クロスしてリファー


高山宏は、作品のなかでしばしば『OED(Oxford English Dictionary)』や、チェインバーズの『サイクロペディア(Cyclopaedia: or, An Universal Dictionary of Arts and Sciences)』、更にロジェの『シソーラス(Roget's Thesaurus of English Words and Phrases)』に言及する。英単語の語源にふれるときは必ず、OEDによれば・・・と書く。


Rogets Thesaurus of English Words and Phrases 150th Anniversary E

Rogets Thesaurus of English Words and Phrases 150th Anniversary E


近代的合理的な世界観への変容の一因として、アルファベット引きの辞書の刊行をあげて、それまでの中世的知の概念を分解し、abc順配列になることで、統一的な世界観が分解された。「サイクロペディア」の方法を徹底させたのが、ディドロダランベール「百科全書」(L'Encyclopédie)であることは、申すまでもあるまい。


チェインバーズやロジェは、アルファベティカル・オーダーに支配された段階が人間頭脳の構造を無視した恣意的なものであるからこそ、クロスレファレンスや、主題構成と索引を一冊に収めたのである。これらのことは、高山氏は「クロスしてリファー」(『現代思想』17巻4号、p.153-160)で言及している。


図像のみならず、言葉の語源や辞書にもこだわる一貫した姿勢が、高山宏にはある。いわば辞書から世界観を読み取る、貴重な思考法だ。

言葉と図像を弁証法的にとらえると、近代の矛盾がみえてくるかも知れない。