ロシア革命アニメーション


ロシアのアニメといえば、ユーリ・ノルシュテイン『話の話』などが想起されるが、ソ連時代のプロパガンダとして作られたアニメーションが、その制約の中で実に、工夫がこらされ、あるときは前衛的であり、また斬新な映像やきわめて刺激的な表現方法をとっていることに衝撃を受けた。


ロシア革命アニメーション コンプリートDVD-BOX

ロシア革命アニメーション コンプリートDVD-BOX


ロシア革命アニメーション 1924-1979』「Aプログラム」8本、「Bプログラム」8本、計16本を観てきたので「覚書」を残しておきたい。


ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]

ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]


ジガ・ヴェルトフ『ソヴィエトのおもちゃ』(1924)は、御馳走を腹いっぱい食べて動けなくなったブルジョワに、労働者と農民がやってきて腹から税金を絞りとる。顔の表情を目玉の動きでみせている。ブルジョワのもとにギリシア正教カトリックの牧師がかけつける。ソヴィエト連邦にとって、ブルジョワのみならず、キリスト教という宗教も阿片(マルクス)であり、敵である。ラストでは、労働者や農民によって、ブルジョワとともに牧師たちも吊るされることになる。アニメーションの技術の初期にあって、表情を目玉の動きのみで見事に表現している。ジガ・ヴェルトフのフィルムはこれが初見であったが、なるほど凄いものだ。


マイケル・ナイマン カメラを持った男 [DVD]

マイケル・ナイマン カメラを持った男 [DVD]


戦後作品について、ロマン・ダヴィドフ『株主』(1963)は、まさしくサブプライムローン問題を予見したような作品であった。アメリカにおける工場労働者=市民は、企業の株主となりローンにより、車、住宅、家電などすべて揃えて豊かな生活を満喫している。しかし、一旦不況になると、すべてを失い自分の骨まで売ることになるという皮肉な結末。



ウラジミール・タラソフ『射撃場』(1979)はなんとも恐るべきフィルムだ。アメリカの失業青年が、射撃場の標的になるというとんでもないプロパガンダ映画だが、ニューヨークのポップな雰囲気を見事に捉え、アメリカ攻撃をここまでやるのかという思いと、明るい描写と内容の恐ろしさの対比が素晴らしく、フィルムとしての完成度は高い。



タラソフのもう一本『前進せよ、今がその時だ』(1977)は、マヤコフスキーの詩をもとにしたアヴァンギャルドなアニメであり、全編の映像から形容しがたい一種コマーシャルフィルムのような斬新さを感じる。鉄アレイの振幅によって「前進せよ」と訴えかける映像の迫力に圧倒される。



他に、エフィム・ガムブルグ『狼に気をつけろ』(1970)は発想がユニークだ。野生の狼少年がナチス再生の組織によって、戦闘員として再教育されて行く過程は、異様な雰囲気に満ちたダーク・プロパガンダの傑作となっている。



ナチス関係では、戦中に作られたレオニード・アマリリク、オリガ・ホダターエフの『映画サーカス』(1942)が、面白い。チャップリン風の道化役が案内し、ヒットラーを徹底的にコケにし笑い倒す。


アナトーリー・カラノヴィチ『ツイスター氏』(1963)は、シニカルな人種差別批判映画として貴重だ。富豪のアメリカ人ツイスター氏は娘の希望に従い、家族でロシア旅行に来る。ところがホテルに有色人種が宿泊していることを知り怒って、別のホテルを探そうとするが、ホテルの連絡網によりどのホテルもツイスター氏の宿泊を謝絶する。ソ連には人種差別は存在しないというプロパガンダ映画。理想的な国家ソビエト???


以上のように、きわめて刺激に富んだフィルム16本の「ロシア革命アニメーション」は、ソビエト社会主義体制のもとでのプロパガンダ・アニメーションでありながら、そこに特異な創造性を組み込んだ、エモーショナルなフィルム群であった。


チェブラーシカ [DVD]

チェブラーシカ [DVD]