東日本大震災
3.11以前と以後では、日本の世界観が180度変わってしまった。
震災や津波の被害は、ニュース画面でみると恐怖感に捉われる。
しかし、東日本の太平洋側の海岸沿いの被災地は、共同体の絆が残っていた。震災当初は、海外から震災に対応する冷静な日本人を改めて評価する声が多かった。実は、日本の近代化以前、すなわち幕末に来日した外国人から見た日本は、称賛に値すると記録していたことは、渡辺京二著『逝きし世の面影』や『黒船前夜』において、詳細に言及されている。
- 作者: 渡辺京二
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- 作者: 渡辺京二
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この度の震災・津波被害を受けた人びとの姿勢は、幕末の共同体に生きた民衆に同一化できるように思う。更に、1945年の敗戦後に復興する人々の姿に重なると言及する人々がいるが、似て非なるものといえよう。
地震と津波の自然災害と、人災(福島原発事故)の三重の被害に遭遇している福島県は、きわめて理不尽な事態になっている。広瀬隆氏は、30年以前から反原発にかかわり、『東京に原発を!』(JICC出版局、1981)を出版し、「原発が安全なら東京に」と言っていたが、全ての原発は都会から離れた、海洋沿いに立地していることは、その後の経過でもみてとれる。
- 作者: 広瀬隆
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しかも昨年8月に発行された『原子炉時限爆弾 大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社、2010)は、浜岡原発を対象にしているが、内容的には、今回の事故に該当する警告であった。原発による放射性廃棄物の最終的な処理が決まっていないことの怖さ、安全とは誰にとっての安全なのか。福島原発1号機の「メルトダウン」は地震・津波を受け、電源喪失の直後起きていたことが、2か月過ぎて明らかになった。
- 作者: 広瀬隆
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この間、テレビ評論家やTVコメンテータの言葉の軽さが気になる。政治家・政党の存在感が薄く、一般人の静かな援助活動に好感が持てる。久々に御用学者なる言葉が聞かれる始末だ。
福島原発関係の単行本では、川村湊『福島原発人災記』(現代書館)が、ネット上の原発関係のHP等から文字通りカット&ペイストにより、原子力利益共同体の正体が明かされている。川村本は、斎藤美奈子の『朝日新聞』4月「文芸時評」でも早速、取り上げられていた。
- 作者: 川村湊 著
- 出版社/メーカー: 現代書館
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震災後2ヵ月以上が経過し、各種メディアとりわけ、雑誌に緊急特集として「東日本大震災」が組まれるようになった。『現代思想』や『仙台学』から『Newton』に至るまで。特に『現代思想』の内容が参考になる。例えば飯田哲也氏の論考により、原子力村なるものが存在し、利益共同体として機能してきたことがよく分った。
また吉岡斉氏の「福島原発震災の政策的意味」は、原発の科学的意味がよくわかる。政策転換への提言「(1)原子力安全規制行政の抜本的改革。(2)発電用原子炉の新増設の禁止と、既設の発電用原子炉の安全性の点検。(3)政府計画からの原子力発電拡大方針方針の削除と、原子力優遇政策の全面的な廃止。(4)東京電力の会社解散と、電力自由化推進を骨子とする電力体制再編」の四項目。
そもそも、放射性廃棄物の最終的処理が現状では不可能であるにもかかわらず、とりあえず一時的に保管しているだけで、この先、何処へ廃棄処分するのだろうか。
小松美彦氏「封印された「死の灰」はそれでも降る」は実に示唆的だった。小松氏の論考の中で、「朝まで生テレビ」で勝間和代の発言、チェルノブイリ原発事故の規模と被害も「たいしたことはない」という暴言が取り上げられているが、所詮、勝間さんはハウトゥー本を書いてきたポピュリストに過ぎないことが、今回の重大な局面を受けてはっきりした。
斑目安全委員長を中心とするいわゆる「御用学者」*1たちも次第に分ってきた。
福島原発を中心に眼にみえない放射能汚染が、拡散している現状は、被爆国である日本にまた核被害をもたらしてしまった。何時、収束するか予測不可能のなかで、冷戦体制時、中曽根元首相のもと長期的な自民党時代に始めた負のエネルギー政策をどう転換して行くのか、国民一人ひとりが考えなければならない。
- 作者: 広瀬隆
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広瀬隆氏の新著『福島原発メルトダウン』(朝日新書、2011)が刊行された。東電・政府・安全委員会=保安院すべてが一体となって、肝心な事実を隠蔽しているのではないか。放射能体内被曝のことだ。「ただちに健康に影響はない」との牽制は、後には健康に大きな影響があるかも知れないことを示唆している。
- 作者: 高木仁三郎
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高木仁三郎氏が、死の直前まで書いていた『原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波新書、2000)が今になって説得力がある。ついに福島原発の1号機のみならず、2号機・3号機までメルトダウンしていたことがほぼまちがいないことがわかった。
原発事故は、目に視えない危険な放射能が放出される。今回の事故でも、どのように収束するかいまだ不明だが、関東地区および海洋に大量の放射能が拡散していることは、間違いないだろう。恐るべきは<食物連鎖>への影響だ。高木氏が存命であれば、この事態を見て何と発言されるだろうか。
もはや、現在の原発は定期点検での停止を待ち、順次廃炉にすることしか方途はない。原子力発電がなくとも、豊富な電力があることは、広瀬氏新著220・221頁の「図18 発電施設の設備容量と最大電力の推移」で、原子力は常に最大電力の余力となっていることが十分に説明されている。更に電力の送電、発電の自由化が加われば、原発が不要となるだろう。
地震大国日本に、なぜ、危険な原発が国策として推進されたのか、高木氏や広瀬氏が既に指摘してきた。
反原発、出前します―原発・事故・影響そして未来を考える 高木仁三郎講義録
- 作者: 高木仁三郎,反原発出前のお店
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- 作者: 高木仁三郎
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ともあれ、この2カ月余り、あまりにも多くのことを考えさせられた。趣味本のなかに没入できなくなり、世界が違ってみえてきた。
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