本の収穫2013


例年に従い、2013年「本の収穫」をあげておきたい。
映画と異なり、ベスト10ではなく、あくまで収穫である。


◎一般図書関係

國分功一郎ドゥルーズの哲学原理』岩波書店,2013
國分功一郎『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』幻冬舎新書,2013

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

國分功一郎は『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社,2011)で、衝撃を与えた。
ドゥルーズの哲学原理』において、自由間接話法という独特の方法でドゥルーズは、哲学者のことばを自著で引用しながら、<ドゥルーズ哲学>を形成したこと。様々な解釈が混線し、読者の数だけのドゥルーズがいる。自由間接話法からドゥルーズを読み解く國分功一郎の功績は、大きい。

しかも、哲学者が、現実の政治問題に直接関与した経緯を『来るべき民主主義』として報告した新書版は、書斎の中でしか考えないかつての哲学者のイメージを払拭し、いま、ここにある現実的な政治問題にたち向かって行く姿勢は潔い。

小平市の問題は、日本の行政問題と国民投票を考えるための、小さな都市の大きな問題を提起している。


○千葉雅也『動きすぎてはいけない: ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』河出書房新社,2013



本書は、「紀伊国屋じんぶん大賞2013」を受賞している。
ドゥルーズベルクソン(持続)ではなく、ドゥルーズ=ヒューム(切断)を重視する。序「切断論」を読めば、千葉氏の意図は理解できる。ベルクソンではなく、ドゥルーズのヒューム主義に重点を置くことを。

引用されるドゥルーズの言説は、著者の意図に合うことばの引用により「切断論」の仮説があたかも、立証されたかのように読むことが可能となる。それは、ドゥルーズの大著『シネマ1・2』からの引用箇所から、視えてきた。

ポスト・モダン思想は、一般的には難解といわれ、流行思想として一時代を劃した。しかし、丸山眞男が指摘しているように、この国に根付かない。外来思想が、つぎつぎと表層を覆い、古層には届かない。戦後の思想だけみても、実存主義構造主義ポスト構造主義、ポスト・モダン、カルチュラル・スタディーズ、ポスト・コロニアルなどなど。思想は流行するが、根付かず、つぎつぎと変容して行く。新しい思想は、刺激的だから・・・


前田英樹ベルクソン哲学の遺言』岩波書店,2013

ベルクソン哲学の遺言 (岩波現代全書)

ベルクソン哲学の遺言 (岩波現代全書)

記憶と生

記憶と生

前田英樹は、ベルクソンの遺言を評価する。
ベルクソンは、正式な著書として七冊の著書以外の死後出版を禁じた。

1.『意識の直接与件についての試論』1889
2.『物質と記憶』1896
3.『笑い』1900
4.『創造的進化』1907
5.『精神のエネルギー』1919
6.『道徳と宗教の二源泉』1932
7.『思想と動くもの』1934

私は、公衆に読んでもらいたいものすべてを刊行したと宣言する。したがって、私は、私の書類束、その他のなかに見つけられるだろう私が書いたすべての原稿、原稿のすべての部分の出版をきっぱりと禁止する。私はあらゆる講義、原稿のすべての出版を禁止する。それらが誰かの筆記によるものであろうと、私自身の覚え書きであろうとおなじことである。また、私は、私の手紙類の出版をも禁止する。(p6,引用の引用)


しかし、この「禁止」は周知のとおり、ことごとく破られている。ベルクソンが生前、公刊していた二論文は『メランジュ(論稿集)』として、一応遺言には抵触しない。「アリストテレスの場所論」(1889)と「持続と同時性」(1922)である。遺言の制限を超えたものとして、「書簡集」と「講義録」が、ベルクソンの意思を無視して、研究のためという名目で公刊されている。

もちろん、哲学に限らず、学問的研究とは、断簡零墨まで精査し、検証・考察するものだが、ベルクソンは、哲学と呼ばれる「単純なひとつの行為」を、その「持続において思考する」なら、現れてくるのは圧倒的なヴィジョンだと語っているのだ。

哲学の<歴史>だの<影響関係>だのを描いているうちは、話しがいくらでも複雑になるというわけだ。


○アンリ・ベルクソン著、原章二訳『思考と動き 』平凡社ライブラリ,2013

思考と動き (平凡社ライブラリー)

思考と動き (平凡社ライブラリー)

