デス・プルーフ in グラインドハウス


クエンティン・タランティーノデス・プルーフinグラインドハウス』(2007)は、B級作品、それもまぎれもなく低予算で、しかもドライブインシアターで上映されるような作品を目指したフィルムだ。


アメリカ大都市近郊の二番館・三番館にかけられるフィルムが擦り切れた二本立あるいは三本立で映画を上映する。そのような映画館を「グラインドハウス」と呼ばれていたらしい。日本でいえば、場末の二番館・三番館といったところか。映画が一本立てのロードショー形式が中心になった現在では、フィルムのすりきれた映画は上映されない。かつて大量生産されていた「グラインドハウス」で上映されるB級映画を再現しようとタランティーノは盟友ロバート・ロドリゲスと組んで、二本立ての「グラインドハウス」を製作した。その一本が、まず、タランティーノ監督『デス・プルーフinグラインドハウス』。


オリジナル・サウンドトラック デス・プルーフ in グラインドハウス

オリジナル・サウンドトラック デス・プルーフ in グラインドハウス


若い女性たちが集まりたわいもない話が延々と続く。映画的事件がおきるまでが長い。若い女性たちを、じっと凝視する中年男スタントマン・マイクカート・ラッセル)がいる。マイクは、若い女性を狙う殺人鬼だった。人気DJのシドニー・タミーア・ポワチエシドニー・ポワチエの娘)は、友人のジョーダン・ラッドを誘い、久々に帰郷したヴァネッサ・フェルリトやローズ・マッゴーワン(彼女はロドリゲス作品では、タフなヒロインを演じる)たちと、たわいないおしゃべりを繰り返す。女性たちが帰途につくと、カート・ラッセルデス・プルーフの車で女性たちを追いかけクラッシュさせる。ここまでが前半。



14ヶ月後、映画のスタント・ウーマンのトレイシー・トムズとゾーイ・ベル*1、メイク係りのロザリオ・ドーソン、それに新進女優のメアリー・エリザベス・ウィンステッドが加わり、休暇を利用して『バニシング・ポイント』(1971)で、疾走した車70年型ダッジ・チャレンジャーに試乗する。ゾーイが車のボンエットに乗り一種のスタント遊びに興じる。その一部始終をカート・ラッセルは視ている。やがて、彼女たちをデス・プルーフの車で追いかけ、容赦なく、車をぶつけて行く。どきどきわくわくのカーチェイスが始まる。後半の女性たちはスタントウーマンだけあって強い。殺人鬼カート・ラッセルと堂々とわたりあい、ラストでは圧倒的に押しまくる。豪快で痛快なエンディング。「THE END」マークで映画は終わる。



「映画=運動」的な、観る者に愉悦と爽快感をもたらすフィルムになっており、B級映画というより良質な娯楽映画といっていいだろう。『デス・プルーフinグラインドハウス』は、70年代のニュー・シネマ『ダーティ・メリー、クレイジー・ラリー』(1973)や前掲の『バニシング・ポイント』を意識した作品にもなっている。久々に楽しく映画を観ることができた。


*1:ゾーイ・ベルは『キル・ビル』でユマ・サーマンのスタントマンをつとめた。