ある愛の風景


デンマーク映画の女性監督スサンネ・ピア『ある愛の風景』(Brothers, 2004)を観る。平凡な日常と、戦争という極限状況に置かれた男の変貌は、観るものに圧倒的な印象を残す。手持ちキャメラとクロースアップの多用は、ラース・フォン・トリアーたちが推進する「ドグマ95」の映画手法であるが、本作はその手法と映像のざらつき感が巧妙に組み合わされ、優れたフィルムとなっている。観終わって、正直驚いた。『ある愛の風景』の映画的位相は、ブリュノ・デュモン『フランドル』を想起させる。


フランドル [DVD]

フランドル [DVD]


ミカエル(ウルリッヒ・トムセン)とサラ(コニー・ニールセン)は、二人の娘をもつ幸せな家庭を築いている。ミカエルがアフガニスタンに派遣される前、出所する弟ヤニック(ニコライ・リー・コス)を出迎えに行く。優秀で幸福な家族を持つ兄と、刑務所帰りで定職をもたないだらしない弟。いわば、対照的な兄弟がいる。賢兄愚弟。


ミカエルはアフガンの戦場へ。ヘリコプターで通信兵の救出に向かう途中、撃墜される。妻サラのもとへは夫の戦死の知らせが届く。突然の夫の死に直面し悲しみにくれるサラに、弟が娘たちを媒介として親しくなる。サラの家族にとって、愚弟はかけがいのない存在になって行く。


一方、ミカエルは通信兵とともに捕虜になっていた。捕虜が次々と殺戮されていくなかで、奇跡的に生き残っていたミカエルは、仲間の通信兵を殺すか、自分が殺されるかの選択を迫られ、家族のもとへ帰るべく、やむを得ず仲間を撲殺する。このシークエンスはショッキングだ。


イギリス軍が侵攻して屈辱的な捕虜から解放されたミカエルは帰省する。がしかし、仲間を殺害し生き残ったことがトラウマとなり、妻や娘たちと打ち解けることができない。サラや二人の娘たちは弟ヤニックに親しみを感じ、ミカエルの不自然な態度に距離を置く。ここで皮肉にも、兄弟の立場が逆転することになる。


ミカエルは弟に嫉妬し、サラと娘たちに暴力をふうるようになる。そしてついに刑務所へ。サラが面会に行き、アフガニスタンで一体何があったのか話をして欲しいと迫る。ミカエルは泣きながら語り始める。


平凡な日常に戦場の恐怖が忍び込む畏怖すべきフィルムだ。サラを演じるコニー・ニールセンの表情をクローズアップする手持ちキャメラがリアルに写し出す映像の感覚は観るものをひきつける。


監督が女性であることを感じさせる繊細な描写が、フィルムの細部を際立たせている。