精神のエネルギー (平凡社ライブラリー)

精神のエネルギー (平凡社ライブラリー)

これまで『思想と動くもの』のタイトルで翻訳されてきた、ベルクソン最後の著書の新訳。
平凡社ライブラリから『精神のエネルギー』の新訳とともに、ベルクソン再評価の傾向に沿うものである。


ポール・ド・マン著、上野成利訳『美学イデオロギー平凡社ライブラリ,2013

「文学理論というものはわれわれの時代になって初めて出現したもの」という、ポール・ド・マンの言葉は、象徴的である。本書は、哲学者カントやヘーゲルの美学に迫る。


○ 白井聡『永続敗戦論』太田出版,2013

「先の戦争」は、8・15を終戦の日として終わらせているようにみえるが、日本は敗戦国であり、3・11以後の日本は、原発安全神話が崩壊したにも関わらず、肝心の問題をそらして、戦争責任問題をこの国は解決していない。


古市憲寿『誰も戦争を教えてくれなかった』講談社,2013

誰も戦争を教えてくれなかった

誰も戦争を教えてくれなかった

1985年生まれの著者は、世界の戦争博物館を巡る。付録の「ももクロとの対話」は不要。
しかしながら、こような発想自体は、古市氏以前の世代には意識できなかったものであり、高く評価できる。


小島信夫『ラヴ・レター』夏葉社,2013

残光 (新潮文庫)

残光 (新潮文庫)

単行本未収録の短編集。小島信夫の小説は、常に過去の作品への言及があり、文章そのものは難しくないが、内容がすんなり理解出来がたい。不思議な作品だ。小島信夫の文体は、小説に限らず評論も同じ文体になっている。自己言及的メタ小説の作家であることがよくわかる。


橋爪大三郎編著、宮台真司〔ほか〕著『小室直樹の世界 社会科学の復興をめざして』ミネルヴァ書房,2013

小室直樹という存在自体が、よく分からなかった。本書の刊行により、おぼろげながら守備範囲の広い学者であることが伝わってくる。膨大な著作があるが、本人の才能は、計り知れないところにあるようだ。



◎本・図書館など

○『シリーズ図書館情報学』全3巻 東京大学出版会,2013

1. 図書館情報学基礎
2.情報資源の組織化と提供
3.情報資源の社会制度と経営


シリーズ図書館情報学2 情報資源の組織化と提供

シリーズ図書館情報学2 情報資源の組織化と提供

司書課程の新科目への対応というより、目指すべき図書館情報学の基礎的な知識習得を目的としている。より専門的に学ぶために!


○福留強『図書館がまちを変える』東京創作出版,2013

ライブラリー・オブ・ザ・イヤー大賞2013年は、長野県伊那私立図書館が受賞した。『朝日新聞(大阪版)』12月29日の「ひと」欄で、館長の平賀研也氏が取り上げられていた。江戸時代、高速藩があった土地の暮らしには、歴史と文化が根付いていた。その価値に住民が気づいていなかった。学校や博物館に眠っていた古地図を使い、旧城下町の地図上に自分の現在地を表示して街歩きを楽しめる携帯端末用アプリを開発し、地方都市を活性化させた、というわけだ。

伊那市図書館のように、地方小都市の図書館で何ができるかを、その地域固有の宝を発見することが、古地図による街歩きアプリ開発に結びついた。

本書は、伊那市図書館を紹介していないが、これからの図書館が、如何に地域とつながるか。地域との関わる方法を例示している。


○『図書館のトリセツ』講談社,2013

世の中への扉 図書館のトリセツ

世の中への扉 図書館のトリセツ

小学生以上が対象であるが、大人が読んでも十分図書館の仕組みや、利用の仕方が分かる。


○『図書館用語集 4訂版』日本図書館協会,2013

○『ぼくは、図書館がすき 漆原宏写真集』日本図書館協会,2013

ぼくは、図書館がすき―漆原宏写真集

ぼくは、図書館がすき―漆原宏写真集

○『本屋図鑑』夏葉社,2013

本屋図鑑

本屋図鑑

○内沼晋太郎『本の逆襲』朝日出版社、2013

○ローター・ミュラー著,三谷武司訳『メディアとしての紙の文化史』東洋書林,2013

メディアとしての紙の文化史

メディアとしての紙の文化史