天然コケッコー


山下敦弘監督『天然コケッコー』(2007)を観る。少年少女の物語でこれほど切なく、心地よい映画は珍しい。ボーイ・ミーツ・ガールものの変種であるが、田舎の小中学校に通う7人の生徒を中心とする原作漫画からのお話。中学生3名、小学生3名の複式学級に、東京から中学2年生の大沢くん(岡田将生)が家庭の事情で引っ越してくる。



同じ学年の右田そよ(夏帆)は、下級生たちの面倒をよくみるごく普通の少女。けれども、大沢くんが家庭の事情(両親の離婚)で、母親(大内まり)と田舎に引越してくると、彼のことが気になる。



そよの家庭は、父(佐藤浩市)母(夏川結衣=このひとも母親役を受ける年になったのか)と弟・浩太朗(森下翔梧)と、祖父・祖母の6人家族。そよは弟の面倒をみ、学校では下級生たち一人ひとりを気にかける田舎にいそうな典型的な美人で頭の良い少女。


天然コケッコー (1) (集英社文庫―コミック版)

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天然コケッコー』は、大沢くんの転校から、そよと大沢くんが中学3年に進級し、東京へ修学旅行に行き、高校受験・合格までの約一年間を、実に淡々とキャメラが距離を置きながら、平凡な日常の積み重ねを、よくありがちなエピソードを連ねて行くという描き方をしている。いわば、田舎の小・中学時代が黄金時代であり、もはや二度と帰らない夢のような時間であることを、力まずに美しい田園風景を背景として綴られる。


2007年8月14日付け「朝日新聞(大阪版)」に、沢木耕太郎が『銀の街から』で『天然コケッコー』の紹介をしている。この紹介というより批評は内容を的確に捉えている良い文章で、そこに付け加えること何もない。


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天然コケッコー』は、映画のリズムや雰囲気を味わう映画になっている。監督の山下敦弘は『リンダ リンダ リンダ』(2005)でも、女子高校生のバンド体験を二度と経験できない大切な時間として描いてきた。その延長上に『天然コケッコー』があるのだと思う。一味違うテイストで撮ったのが『松ヶ根乱射事件』(2006)であり、このフィルムも何も起こらない日常を淡々と描いた作品であり、自然のリズムでゆっくり進んで行くテンポが、この作家の本領なのだ。フィルモグラフィをみれば、つげ義春原作の『リアリズムの宿』があり、『天然コケッコー』とは山下敦弘がたどり着いた頂点である。そして、映画として傑作になっていることは強調しておいていいだろう。


リンダリンダリンダ (竹書房文庫)

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リアリズムの宿 [DVD]

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