高山宏氏の超弩級・新刊書刊行を待ちながら・・・
トランスレーティッド
高山宏『トランスレーティッド』(青土社,2020)を入手した。単行本3冊分の厚さに驚く。高山氏は、翻訳を自ら最も好んだ翻訳と解題を、責務と考える学魔だったことが、この一冊に凝縮されているためよく分かる。
「訳魔じまい口上」としてあとがきを記している。
僕が翻訳家と呼んで並みはずれた自負と誇りを持つのは、文化動向そのものをゆっくり変えていく大きな見通しというか戦略・戦術をもって翻訳事業を進めていく重要きわまる営みだと捉えてきたからです。
・・・(中略)・・・
翻訳人間・・・その誇りかけて孜々営々とやってきた事業報告が即『トランスレーティッド』という絶対に類書のあり得ない一冊という次第です。これも僕の翻訳の特徴と言われた各作品の巻末解題を総結集するという構成上の
工夫をもって編集方針としました。(913頁)
序の「翻厄こんにゃく、或いは命がけ」は、『ユリイカ』「翻訳作法」特集号から転載し、以下の内容も全て既出の文を掲載している。
第一部「愚神礼賛」(200枚)
第二部「錯視美学」(180枚)
第三部「視と幻想」(90枚)
第四部「視と都市」(170枚)
第五部「システム疲労」(180枚)
第六部「新人文学」(70枚)
跋 解題の解題「あと、これだけは翻訳してあげたい」
以上が、本書の構成である。
「跋」の「翻厄困訳」は、『超人 高山宏のつくりかた』(NTT出版,2007)と同じ文だ。
これから翻訳したい百冊を記しているが、この時点から既に、何冊か翻訳出版されている。だからこのリストは、変更増補されるべきだが、そのまま再掲しているのは、「訳魔じまい口上」を読むと理解できる。
2016年刊の『アレハンドリア アリス狩りⅤ』(青土社)時点では、視力の低下をタブレットで拡大してネットを見るなど、まだまだ新著の愉しみを期待させるに十分であった。
しかし、『トランスレーティッド』で<訳魔じまい>の宣言がなされた。
高山氏は、ポーの「使い切った男」を座右において、
と現状報告している。
「超弩級戦艦さながらの企画が続々と形になる」日を心待ちにしながら、
とりあえずは、この年末・年始は貴重な新着図書『トランスレーティッド』を、じっくり味わいながら読みたい。
【補足】
『見て読んで書いて、死ぬ』(青土社,2016)は、梯久美子『狂うひとー「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社,2016)と同時購入し、後者を優先的に読み、ブログへUPしたので、後回しになっていた。たしか松宮秀治『ミュージアムの思想』(白水社,2003)を取り上げていたはずだ。参考文献に高山氏は「著者の抜群の着眼」と評価していた。「ミュージアムの思想」そのものがいわば「文化帝国主義」と同義であることの指摘により、類書を抜くと高い評価を与えていた。
ウリポ集団の鬼才ジョルジュ・ペレック『美術愛好家の陳列室』(水声社,2006)も、<25.全美術史を壺中に封じる、これも「記憶の部屋」だ>で取り上げられていた。
首都大学東京で石原某都知事のもと、苦戦を強いられていた「失われた十年」から解放された時期で、最後の書評本となった経緯が、「前口上」や「あとがき」に記されている。現物が見つからず、探していたが見つかったので、付記しておく。
アリス本二冊は、未購入だが、気にかかる。
二冊の対談本も読了していない。