よみがえる市川雷蔵


昨日のブログで時代劇復活に言及したので、時代劇最盛期のスター俳優であった市川雷蔵について記録しておきたい。

  

新・平家物語 [DVD]

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1950年代から1960年代にかけて活躍した数多くの映画スタ−がいる。その中で大映に所属し、15年間に159本の映画に出演、37歳で惜しくも他界した市川雷蔵という美形の俳優がいた。高倉健吉永小百合の現在を見れば、映画スタ−であり続けることの困難さはあまりにも明白であろう。市川雷蔵とは、スタ−がスタ−でありえた時代のヒ−ロ−で、没後40年の昨年には「大雷蔵祭」が催された。40年以上を経た今なおスタ−であり続ける永遠の俳優なのだ。


眠狂四郎 無頼剣 [DVD]

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眠狂四郎 勝負 [DVD]

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雷蔵は、『眠狂四郎』や『忍びの者』などのシリ−ズ時代劇に主演したことで知られている。また、映画史的には『炎上』『破戒』などの文芸作の評価が高い。1960年代では誰もが知っているスタ−であったが、つい最近まで一部のマニアックなファンか、懐古的な中高年世代に支持されている過去のスタ−にすぎなかった。しかしながら、雷蔵映画祭が何度も各地で催され、世代を超えて圧倒的な反響を巻き起こし、雷蔵の色褪せぬ魅力が再評価されつつある。

ぼんち [DVD]

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かつて映画の全盛時代には、毎週ないし隔週の割合で新作映画が封切られていた。時代劇の東映、アクションの日活、サラリ−マン喜劇の東宝、メロドラマの松竹、そしてなぜか雷蔵の所属する大映には、他社のような明確な路線がなかった。やがて勝新太郎市川雷蔵が二大看板となり、揶揄的に「カツライス定食」と呼ばれる番組が定着した。この時期、新東宝をも含めた六社の撮影所で毎月生産される作品群が、「プログラム・ピクチャ−」と呼称された。小津安二郎溝口健二成瀬巳喜男などの後期代表作は、このような贅沢な環境の中から生み出されたことを忘れてはなるまい。


ある殺し屋 [DVD]

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雷蔵作品も量産されるプログラム・ピクチャ−という環境のもとで、職人監督や撮影所スタッフに支えられ今日からみてもきわめて水準の高いフィルムとして残されたのである。


切られ与三郎 [DVD]

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159本の雷蔵作品のうち、30本を撮った森一生、様式美にこだわった三隅研次、時代劇の巨匠伊藤大輔、文芸作の市川崑、明朗時代劇など娯楽に徹した田中徳三、リアリズムの山本薩夫、官能的描写に優れた増村保造たち諸監督によって、雷蔵の多彩な姿が捉えられた。 

 

濡れ髪三度笠 [DVD]

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雷蔵映画の一つのパタ−ンは、明朗快活な若者が、ある事件を契機として、翳りを帯び悲壮感を漂わせた人物に変貌する明暗二面性を見せることにある。その代表作が、『薄桜記』であろう。『薄桜記』は小津安二郎大映作品『浮草』と二本立て公開され、実に豪華な組合せであったことは記憶に値する。新婚のういういしい若侍雷蔵は、妻の凌辱事件を発端として、片腕を切り落とされる。絶望の淵から復讐劇が始まり、ラストに至り片足を失いながらも、降り積もった雪の上で、敵と激しく闘い妻とともに死すシ−ンは、凄絶であるにもかかわらず、悲しみを突き抜けた爽やかな感動をもたらす。もう一つの代表作『切られ与三郎』では、お富、女旅芸人、義理の妹の三人の女性を巡ってせつなさが加わる。雷蔵与三郎は、養家に実子ができたため、そこを出て放蕩三昧。気っ風がよく快活な青年は、家督問題から逃げて新内流しをしている時、網元の囲われ者お富に誘惑され、旦那に見つかり顔や体に無数の傷を受ける。お富に裏切られ海になげ込まれるが、女旅芸人に運よく助けられる。しかし同じように女の誘惑と裏切が反復される。女の怖さをこれほど明快に描いた作品は他に類例を見ない。ラスト義理の妹との真の愛に目覚めて心中に至り、かろうじて見る者に救いをもたらす。明暗の二面が情緒豊かに雷蔵のダンディズムを引き出している。そのほか『斬る』『鯉名の銀平』『中山七里』などが明暗鮮やかな変身をみせるフィルムである。

剣鬼 [DVD]

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雷蔵といえば、眠狂四郎シリ−ズや『大菩薩峠』の机龍之助など虚無的な剣士像のイメ−ジが印象強い。『ある殺し屋』や『陸軍中野学校』のハ−ドボイルド調のク−ルで怜悧な男は、その現代劇版といえよう。男くささではなく、どこか中性的で両性具有的存在。市川雷蔵とは、非日常的世界のなかで輝く無垢のニヒリストにほかならない。『沓掛時次郎』『ひとり狼』の旅鴉、『若き日の信長』『忠直卿行状記』の戦国武将、『ぼんち』『好色一代男』の放蕩する若旦那など、実に様々な役を演じ分け、見事にその人物になりきっている。どの役も透明で、爽やかな印象を与えるのは、雷蔵自身のなかに両性具有的資質が内包されているからだ。


初春狸御殿 [DVD]

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 雷蔵映画はそのほとんどが横長のシネマスコ−プであり、DVDではなく是非スクリ−ンで見てみよう。雷蔵の代表作を数本に絞ることは難しいが、独断と偏見で必見フィルムを選んでみた。映画史上の名作としてリストアップされない作品こそ、雷蔵的世界の特質を語るにふさわしい。  


陸軍中野学校 [DVD]

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剣 [DVD]

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雷蔵必見フィルモグラフィ

ひとり狼 [DVD]

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