神の道化師フランチェスコ
映画は原則、スクリーンで観ることにしている。がしかし、長い間待っていたけれど、スクリーンで観ることは当分無理だろうと観念し、ロッセリーニ『神の道化師フランチェスコ』(1950)をDVDで観た。ロッセリーニといえば、ネオリアリズモの代表作『無防備都市』(1945)『戦火のかなた』(1946)や、イングリッド・バーグマンとのコンビ作『ストロンボリ』(1949)『イタリア旅行』(1953)などが、比較的とりあげられるが、『神の道化師』は語られることが少ない。
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『神の道化師』は、アッシジの聖者フランチェスコと、彼の弟子たちとの交流を10のエピソードにまとめ、時にユーモラスに、また、淡々としたオールロケーションによる美しい風景とともに撮られている。シンプルという点では、『イタリア旅行』と双璧をなす。
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冒頭、雨の中をローマ教皇から布教の許可を得た兄弟会のメンバーが、楽しく語り合いながら、ぬかるみ道を歩いてくるシーン。たどり着いた自分たちの小屋が農夫に占拠されていても、フランチェスコは人に良いことをしたと、<完全な喜び>を得る。
弟子ジネブロが体験する、暴君ニコライオのエピソードが最も迫力あるシークェンスであり、戦争のため荒廃した村落の雰囲気を見事に再現している。暴君は、無抵抗で死刑を宣告されても動じないジネブロに感化される。
ジネブロが無邪気だとすれば、もう一人の年老いた弟子ジョバンニは単純者であり、唯一の財産である牛を連れて弟子入りするが、フランチェスコは牛を家族に返す。
修道女キアーラを迎えるフランチェスコと弟子たちは、礼拝堂に花びらを敷き詰めて待つ。はるか丘の上から三人の修道女とともにキアーラを捉えたロングショットが素晴らしい。また、礼拝堂にてフランチェスコとキアーラが沈黙と笑顔で視線を交わすシーンには、観る者に至福と恍惚(完全な喜び)を与えてくれる。
最後のエピソードが一番「完全な喜び」を逆立ちした形で示している。布教に赴いたある館の門番に追い払われ、泥んこになり「これこそ完全な喜びだ」と、フランチェスコはいう。
神への帰依、徹底した謙遜と自己卑下こそ、フランチェスコの位相であった。ロッセリーニは、彼の生涯を描くというような手法ではなく、兄弟会から発展して行く過程のエピソードとして、聖フランチェスコをリアルに捉えてみせた。
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ロッセリーニはいう。
今日、原初的なフランチェスコ会精神の諸様相を再提出することは、<貧しい人>の教訓を忘れ、生きる喜びまでをも失い、所有欲の奴隷となった人類の深い渇望と要求に対するより良い回答を与えることだと思います。(p.85「<フランチェスコ>のメッセージ」『ロッセリーニ私の方法』)
この映画のメッセージは、21世紀に生きる我々が、市場原理が優先される「所有欲の奴隷となっ人類」であることを再認識させくれる稀有なフィルムになっている。
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ヌーヴェルヴァーグの監督たちが絶賛するロベルト・ロッセリーニの本質を知るには、『ストロンボリ』『神の道化師フランチェスコ』『イタリア旅行』の三本を観ることだろう。
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私の宗教映画のベスト3
①カール・ドライヤー『奇跡』(1955)
②ピエル・パオロ・パゾリーニ『奇跡の丘』(1964)
③ロベルト・ロッセリーニ『神の道化師フランチェスコ』(1950)