!』(Che!, 1969)を、1967年・ゲバラ死後2年目に撮っていたことを、吉田広明『B級ノワール論』(作品社、2008.10)*1で知った。


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*1:吉田広明『B級ノワール論』は、『拳銃魔』『ビッグ・コンボ』などの傑作で知られているジョセフ・F・ルイス、『ウィンチェスター銃'73』『グレン・ミラー物語』のアンソニー・マン、『ミクロの決死圏』『絞殺魔』のリチャード・フライシャーの、フィルム・ノワールに限定した作家論および40〜50年代アメリカ映画史として記述された貴重な映画論。後日覚書として報告予定。