怪談
中田秀夫『怪談』(2007)を観る。本格的なジャパニーズ怪談は実に久しぶり。三遊亭円朝の講談『真景累ヶ淵』を原作として、歌舞伎俳優尾上菊之助を主役の新吉に迎え、豊志賀に黒木瞳。
- 作者: 行川渉,三遊亭円朝,奥寺佐渡子
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一龍斎貞水による講談語りの舞台劇で物語の発端をみせ、新吉と豊志賀の因縁を示し、25年後の本編への導入とする。キザミ煙草売りの新吉が、三味線の師匠・豊志賀との運命の邂逅とその後の二人の屈折した宿命に繋がる。とりたてて得意な技術がある職人でもない、地味な煙草売り新吉が、その美形と優しさによって、多くの女性を惹きつける。豊志賀の弟子お久(井上真央)、豊志賀の妹お園(木村多江)。故郷下総のお累(麻生久美子*1)、お累の父親(津川雅彦)の愛人お賎(瀬戸朝香)など。
豊志賀が死に際して、「このあと女房を持てば必ずやとり殺すからそう思え」という書置きを新吉に残す。死者が恨みをこの世に残しているが故に、生者の前に現れるのが幽霊で、妖怪やお化けとは全く異なる。日本「幽霊」の伝統が芸術分野に延々と続いている。
さて、『怪談』は古典的な作品に仕上がっており、ドラマのつくり方も見事だが、その背景をしっかり描いている。田舎風景ひとつにしても、路上につながれた馬がいて、馬丁や人足や茶屋などの光景が、江戸時代末期の雰囲気を実にうまく表現している。
豊志賀・お園姉妹の父親(六平直政)が貸した金の返済の話に行ったところ、下級武士深見(榎木孝明)に切り殺される。深見の子供が新吉という因縁が根底にある。親が仇同士であることを知らず、豊志賀は、年下の新吉を深く愛する。また新吉も豊志賀の愛にこたえている。ところが、豊志賀のお久への嫉妬から新吉ともみ合ううちに目の上に三味線のバチで傷を負ってしまう。その傷が致命傷となり、介抱の甲斐もなく豊志賀は死んでしまう。死後の新吉の行動はすべて豊志賀の監視下にある。新吉が出会う女性はすべて、死に至ることになる。古典的因縁話。
- 作者: 三遊亭円朝
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講談の語りに魅力があり、冒頭の序幕に工夫あり、尾上菊之助のイノセントな顔と所作に魅力あり、女優陣に魅力あり(ただし、残念ながら黒木瞳はミスキャスト)、真夏の納涼映画として合格。
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怪談映画の大傑作、中川信夫『東海道四谷怪談』(1959)の美学・怖さには及ばずとも、現在の映画状況のなかでよく健闘していると言っていいだろう。
■中田秀夫の作品
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