夫・車谷長吉
高橋順子さんが、『夫・車谷長吉』を、三回忌に合わせて、書き下ろしとして出版された。異端的文学者と女流詩人の組み合わせ、結婚に至るまでが冒頭に置かれ、たしかにこの二人はどのようにして、出会ったのだろうかという疑問に答えている。
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それにしても、実に疲れるカップルだ。車谷長吉は私小説家で、極端な芸術至上主義者。自己および自分の家族や親族、友人、知人など、題材となるものは全て「文学作品」と考えていた気配がある。文学者の特権として、許される範囲だと思うが、訴訟となる場合もある。物書きとしての自負が、生き方を規定するのは当然だろう。
いわゆる晩婚だった二人については、車谷長吉のエッセイ集を通して読んできたが、一種のおのろけとして読んできた。しかし、この『夫・車谷長吉』を読むと、ただならぬ夫婦であったことがわかるし、文学者と詩人の同居は、車谷氏の他界とともに、別の様相を呈してくる。
『赤目四十八瀧心中未遂』が発売されたあとのこと、特に、直木賞受賞直後は、以下の書き出しから始まる。
まったくお祭り騒ぎだった。贅沢な話だが、電話、祝電、宅配便を受け取るだけで疲労困憊した。
(157頁)
その後、白洲正子さん他界に続き、作中に語られる多くの身近な人々の死、それは突然の死であり、受入れが難しい。
とりわけ、夫・車谷長吉の死の受容は、時間の経過や、文章化することで昇華されているようだ。既に、車谷氏の著書『世界一周恐怖航海記』や『四国八十八ヶ所巡礼』などによって知りえていた情報を、同行者であった詩人によって、改めて回想され記されると別の様相が視えてくる。
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二人が、共に過ごした時間は、多くの場所で出かけ、文や俳句の共同作業、なにより長吉の原稿を最初に読むのが、詩人の妻だったというところは、泣けてくる。20年余の結婚生活は、車谷氏からみても、また詩人・高橋順子さんからみても奇跡のカップルとしか言いようがない。
拙ブログでも、しばしば車谷長吉の著作について取り上げ、言及してきた。
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「私は鴎外、露伴、漱石、一葉、荷風の驥尾に付したい」と『文士の生魑魅』で記しているが、作風・傾向は、近代作家五人とは、全く異なる。独特の世界を造型している。小説への文体の拘りは異常に強く、作家の執念のようなものを感じたことを思い出す。
車谷氏の代表作は、
『鹽壺(しおつぼ)の匙』
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あたりだろうか。
随筆集としては次の二冊か。
『文士の魂』
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高橋順子氏による『夫・車谷長吉』は、興味深く一気に読んだ。夫=死者に捧げる回想録として、距離を置きながらも、情愛が伝わってくる。