超人 高山宏のつくりかた


出るべくして出た高山宏の『超人 高山宏のつくりかた』(NTT出版、2007.8)、14日に読了。マニエリスムを核とする半自叙伝になっている。由良君美との師弟関係でいえば四方田犬彦『先生とわたし』と併読することで、1970年代から90年代の「知の運動」の輪郭がほの視えてくる。学者としては異端だろうが、読者にとってこれほど魅力的・挑発的な存在は稀有の人だ。


超人高山宏のつくりかた (NTT出版ライブラリーレゾナント)

超人高山宏のつくりかた (NTT出版ライブラリーレゾナント)

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本書は、Webnttpub「人文科学の扉」に連載していた記事(全16回)を、大幅に増補(全32章)して書籍版『高山宏ができるまで』になったようだ。「学魔」とは、学生が高山氏につけた綽名だが、まさしくこの人の在りようにふさわしい。

この頃、各大学が「企業感覚」にめざめて矢鱈とFD(実績向上努力)活動に力を入れているから、いわゆる学生による授業評価のアンケートなるものが盛行し、ぼくは心底から軽蔑している。(p.2)


同感・賛成である。「授業評価のアンケート」に何の成果があるのか。もうひとつ言えば、キャリア教育なるものもそうだ。大学時代こそ社会から距離をおいて自由に活動できる黄金時代ではないか。入学と同時にやれキャリア教育だ、インターンシップだなど、社会生活を先取りしてどうするのか。社会に出ればいやでも企業内教育だの企業精神だのが押し付けられてくる。せめて、学生時代くらい自由に利害関係なく4年間を過ごすさせてあげたいと思うのが教育ではないのか。大学が「企業感覚」にめざめる必要などない。あるとすれば大学経営にかかわる法人部門のみだ。教育現場こそリベラルアーツに徹するべきではないのか。


思わず熱くなった。閑話休題高山宏だった。高山氏の原点は、グスタフ・ルネ・ホッケ『迷宮としての世界』(美術出版社)と『観念史事典』=「Dictionary of the history of ideas, 1968」あたりか。『観念史事典』は『西洋思想大事典』(平凡社、1990)として翻訳出版されている。


澁澤龍彦種村季弘由良君美山口昌男山脈に連なる人々。そして工作舎松岡正剛荒俣宏由良君美の弟子・四方田犬彦等々が本書に登場する。


セルロイド・ロマンティシズム

セルロイド・ロマンティシズム


高山宏の父親が、哲学教授・高山要一だったことを本書ではじめて知る。たしか一度だけ生前の父君にお会いしたはずだ。老いた白髪の坊主頭だったように記憶している。

今人文学で元気な筆頭は、「中沢学」の中沢新一、「今福学」の今福龍太、そして学とジャーナリズムを巧みに繋ぐことに成功し始めている坪内「流」確立中の坪内祐三。考えてみると皆、山口に見出され、山口と協働する山口「組」の怪物どもではなかろうか。(p.124)


道化の民俗学 (岩波現代文庫)

道化の民俗学 (岩波現代文庫)


やはり、山口昌男が要の位置に居る。山口昌男山脈に連なる中沢新一・今福龍太・坪内祐三。人文学の見取り図がおぼろげながら浮び上がってきた。「何の関係もないと思われていた二つのものが、一つであることを知ることがマニエリスムの真諦」、脱領域のマニエリスム高山宏の本領。博学・博識・多識、多才・多能、非凡・超人的で才気煥発な賢者・賢哲。


最終章32「学楼累卵」に引用されている「表象言語論分野」の趣意書は、首都大学東京のHP内「《表象言語論分野》新設趣意 高山宏」で現在も見ることができる。


近代文化史入門 超英文学講義 (講談社学術文庫)

近代文化史入門 超英文学講義 (講談社学術文庫)


さて巻末の「5冊も読めば立派に魔族」のブックリストが凄い。一応、5冊以上はクリアしているものの、読むべき本がまた増加したことになる。目下、文庫化された<脱領域の文化学>と命名された『近代文化史入門』(講談社学術文庫、2007.7)を読書中。とりわけ、高山氏の「事典・辞書」と「シソーラス」への関心のあり方は興味深い。



殺す・集める・読む―推理小説特殊講義 (創元ライブラリ)

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春画 (講談社選書メチエ)

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アルチンボルド―エキセントリックの肖像

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