夕凪の街 桜の国


こうの史代の漫画を原作とする、佐々部清監督『夕凪の街 桜の国』(2007)を観る。


夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)


「夕凪の街」の皆実を演じる麻生久美子が素晴らしい。昭和30年代の女性としてリアリティがあり、受苦の思いが恋人打越(吉沢悠)の結婚の誘いを断ることになる。受苦の思いとは、原爆投下後の妹翠の死に対する贖罪意識が強く、打越との幸せな家庭を築くことへの抵抗感が強いため、「うちは幸せになったらいけんような気がして」次第に衰弱していくことになる。


皆実たち原爆被害者が住む街は一種スラム街のような家屋の集合によって成り立っている。ここの街の人たちは、あのこと(被爆)について触れようとしない。それは、皆実と母フジミ(藤村志保)が銭湯に入るシーンで、入浴する女性たちすべてにケロイドがあることで視るものに衝撃を与える。


皆実の死によって、昭和33年の「夕凪の街」は閉じられるが、平成19年の現在に生きる七波(田中麗奈)に引き継がれる。「桜の国」に少女時代に住んでいた七波は、父・旭(堺正章)から原爆について何も知らされていない。母・京花(栗田麗)の若死が、原爆の後遺症であったこと後で気づく。


定年退職した父・旭の様子がおかしいと思い、後をつける七波は、偶然「桜の国」で同級生だった東子(中越典子)と出会い、父が広島に行くことを知り、同じ夜行バスに乗ることになる。父・旭は、石川家に疎開のため預けられてのち養子になったのであり、実は皆実の弟だったことが、次第に分かってくる。旭は広島大学に入学したのを機に、母と同居し、同じ街に住む京花と知り合う。京花は子供時代に同じ被爆者として皆実と親しかった。こうして、父と母の出会いを七波は目撃するかのように視る。若き日の旭(伊崎充則)は、姉皆実の死に打越とともに立ち会うのだった。


今回の旭(堺正章)の広島訪問は、皆実の五十回忌のためであり、既に老人となった打越(田山涼成)に会い、皆実(麻生久美子)のことを回顧する。東子が妊娠をしており、相手が七波の弟・凪生(金井勇太)であることも分かり、被爆者の系譜は凪生にも、そして元気で病気など知らずに育った七波(田中麗奈)も被爆二世であることが映画を視るものに、「原爆による恐怖」が潜在的に存在していることが知らされる。


七波は、旭(伊崎充則)と京花(栗田麗)の出会いから、結婚をして「桜の国」の街に住み、やがて自分を生むであろう二人を見つめながら、「確かにこのふたりを選んで生まれてこようと決めたのだ」と自分に言い聞かせるシーンで、自らを被爆者の系譜に意思的に位置づける。


映画を観たあと、こうの史代の原作を読む。若干の違いはあるものの、原作のかたちがほぼそのまま映画にいかされ、麻生久美子はじめ、出演者がそれぞれの役に収まっていることに感動を覚えるのだった。


声高にではなく、遠慮がちに被爆者の系譜を指し示すこうの史代佐々部清による『夕凪の街 桜の国』は、昨日(2007-8-15)触れた『ヒロシマナガサキ』に、意図しなくとも繋がっているように描いていたことが、じっくり心に沁み込む、そんな映画である。


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