若尾文子映画祭


地方では、めずらしく「若尾文子映画祭」計12本が、6週間に亘り公開された。VTRやDVDで見てはいるものの、スクリーンで観るのは初めてという作品が多い。

一般的には、増村保造により女優・若尾文子が創造されたという見方がされる。しかし、その他の監督による女優像も実に、魅力的だ。


婚期 [DVD]

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例えば、吉村公三郎監督『婚期』(1961)で、29歳未婚の次女役。女性の本音がポン・ポンと軽やかに発するフットワークの良さを生かしたプライド高い女性を演じている。

しかし、圧倒的な女性性を表現する女優として魅せているのは、増村保造監督作品である。

青空娘 [DVD]

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『青空娘』(1957)のひたすら明るい田舎から上京する女性。『最高殊勲夫人』(1959)のユーモラスな女性。

妻は告白する [DVD]

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『妻は告白する』(1961)の薬学部助教授の妻。製薬会社社員の川口浩との愛を選ぶため、登山中の事故で、ザイルを切り、夫(小沢栄三郎)の殺人罪で裁判を受けるも無罪。しかし、川口を追いかける鬼気迫る演技は秀逸。

清作の妻 [DVD]

清作の妻 [DVD]

『清作の妻』(1965)における村の象徴・清作(市川雷蔵)の妻となり、夫を再び戦地に送られる日にある行動に出る。夫の眼を潰し、兵役につけない身体にしてしまう。それでも夫婦は、幸せをつかむ。

華岡青洲の妻 [DVD]

華岡青洲の妻 [DVD]

華岡青洲の妻』(1967)の姑・高峰秀子市川雷蔵による麻酔薬の実験を争う妻・若尾文子の激しい心意気。


赤い天使 [DVD]

赤い天使 [DVD]

『赤い天使』(1966)の従軍看護婦。戦場病院は、最初は軽傷者だが、戦地に近づくにつれ足を切断したり、手荒い手術となる。その軍医が芦田伸介。軍医は戦地で不能となっており、モルヒネにより睡眠をとっていた。西さくら(若尾文子)は、そんな軍医を助け、不能を回復させるが、軍医の戦場死に終わる。戦争批判映画の傑作。


特集上映『若尾文子映画祭 青春』では、若尾のまだあどけない魅力が光る『青空娘』(1957)をはじめ初めてデジタル化された15本を含む、60本の出演作が一挙上映されている。

人気ランキングの結果は以下の通り。

1位『しとやかな獣』(1962)監督:川島雄三
2位『赤い天使』(1966)監督:増村保造
3位『最高殊勲夫人』(1959)監督:増村保造
4位『女は二度生まれる』(1961)監督:川島雄三
5位『清作の妻』(1965)監督:増村保造
6位『卍(まんじ)』(1964)監督:増村保造
7位『妻は告白する』(1961)監督:増村保造
8位『青空娘』(1957)監督:増村保造
9位『「女の小箱」より 夫は見た』(1964)※監督:増村保造
10位『浮草』(1959)監督:小津安二郎


拙ブログが選出する若尾文子映画ベストは次のとおりとなる。

  1. 『赤い天使』(1966)監督:増村保造
  2. 『妻は告白する』(1961)監督:増村保造
  3. 華岡青洲の妻』(1967)監督:増村保造
  4. 『清作の妻』(1965)監督:増村保造
  5. 『青空娘』(1957)監督:増村保造
  6. 『婚期』(1961)監督:吉村公三郎
  7. 『赤線地帯』(1956)監督:溝口健二
  8. 『しとやかな獣』(1962)監督:川島雄三
  9. 『浮草』(1959)監督:小津安二郎
  10. 『「女の小箱」より 夫は見た』(1964)監督:増村保造
  11. 『刺青』(1966)監督:増村保造
  12. 『鴈の寺』(1962)監督:川島雄三

となり、8本が増村保造監督作品であり、川島雄三が2本、あとは吉村公三郎溝口健二小津安二郎が1本となる。

若尾文子へのインタビュー記事が掲載されている本を二冊持っている。

山根貞男著『増村保造』(筑摩書房,1992)

山根氏が、若尾文子に直接インタビューしている。内容は増村保造が中心だが、特に、『妻は告白する』のラストシークェンスは、女優として若尾さんが造りこんだ演技をすると、増村監督はもっと早いスピードでと依頼があった。しかし、作品全体の流れから、職場に川口浩を訪ねるシーン、雨に濡れた着物姿でキャメラが足元へパンすると、足袋が汚れていて、すっと足を後ろへ引く。階段をゆっくりと下り、洗面所の鏡を見てしゃがみ込むシーンまで、女性が持つ執念のようなものが凄いと思わせる。このシーンは、若尾さんが監督に勝ったという話をしている。



四方田犬彦斉藤綾子編著『映画女優 若尾文子』(みすず書房,2003)

編著者二人によるインタビューが掲載されている。『妻は告白する』について同様の話をしている。小津安二郎溝口健二の演出の個性と、川島雄三の楽しさについても語っている。溝口健二は、何も言わず、演技を続けさせる方法は多くの証言と同じである。小津安二郎が「文化人」とすれば、川島雄三は「銀座人」である、と。増村保造との『清作の妻』が、若尾さんは良かったと自己評価している。


それにしても、日本映画の全盛期を20〜30代で迎え、年10本前後出演している若尾文子という女優の存在は、観る度に素晴らしい女優だとつくづく思う。


浮草 [DVD]

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刺青 [DVD]

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【追記】日本映画の遺産として、溝口健二小津安二郎市川崑成瀬巳喜男川島雄三増村保造木下恵介黒澤明などの監督特集が、国際的に特集上映される。

俳優としては、市川雷蔵若尾文子が映画祭として、繰り返し上映されている。俳優の特集上映は、希有なケースなのだ。若尾文子の存在そのものが演技と融合されているからこそ、反復上映に耐えられることを強調しておきたい。