夢を見ましょう

サッシャ・ギトリのDVD-BOXが発売された。『とらんぷ譚』のみ評価が高い、この演劇・映画などマルチ才能のヌーヴェル・ヴァーグ先駆者のサッシャ・ギトリ作品集は貴重だ。


サッシャ・ギトリ 傑作選 DVD BOX(初回限定生産)

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まず、『夢を見ましょう』(1936)から観た。冒頭、音楽会シーンが始まり、いつの間にか、本編へ入るという仕掛け。弁護士サッシャ・ギトリは、レイミユとジャクリーヌ・ドリュバック夫妻をパーティに招待したが、弁護士はいない。彼は浴室で夫婦の会話を聞いている。夫レイミユが仕事の約束のためとの口実で出て行くと、弁護士は登場し、人妻ジャクリーヌ・ドリュバックを口説き始める。二人は弁護士の家でその夜に密会する約束をする。肝心の時間になるが、人妻は来ないので電話を入れる。二人はその夜、一夜をともに過ごす。翌朝、夫が弁護士の家にきたので、人妻を浴室に隠して夫の話を聞くと、なんと彼も浮気をしていてその相談だった。といった艶笑話で、エルンスト・ルビッチ風の室内ドラマ。主に長回しだが、途中にクロースアップがあり、蓮實重彦が指摘する<繋ぎ間違い>のようなカットもあり、楽しい。

この繋ぎ間違いは、小津安二郎のような意図的なカットではない。構図を重視する小津安二郎とひたすら語りが続くサッシャ・ギトリは、全く似ていない。



『デジレ』(1937)は、冒頭サッシャ・ギトリが登場し、この映画に出演する人物の紹介をする。そして、自らは召使いに扮して物語が始まる。現役の郵政大臣(ジャック・ボメール)の恋人ジャクリーヌ・ドリュバック邸。
女中のアデル(アルレッティ)と料理女マドレーヌ(カルトン)がキッチンに居る。そこへ、サッシャ・ギトリが召使いとして雇用してもらうために、尋ねてくる。夢の中で、登場人物の欲望が反映されるという思考に基づいた展開であり、艶笑譚的な内容が<夢>に転化されているため、サッシャ・ギトリにしては禁欲的作品になっている。『天井桟敷の人々』のアルレッティが、脇役の召使い役で出演していることに驚く。


天井桟敷の人々 HDニューマスター版 [DVD]

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『カドリーユ』(1938)は、新聞紙・編集長フィリップ(サッシャ・ギトリ)が、6年間人気女優ポーレット(ギャビー・モルレー)と同棲生活を続けており、そろそろプロポーズをしたいと思っている。女優には、友人の記者クロディーヌ(ジャクリーヌ・ドリュバック)がいる。
ハリウッドの人気俳優カール(シャルル・グレイ)がパリに滞在することになったので、新聞社として取材することになる。カールは、宿泊先ホテルの喫茶室でサイン責めに逢い、逆に、サインを求めなかったポーレットにサインを求める。カールを取材したフィリップは、ポーレットの舞台チケットを送る。カールは、舞台の女優がサインを求めた女性であることを知り、二人は接近する。
ポーレットはカールと、残されたフィリップはクロディーヌと結婚へ、カップル交換となりハッピーエンドとなる。この作品でも、サッシャ・ギトリは延々と弁論を続ける。言葉による愛の表現。


珠玉のフランス映画名作選 あなたの目になりたい [DVD]

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DVD-BOXではないが、単品で発売されているもう一本『あなたの目になりたい』(1943)は、美術展で彫刻家フランソワ(サッシャ・ギトリ)が、美しい女性カトリーヌ(ジャクリーヌ・ドリュバック)に出会い、モデルを依頼する。彫像製作は順調に進むが、あるときから、フランソワは、カトリーヌを避けるようになる。それは、フランソワが目の病気で失明するからであり、タイトルは、モデルとなった女性が彫刻家の目になりたいというラブロマンスである。ここでも、サッシャ・ギトリの語りは延々と続く。



とらんぷ譚 [DVD]

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DVD-BOXで3本と、単品1本をまとめて観たが、これらの作品に先行していたのが、『とらんぷ譚』(1936)であったことを思えば、ほぼナレーションによって映画を構成していたのが、サッシャ・ギトリの語りであったことに気づくのだった。


サッシャ・ギトリに関する文献は、故梅本洋一氏の一冊のみ。

サッシャ・ギトリ―都市・演劇・映画

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◆追記(2017年5月5日)

映画については、新作映画に言及してきた。旧作映画もDVD-BOX化された時点で、追いかけてきた。そろそろ、旧作映画については、小津安二郎を再見しなおす時期がきた。溝口健二清水宏あるいは成瀬巳喜男増村保造など挙げて行けば、きりがない。小津安二郎に絞って、観ておきたい。伝統的な日本の中流家庭を描いたという<幻想>を見極めること。そろそろ小津安二郎を落ち着いて観る時がきたようだ。

小津安二郎 DVD-BOX 第一集

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小津安二郎 DVD-BOX 第四集

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