ニュー・ワールド


監督名で映画を観ることが少なくなった。ビクトル・エリセと同様、撮影本数が極端に少ないテレンス・マリックは別格だ。30数年間で4本目となるテレンス・マリックニュー・ワールド』(2005)は、映像美と自然の美しさで観る者を圧倒するフィルムになっていて、期待を裏切らない。原案は、ディズニー映画にもなっている『ポカホンタス』だが、テレンス・マリックがそんな「おとぎ話」を撮るわけがない。


ポカホンタス [DVD]

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時代は17世紀。イギリス国王の命を受けたスミス(コリン・ファレル)は、新大陸のヴァージニアに漂着する。そこは、無垢で自然と融合したネイティヴ・アメリカンが居住する。ポウハタンという強大な権力を持つ王に支配されているが、きわめて平和な世界。そこに、甲冑をまとったイギリス人たちが「黄金」を求めてやってきたのだ。


ネイティヴ・アメリカンに捕らわれたスミスを救ったのは、王が一番愛する娘ポカホンタスクオリアンカ・キルヒャー)だった。二人は言葉が通じないまま「恋」に落ちる。娘が覚える英語は、太陽、空、水、唇など。いわば楽園に侵入してきたイギリス人とは、ネイティヴにとって敵以外の何者でもない。しかし、スミスとポカホンタスにとって未知の世界の最愛の恋人との遭遇であった。このあたりの描写は、美しく、また、台詞はモノローグとしてそれぞれの映像にかぶさるように撮られている。草原と川と太陽。あるがままの自然が、そのまま美しく撮られている。


天国の日々 [DVD]

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テレンス・マリックを有名にした『天国の日々』(1978)は、テキサスの大平原を軟調キャメラ(撮影は名手、ネストール・アルメンドロス)で美しく撮られていたし、20年ぶりに撮った『シン・レッド・ライン』(1998)は、太平洋戦争の激戦地ガダルカナルが舞台だったが、残虐な殺戮シーンと対照的に美しい草原をキャメラが捉える映像は眼を見張る素晴らしさであった。


シン・レッド・ライン [DVD]

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テレンス・マリックの作品に共通する自然の美しさと、人間同士の醜い争いが対比的に描かれる。『ニュー・ワールド』も、同じ視点の延長にあるといえよう。ネイティヴが持つ自然との共生は、近現代人が失った楽園そのものであった。楽園と引き換えに、文明が自然を破壊し、近代都市を構築して行く。映像にかぶさるモノローグにマリックの思想を見ることができるだろう。


『ニュー・ワールド』公式サイト


地獄の逃避行 [DVD]

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