つながる図書館


猪谷千香『つながる図書館―コミュニティの核をめざす試み』(ちくま新書,2014)は、この10年間で、公共図書館が地域を拠点に如何に変貌したか、千代田図書館から、最近話題の武雄市図書館まで紹介しながら、わたしたち利用者にとって図書館はどうあるべきかをルポした、新書版久々の傑作図書館本だ。



「公共無料貸本屋」として、貸出冊数が図書館評価の指標であった時代は、過去のものであることを、多くの先端的図書館で取材した、住民のための図書館という新たな展開を知らされる。

まず、本書の構成を以下に示しておく。


プロローグ 恋人と出会える図書館
第1章 変わるあなたの町の図書館(武蔵野プレイス)
第2章 新しい図書館の作り方(千代田図書館小布施町まちとしょテラソ)
第3章 「無料貸本屋」批判から課題解決型図書館へ(鳥取県立図書館
第4章 岐路に立つ公立図書館(神奈川県立図書館)
第5章 「武雄市図書館」と「伊万里市民図書館」が選んだ道
第6章 つながる公共図書館飯能市立図書館、ふなばし駅前図書館、リブライズ、島根県海土町中央図書館)


目次を見ると、実に魅力的な内容であり、また逆に目次から「内容」を推測できる仕掛けになっているが、以下小生の関心を中心に本書に触れたい。


本書では、県立図書館と、市立図書館や地域の図書館の役割が、基本的に異なることを解説し、都市部における二重行政問題とは切り離して考えるべきであることを、神奈川県の例によって説明している。県立図書館の、市立図書館や地域図書館との違いは、資料収集とバックヤードの重要さにあることを指摘している。


はなぼん ~わくわく演出マネジメント

はなぼん ~わくわく演出マネジメント


地域の拠点として図書館を積極的に活用している例として、小布施町「まちとしょテラソ」の斬新的な図書館活動など刮目事例が衝撃的だ。


図書館が街を創る。 「武雄市図書館」という挑戦

図書館が街を創る。 「武雄市図書館」という挑戦


最も、刺激的なのは、いま話題の武雄図書館と伊万里市民図書館を比較しながら紹介する第五章である。指定管理職として、CCC(蔦谷書店グループ)に丸投げしている武雄図書館と、市民が地道に地域図書館を構築してきた伊万里市民図書館との対照的な比較。同じ佐賀県にある図書館の在り方は、図書館とは何かを根底的に考える好例になっている。


指定管理職制度における安い賃金と短期的な雇用、すなわち「官製ワークングプア」問題が、背後に隠れている。図書館職員の継続勤務問題もある。


毎年、司書の資格を取得する卒業生は、約1万人いる。しかし、卒業時に、どこかの図書館に正規職員として採用される人数は、きわめて少ない。専門職としての司書は、図書館の電算化や、ネットワーク化により不要になっていると考えられる傾向があるが、レファレンスなど、資料や情報の所在に精通した司書は、ビジネス支援や、生涯学習支援、就職支援など、様々な利用者のニーズに対応できる。司書は、現場での育成や研修を経験しながら、その図書館が所蔵する資料群や、地域資料に精通してくる。猪谷氏は、レファレンスコーナーを、<?>マークを掲げることによって、どのような相談にも対応できることを利用者に示す例を紹介している。

身近な公共図書館を、いま一度、検討してみるべきではないだろうか。地方行政の財源が不足するなかで、図書館は、まちづくりや地域的財産を利用した経済効果も期待できる事例があることを、知らされる。

知の広場――図書館と自由

知の広場――図書館と自由


アントネッリ・アンニョリ著、菅野有美訳『知の広場−図書館と自由 』(みすず書房,2011)で紹介されたイタリアの図書館事情も、これからの図書館のあり方を考える好著であった。


貸出中心の図書館から、地域活性化の拠点として、課題解決型図書館に変貌しつつある図書館を見直すために、猪谷千香氏の『つながる図書館』は貴重な参考レポートになっている。