ブレードランナー
ドゥニ・ビルヌーブ監督『ブレードランナー 2049』(2017)を観た。リドリー・スコットが監督した『ブレードランナー』(1982)は、2019年が舞台であった。『2049』では、ダッカードを演じたハリソン・フォードの登場までに、三分の二の時間が経過していた。
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続編を前提としてみれば、ハリソン・フォードとショーン・ヤングが逃亡した後、30年後に二人はどうなっているのか、というのは大きな問題だが、アンドロイドであるレイチェルが生んだと思われる子どもは、隔離された特別な空間に住むアナ・ステライン博士 ( カーラ・ジュリ)であることに、K(ライアン・ゴズリング)は気づき、ダッカードを娘に会わせるというのがラストシーンとなる。いきなりのネタバレであるが、既にカルト映画となっている『ブレードランナー』(1982)についてまず触れる必要があるだろう。
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リドリー・スコットが監督した『ブレードランナー』には、5つの版がある。
- オリジナル公開版(1982)
- インターナショナル版(1982)
- ディレクターズカット版(1991)
- ファイアルカット版(2007)
- ワークプリント版(1982)
以上、5つの版になる。
リドリー・スコットが拘ったディレクターズカット版及びファイナルカット版では、ダッカードが夢みる一角獣が走るシーンが挿入され、ハリソン・フォードとショーン・ヤングの二人が、エレベータに乗り逃亡すると思わせるシーンがエンディングになっている。
1982年製作時には、CG技術以前であり、ミニチュアセットを作り、撮影技術によって見事なSF空間を表出している。酸性雨が絶えず降り続けるロサンゼルスの街、全てが夜景となっている。
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今回、DVDでワークプリント版、オリジナル公開版、ディレクターズカット版、ファイアルカット版を見直したわけだが、リドリー・スコットの細部の正確さへのこだわりが強く、ゾーラ・サロメをスタントマンで撮っていたシーンの一部を追加している。いずれにせよ、『ブレードランナー』は神話化され、CGが使用される前のSF映画の金字塔とまで称賛されている。公開時の不人気は、同時期に公開された『ET』『ポルターガイスト』『ロッキー3』などに話題が集まり、とりわけ、SF作品であるスピルバーグ『ET』の世界とは対照的に暗く、ダークサイド的側面が強い『ブレードランナー』は、公開時の興行に影響したと今では考えられる。それが、ビデオの発売により、次第にカルト的、マニアックなファンが徐々に増加して行く。現在では、SF映画の傑作と称される。
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『ブレードランナー』の酸性雨が常に降りそそぐロサンゼルスの陰鬱な背景に比べ、『ブレードランナー 2049』は荒廃した荒野のイメージ、あるいは降り注ぐのは雪。ライアン・ゴズリングは、登場から陰鬱な表情であり、最初のターゲット、サッパー・モートンは、悪のイメージのないレプリカント。その住居近くにレプリカントの遺体らしきものが埋葬されていた。レイチェルである。
レイシェルが出産で死亡し、「61021」の記号が残された生まれた子どもは、男と女。女は既に死亡し男は生きているという情報をもとに、K自らの記号である「61021」が木馬に彫られていたことの調査のため、ライアン・ゴズリングは、アナ・ステライン博士を訪ねる。
ライアン・ゴズリングは、ホログラムのジョイ(アナ・デ・アルマス)を、ヴァーチャルな恋人としている。ホログラムだから消去することもできる。いわば、文字どおり儚い恋人同士なのだ。
さて、ラストシーンを記述してしまったので、問題は人間とレプリカントあるいはAIの問題に辿りつくだろう。2017年現在では、囲碁や将棋は、既にAIが人間との勝負に勝つといった現象が起きている。AIはもちろんプログラムされたもので、膨大なデータをもとに、ある課題に直面した場合、最適な方法を自動的に探るという仕組みだと考えられる。
『ブレードランナー』では、ロボットが感情を持ち、自らの寿命も気になる。レプリカント、ロイ・バッティ(ルトガー・ハウアー)はダッカードを救出して、哲学的な言葉を残した。
<人間には信じられぬものをおれは見てきた。オリオン座の近くで燃えた宇宙船や、タンホイザー・ゲートのオーロラ。そういう思い出もやがて消える。時がくれば涙のように雨のように。その時がきた。>
という言葉とともに、ルトガー・ハウアーはロボットとしてセットされた寿命をまっとうする。
ダッカードがアンドロイドである説があり、リドリー・スコットがそのようなことを発言している。しかし、『ブレードランナー』のダッカードは、『2049』において明らかに30年を経過した風貌をしている。AIに加齢のプログラムを内蔵させることは、2019年ではできないはずだ。また、レイチェルとの間に子どもを設けていることは、人間とAIとの性行為が行われ、妊娠するというきわめて生物的な営為が物語の背後に置かれている。
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ハリソン・フォードについて言えば、『ブレードランナー』続編に加えて、『スターウォーズ/フォースの覚醒』で30数年後のハン・ソロ役を、更に、『レイダース』続編にも出演する予定らしい。その役者魂に敬意を表したい。俳優はスクリーンでは別の人格を演じる。30年以上を経過し年齢も70代後半であるにもかかわらず、年を重ねた姿をスクリーンに同じ役として出演するということは、一種勇気がいることである。
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閑話休題。本題に戻るとAIと人間の関係である。SFの定番であるアンドロイドを描くことは、人間の未来を見通すのみならず、人間存在の意味・意義を問うととでもある。AIに浸食された人間世界の未来、いや既に現実問題として、労働現場ではロボットによる人間排除の歴史が進捗してきた。ここにきて、AIが感情を持つことがあり得るのかというかなり危懼すべき事態になっている。
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リドリー・スコットの文脈でいえば、『プロメテウス』(2012)に続く『エイリアン: コヴェナント』(2017)では、アンドロイドの マイケル・ファスベンダーは、冷凍細胞に<エイリアン>の一部を置きかえるという行為が何のためらいもなく、行われている。それが『エイリアン』(1979)の冒頭に繋がる。戦慄のラストシーンであった。
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