クィーン
エリザベス女王を演じたヘレン・ミレンが、予想どおりアカデミー賞主演女優賞を受賞した映画、スティーヴン・フリアーズ『クィーン』(2006)を観た。ダイアナ元皇太子妃の死を巡って国民の意識と乖離する女王と、労働党党首となり、選挙で勝ち首相となったばかりの若いブレアとの関係を、淡々と、しかしときにスリリングに描いた作品だが、一種予定調和的な印象をぬぐい得ない。
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気負いたつブレア(マイケル・シーン)に対して、やんわりと国王と首相の位置関係を示すラストの女王のことばに、伝統ある皇室の威厳があらわれていた。
スティーヴン・フリアーズは、前作『ヘンダーソン夫人の贈り物』(2005)で、良きイギリス映画の伝統を踏まえて、なおかつ「階級問題」や「戦争と若者の死」が映画の底流に存在する。破産した劇場を購入した裕福な未亡人ヘンダーソン(ジュディ・デンチ)は、ユダヤ人の興業主ヴァンダム(ボブ・ホスキンス)と意見を対立させながらも、自分の希望する女性のヌードを舞台劇として成功させる。戦争に突入しても、ロンドンの地下劇場として存続させる。劇場の屋上にて、二人が社交ダンスに興じるシーンが、老婦人と中年男性のつかず離れずの男女関係を想起させる光景になっている。
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年配の女性と中年の男性との上下関係というのが、『クィーン』の、女王と首相の関係に反復されることになる。時間を置かずに、この二本を観れば、スティーヴン・フリアーズ監督の個性がみえてくる。どちらも実話を土台に脚本が構成されていること。老婦人を威厳をもった一人の「美しい女性」として描いていること。『ヘンダーソン夫人の贈り物』は喜劇的要素が強く、『クィーン』は悲劇の上にドラマが成立している。
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映画とは脚本が優れていることが前提であり、いかに演出するかであるけれど、この二本のイギリス映画は、いまはやりのCGなど一切使用していない。映画に何を求めるかは、観るものの位置を際だたせる。そんな例として、『ヘンダーソン夫人の贈り物』や『クィーン』、あるいは初期の傑作『マイ・ビューティフル・ランドレット』(1985)があり、映画を観れば分かることだ。
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イギリス映画といえば、ワーキングクラスにこだわるケン・ローチ。対象は変容すれども、対象との距離のとり方が一定している批判的映画作家のスティーヴン・フリアーズ。あるいは『秘密と嘘』(1996)や『ヴェラ・ドレイク』(2004)などで人生の深淵をみつめるマイク・リー。いずれもリアリズム映画だ。彼らの前世代に、イギリス・フリーシネマの伝統が視える。
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