13/ザメッティ


グルジア出身のゲラ・バブルアニがフランスで撮った最初の映画『13/ザメッティ』(2005)は、集団ロシアンルーレット*1によるデスゲームが映画の核になっている驚くべき作品だった。いわゆるフィルムノワールというジャンルに収まらず、ハードボイルドあるいはミステリーなど様々な要素が含まれるけれど、そのなかのどのジャンルにも分類できないのが『13/ザメッティ』であり、きわめて特異で斬新なフィルムになっている。モノクロ・ワイドのスクリーンは、全編冷酷にクールなタッチで描かれる。


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グルジア移民の家族がパリで生活する状況が、冒頭のセバスティアン(ギオルグ・バブルアニ)は、屋根修理の仕事で日々の糧を得ている。家族は右足が不自由ながら夜間の仕事をしている兄、兄弟の収入に頼っている両親、それに幼い妹がいる。移民家族の平均的で凡庸な日常が、淡々とリアルに描かれる序盤はネオリアスム風であり、セバスティアンが仕事先の主人の死によって手に入れたパリ行きの切符で指定されたホテルに行く。そこで、指示された場所に移動することになるのだが、森のなかの建物の小部屋に案内されたセバスティアンは、はじめて自分が13人の仲間とロシアンルーレットに参加させらることを教えられる。一瞬恐怖に凍りつく表情。集まった参加者の顔の個性的なこと、更にそのゲームに大金を賭ける男たちもそれぞれが特徴ある顔・顔・顔。有名な俳優が出演していないことと、オーディデョンで選出された男たちの顔に刻まれた皺や眼光など、一種、異様な人々の集まりであり、目的は死のゲームに賭けることにある。13人はすべて後見人がいて彼らも、金を賭けている。


ゲーム進行役(パスカル・ボンガール)が13人の参加者に拳銃と弾1個を渡し、部屋の電灯の点灯を合図に、円形に並んだ13人がそれぞれ横の男に拳銃を発射する。空砲か実弾か、実に恐るべきゲームだ。ゲームの撮影方法が巧みで、男たちの緊張と恐怖の表情を観客にみせる。そう、これは「顔=表情」の映画なのだ。ここから先は、ネタバレになるので書かないけれど、ラストまで一気に物語を展開させて行く手法は、とても新人とは思えないほど見事である。


この映画は「顔」の映画であるとともに、「戦争」映画でもある。13人は戦争の前線で戦う兵士を象徴している。背後で勝負に金を賭けるのは「死の商人」たちであり、セバスティアンは偶然戦争に巻きこまれた一人の青年にほかならない。グルジアでの体験が、日常的に戦争と死が隣あわせであったことが映画をとおして知らされる。


『13/ザメッティ』はすでにハリウッドでリメイクされることが決定されている。ハリウッドは米国以外で話題となりヒットした映画を必ずリメイクして、映画を再生産することで生き延びてきた。最近では香港映画『インファナル・アフェアー』が『ディパーテッド』としてリメイクされたように。『13/ザメッティ』オリジナル版が持つ毒と批評精神がハリウッドでどのように変容するか見ものだ。いずれにせよ、グルジア出身のゲラ・バブルアニ監督の今後は大いに期待できる。


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*1:ロシアンルーレット」から連想されるのは、マイケル・チミノディア・ハンター』(1978)であり、『13/ザメッティ』は、元祖「ロシアンルーレット」を凌駕している。