映画ベストテン2013年


恒例に従って、『キネマ旬報』2013年12月下旬号掲載の「ベストテン選出用作品リスト」をもとに、私が映画館・スクリーンで見た映画を選出した。なお、今年は久々に100本を超え、114本観た。


【日本映画】

1)「ペコロスの母に会いに行く」(森崎東
2)「かぐや姫の物語」(高畑勲
3)「そして父になる」(是枝裕和
4)「清須会議」(三谷幸喜
5)「風立ちぬ」(宮崎駿
6)「さよなら渓谷」(大森立嗣)
7)「舟を編む」(石井裕也
8)「許されざる者」(李相日)
9)「藁の盾」(三池崇史
10)「蠢動」(三上康生)
次点「日本の悲劇」(小林政広


ペコロスの母に会いに行く

ペコロスの母に会いに行く

そして父になる【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

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清須会議 (幻冬舎文庫)

清須会議 (幻冬舎文庫)

さよなら渓谷 [DVD]

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舟を編む 通常版 [DVD]

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許されざる者 [DVD]

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藁の楯 わらのたて(通常版) [DVD]

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まず、森崎東の8年ぶりの『ペコロス』は、監督自身が罹患している認知症について、自身の記憶が喪失して行く現状を自覚しながら、独特の笑いを混ぜて、見事に描いた傑作であり、文句なしのベスト1だ。

アニメ作品を2本選出したが、ジブリ作品の二人高畑勲宮崎駿が最後の作品となるであろう傑作を時間かけて製作した。一年に本命2本を配給したジブリは今後どうなるのか。期待より不安がよぎる。

是枝裕和三谷幸喜、大森立嗣、石井裕也、李相日、三池崇史の順位は、作品へ私の好みが反映された結果であり、若干の入れ替えも可能。

10位に置いた三上康生の『蠢動』は、禁欲的かつ寡黙な時代劇を作った。

青山真治監督、荒井晴彦脚本『共喰い』は、見ている間、気分が悪くなったが、親子関係、夫婦間における男の暴力は、リアリティがあり納得できるものであった。しかし今は、この種の映画を欲望しなくなった。

山田洋次の「東京家族」は、小津安二郎東京物語」のリメイクだが、セリフを借用しても、家族風景の描写では、小津安二郎から遠い。



沖田修一の「横道世之介」が、青春の分からなさを描き、秀逸だった。

新人・渡部亮平「かしこい狗は、吠えず笑う」は、前半の静寂さと後半の狂気ぶりの落差に、衝撃を受けた。


【外国映画】

1)「愛、アムール」(ミヒャエル・ハネケ
2)「愛さえあれば」(スザンネ・ビア)
3)「悪の法則」(リドリー・スコット
4)「グランド・マスター」(ウォン・カーウァイ
5)「ジャンゴ,繋がれざる者」(クエンティン・タランティーノ
6)「ホーリー・モーターズ」(レオス・カラックス
7)「嘆きのピエタ」(キム・ギドク
8)「天使の分け前」(ケン・ローチ
9)「トランス」(ダニー・ボイル
10)「ゼロ・グラビティ」(アルフォンソ・キュアロン
次点「タイピスト」(レジス・ロワンサン)


愛、アムール [DVD]

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愛さえあれば [DVD]

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グランド・マスター [DVD]

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嘆きのピエタ [DVD]

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天使の分け前 [DVD]

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ハリウッド映画は、一種の陥穽におちいっている。地球滅亡映画と、コミックヒーロー映画の氾濫に象徴されている。率直に言って、ドラマがなくなってしまった。世界が、文字どおりグローバル化している中で、ハリウッドのみがその帝国を謳歌できていない。

10本の内、リドリー・スコットタランティーノ、そして年末に観た『ゼロ・グラビティ』の3本は、印象に残るフィルムだった。

愛、アムール』は、『ペコロス』と同じ主題、認知症を扱っている。作品の視点は異なるものの、優れた映画であった。平穏な愛があふれる老夫婦ジャン=ルイ・トランティニャンエマニュエル・リヴァは、ある日を境に、妻の記憶喪失が次第に加速していく。夫が妻との生活にどう対応すべきか。人生の最後に近くなるにつれて、愛と生の究極の問いに直面する。ミハエル・ハネケの視点は冷酷であるが、キャメラの距離感が、観る者を圧する。


イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告

イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告


現在、岩波ホールで単館上映されている『ハンナ・アーレント』は、アイヒマン裁判というナチス犯罪について、裁判を傍聴した女性哲学者アレントは、「悪の凡庸さ」と規定した、そこを映画化することで、話題性といい、監督のマルガレート・フォン・トロッタが撮ったということだけで、早く観たいと思っているが、来年になるだろう。

ミヒャエル・ハネケに続いて、デンマーク人のスザンネ・ビアが南イタリアを舞台に撮った『愛さえあれば』は、観終わって、感動・納得ができる素敵な映画だった。文句なく選出した。スザンネ・ビアは、外れがない。

リドリー・スコットは、人間の闇に迫る『悪の法則』が、スタイリッシュでかつ官能的。映像表現のこだわりが示され、優れたアイロニカル映画になっている。

以下、ウォン・カーウァイタランティーノ、そして13年ぶりのレオス・カラックス映画と主演ドニ・ラヴァンの健在。キム・ギドクケン・ローチダニー・ボイルと続く。

昨年度アカデミー賞関係作品『リンカーン』『ライフ・オブ・パイ』『世界にひとつのプレイブック』『レ・ミゼラブル』などは、除外した。


ベストテンから外しているが、『キャプテン・フィリップス』も、緊迫したドキュメント的仕立てで、ソマリア問題を考えさせられた。それにしても、アメリカ海軍の迅速な対応と手際の良さに、一種複雑な戦慄を抱かせたのも事実だった。