原節子さんの死去


原節子さんが、9月5日に逝去されていたことが報じられた。リアルタイムで観た映画はないけれど、小津安二郎『晩春』から始まる紀子三部作が代表作だろう。


東京物語 [DVD]

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画面の真ん中で、正面を向いて微笑みながら上品な言葉使いで見る者を魅了する。小津ならではの演出で、大女優となったと言われている。

直近で観たのは、新発見された『新しき土』(1937)だった。日独合作映画。ドイツは、アーノルド・ファンク監督、日本は、伊丹万作による当時としては大作である。原節子は16歳。


原節子 十六歳 ~新しき土~ [DVD]

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日独同盟にかかわる国策映画ではあったが、山中貞雄河内山宗俊』(1936)に出演中に、アーノルド・ファンクが、合作映画の日本女優を探していて、原節子を主演に据えようと思い立ったようだ。


河内山宗俊 [DVD]

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『新しき土』は、欧州留学から小杉勇がドイツ女性ルート・エヴェラーを伴い、帰国する。許嫁であった着物姿の原節子よりも、ドイツ女性に惹かれている。一方、父早川雪舟のもとで小杉の帰りを待っていた原節子は絶望に陥り、花嫁衣装を持って火山に登る。しかし、そこは国策映画だから、最後は唐突に満州の新しき土地で、小杉と夫婦になっており、原節子は赤ん坊を抱いている。

といったような、戦前の日独同盟下の日本賛美を、絵に描いたようなフィルムだが、その時代状況を踏まえても、原節子16歳の美しさは尋常ではない。ジャポニズムなる着物姿の原節子は、着物のみならず、洋装、セーラー服、剣士姿、水着姿など、すべてがひらすら美しいのだ。


小早川家の秋 [DVD]

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のちに小津安二郎作品出演最初の『晩春』が29歳、『麦秋』が30歳、『東京物語』が33歳頃、小津との最後の作品『小早川家の秋』が41歳。小津安二郎が60歳で他界すると、42歳の若さで映画界から引退し、再びスクリーンに戻ることはなかった。


<あの頃映画> 白痴 [DVD]

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小津安二郎だけではなく、黒澤明とは戦後すぐの『わが青春に悔いなし』と、ナスターシャ役を演じた『白痴』がある。また、成瀬巳喜男作品は、『めし』『山の音』『驟雨』『娘・妻・母』に出演している。成瀬巳喜男の作品は、庶民的な女性を中心に描いているが、原節子は成瀬的世界でも、輝いていたのだった。



1930年代から、女優を始め、特に戦後1940年代から1950年代に、現在のアイドルやタレント女優などとは全く異なる、大物の美人女優として、日本映画界を支えたのだった。

リアルタイムで出会えなかった紀子三部作の原節子の素晴らしさは誰もが指摘するところだが、『秋日和』『小早川家の秋』の上品な美しさは、観ているだけで惹き込まれる。



ビデオやDVDで観る前は、小津安二郎の三部作を回顧上映で観たときから、その魅力に惹きつけられた。いわゆる<清純派の美人スター>とは一線を画している、伝説的女優だった。


新潮45 2011年 03月号 [雑誌]

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戦前の映画では、『新潮45』のDVD付録となった『生命の冠』(1936)を観た。内田吐夢監督の幻の映画といわれた作品で、国後島カニ漁やカニ缶詰工場など、ロケによる国後の自然の風景が映されていた。もちろん、そこには、15歳の原節子が文字どおり清純な少女として、映像化されていたのに驚いた。


西鶴一代女 [DVD]

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木下惠介生誕100年 「楢山節考」 [DVD]

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女優の生き方として、老いて画面に老醜を晒しても、演技を続けるという生き方もある。老いてなお存在感を示したのが、田中絹代だった。溝口健二西鶴一代女』に出演することで、老いた娼婦を演じた田中絹代は、溝口健二亡き後も女優を続け、木下恵介楢山節考』で死に行く老婆、熊井啓『サンダカン八番娼館 望郷』で老いた娼婦を見事に演じた。それも一種の、女優としての生き方=美しさに通じると云えよう。



ともあれ、小津安二郎成瀬巳喜男の映画から原節子の素晴らしさを観てきた、遅れてきたファンとして、原節子さんのご逝去をお祈りしたい。合掌。


あの頃映画 安城家の舞踏會 [DVD]

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木下惠介生誕100年 「お嬢さん乾杯」 [DVD]

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青い山脈 前・後篇 [DVD]

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