バテレンの世紀


渡辺京二バテレンの世紀』(新潮社,2017)を読む。
『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリ)『黒船前夜』(洋泉社)に続く三部作に位置する。ただし、時代は16世紀に遡及する。大航海時代ポルトガルの海外進出から記述が始まるが、フランシスコ・ザビエルが日本に到着するまでに時間がかかる。


バテレンの世紀

バテレンの世紀


前二著との違いは、『バテレンの世紀』が歴史叙述に徹していることであり、読者からすればポルトガル人の固有名詞頻出に耐えられるかどうか。あるところまで達すると、著者の意図が視えてくる。

ポルトガルは、香辛料等を求めて、東アジアにやってくる。この時期に会わせたかのように、イグナチウス・ロヨライエズス会を結成している。大航海は、香辛料等を求めて東洋に来るが、イエズス会フランシスコ・ザビエルが同行して日本に来たことが、キリスト教・布教を前景化する。


黒船前夜 ~ロシア・アイヌ・日本の三国志

黒船前夜 ~ロシア・アイヌ・日本の三国志


いわばファーストコンタクトに当たるイエズス会による日本布教がほぼ100年間続いた。この時期は、ヨーロッパと日本は対等であった。100年間の鎖国を過ぎ、ロシアの接触(前著『黒船前夜』)を経て、アメリカ合衆国の黒船出現のセカンドコンタクトとなる。幕末には、欧米は既に近代化が進み、蒸気船が小さな国に分割された日本に衝撃を与えるわけだ。本書『バテレンの世紀』は、西欧と対等であったファーストコンタクトを、描出している歴史叙述である。


渡辺京二は、余談だがと記しながら、イエズス会共産主義前衛党の「先蹤」だったと指摘している。

総じてイエズス会が20世紀の共産主義政党と性格・手法において一致しているのはおどろくほどである。実現すべき目的の超越的絶対性、組織の大目的への献身、そのための自己改造、目的のあめには強弁も嘘も辞さぬ点において、イエズス会共産主義前衛党のまぎれもない先蹤といわねばならぬ。組織内における上級意志の卓越、それに対する服従、上部への通信・報告の義務化という点でも両者はいちじるしく似ている。(p189)


またキリシタン布教期と、幕末を対比して、以下のように記す。

バテレン達が信じたのは、精神の優位である。かくて日欧のファースト・コンタクトは、この300年後のセカンド・コンタクトの構図を先取りする一面を示すこととなった。(p196)


逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)


こうした指摘は、渡辺京二が体験した自身の共産党体験と、『逝きし世の面影』執筆の原風景となっていると推察できるだろう。



著者が「あとがき」に記述しているとおり、本書は『日本近世の起源』(洋泉社,2008)の補足篇として読むことも可能であり、渡辺京二氏の一連の日本近代化論と併読することで、氏の全貌が視えてくるだろう。


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