松岡正剛の書棚


千夜千冊で周知の松岡正剛が、丸善丸の内店4階に「松丸本舗」として書棚構成を展開している。この度『松岡正剛の書棚』(中央公論新社、2010.7)が、書物化された。


松岡正剛の書棚―松丸本舗の挑戦

松岡正剛の書棚―松丸本舗の挑戦


佐藤優との対談で、松岡正剛は次のように述べている。

本は版元、編集者、著者、印刷所、読者、書店、市場などで成立しているのですが、その本を取り巻く状況があって、そこに政治・貧困・文壇・嫉妬そのほかが渦まいています。更には膨大な資料もつながっている。だから常に発禁もあるわけです。だからこそ誰によってどのように書かれたのか。どういう時代に出版され、どのように読まれてきたのか。それらをすべてひっくるめて読むべきです。それは「共読」だと思うんです。しかし、今の日本の読書は単純化しすぎている気がします。(p.84)


純化された読書にたいして、「松丸本舗」の書棚は壮大でかつ美しい。書棚への排架に松岡氏の思想が反映している。


ヨーロッパの歴史的図書館

ヨーロッパの歴史的図書館

  • 作者: ヴィンフリートレーシュブルク,Winfried Loschburg,宮原啓子,山本三代子
  • 出版社/メーカー: 国文社
  • 発売日: 1994/05
  • メディア: 単行本
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松岡氏が本書で紹介している『ヨーロッパの歴史的図書館』を眺めていると、図書館の存在が如何に大きなものであるかよく分かる。実際紹介されている図書館の内、プラハ・シュトラホフ修道院図書館、ウィーンのオーストリア国立図書館フィレンツェメディチ家図書館は、この目でみているだけにそれぞれ思い出深いものがある。

ヨーロッパのめくるめく図書館を「読む」コーナーについて松岡氏の解説を引用する。


司書

司書

ゴットフリート・ロストの『司書』は、図書館司書たちが、かび臭い本の森の中でこっそり何をしてきたのかが歴史的に書いてあって、とても興味をそそられる。書店員や図書館員こそ読みなさい。レーシュブルクの『ヨーロッパの歴史的図書館』は、見事な写真によって、有名な歴史図書館の蔵書の並びやインテリアの具合が、克明に見えてくるようになっている。アルベルト・マングェルの『読書の歴史』には参った。これほど豊富な読書体験を「読書史」がどう発展してきたかという政治経済文化史の中に組み込んで書けるのだから、マングェルこそ「破格の読書王」の称号が与えられていい。
(p31)


読書の歴史―あるいは読者の歴史 (叢書Laurus)

読書の歴史―あるいは読者の歴史 (叢書Laurus)



今、電子書籍元年などと、書物のデジタル化とコンテンツ化による販売戦略のみが声だかに語られているけれど、そしてまた、個人が書物を裁断しスキャナーで読み取り「iPad」にダウンロードしている人達がいると先日のテレビが放映していた。もちろん、個人が書物を購入し、所有する「iPad」に蓄積し、好きな時に好きな本を読むことを可能とした功績を称賛することにやぶさかではないが、TVに映された村上春樹著『1Q84 BOOK3』がカッターにより裁断されている光景を見ると、もはや媒体としての書物への思いなど、関係なくひたすら活字にのみ重点を置く傾向になっており、ある種同化し難いものを感じる。


出版者が、書物と同時に電子テキストとして販売すればいいことで、書物を平気で裁断することへの後ろめたさのなさには、辟易させられた。本をどのような媒体で持つかは、個人の好みの次元に置き換えられたのだ。