2005-01-01から1年間の記事一覧

ヒランクル

「ドイツ映画祭2005」で上映されたハンス・シュタインビッヒラー『ヒランクル』(2003)を観る機会があった。ドイツ映画のニュードイツ・シネマ以前の60年代に量産された「郷土映画」のジャンルに入るが、新世紀ドイツ映画として、評価を得た作品で、「…

チャーリーとチョコレート工場

ティム・バートンの完璧映画だ。ロアルド・ダールの原作をこれほど巧みに、映画化できるのは、ブラックユーモアが身上のティム・バートンだけだろう。今年一番の収穫だった。 タイトルバックが、チョコレート工場で自動的にチョコレートが生産される工程を示…

シンデレラマン

ロン・ハワード監督、ラッセル・クロウ、レネー・ゼルウィガー主演『シンデレラマン』は、単なるボクシング映画ではなかった。ハングリー・スポーツとしてのボクシングは、よく映画化される。『チャンプ』『ロッキー』など、数えあげればきりがない。サクセ…

世に出ないことば

世に出ないことば作者: 荒川洋治出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2005/09/21メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (31件) を見る 荒川洋治『世に出ないことば』(みすず書房)は、読書エッセイ・シリーズの最新刊。荒川氏の書物に対する…

電子ジャーナル

誰もが経験することであろうが、雑誌論文や記事検索をして、さていざそのオリジナル論文・記事を入手する時に、困ったことがあると思う。商業系雑誌は、比較的入手しやすい。しかし、問題は大学や研究機関が発行しているいわゆる「紀要類」の入手である。大…

ヒトラー 最後の12日間

ドイツ映画が、日本で上映される機会は多くない。一時期、ニュー・ジャーマン・シネマの時代があり、ファスビンダー、ヘルツォーク、ペーターゼン、ヴェンダースなどのフィルムが、競って公開されていた。日本で最も早く注目された『マリア・ブラウンの結婚…

インファナル・アフェア三部作

『インファナル・アフェア』三部作をまとめて観る機会があった。かつてはアジア映画の本流を占めていた香港映画は、1997年の中国への返還以後、映画界のエネルギーは、下降気味であり、このところ、韓国映画に圧倒されていた。この傾向に、「香港映画ここに…

東京奇譚集

村上春樹の最新作『東京奇譚集』を読了。雑誌『新潮』に短期連載の四編に書き下ろし『品川猿』を加えて、五編を収録している。冒頭に置かれた『偶然の旅人』は、「僕=村上春樹はこの文章の筆者である。」と始まる。ん、まさか、村上春樹が私小説を書くわけ…

やさしくキスをして

ケン・ローチは、イギリスのワーキング・クラスの人達の日常生活や恋愛などを描いて、常に感銘を誘う優れた監督であり、いま一人のマイク・リー*1とともに、イギリスの良心を代表する作家だ。 秘密と嘘 [DVD]出版社/メーカー: JVCエンタテインメント発売日: …

脳と仮想

このところ、読書が進まない。理由は単に仕事が忙しいだけなのだが、その割には「映画」はコンスタントに観ている。第4回小林秀雄賞・受賞の茂木健一郎『脳と仮想』が気になっていた。とりあえず読みはじめたら、止められない。読了感として、名状しがたい衝…

新・平家物語

溝口健二の遺作から二番目の作品『新・平家物語』(1955)は、若き市川雷蔵の出世作となった。このたび、デジタルリマスター版の『新・平家物語』をスクリーンで観て、女性映画の名匠が、貴族社会から一段下に見られていた武家の棟梁として、公家や比叡山の…

東洋文庫のWEB版

WebサービスのJapankowledgeを眺めていて、平凡社の『東洋文庫』700巻のほとんどが電子化されていてることに気がついた。書物をWeb上で読むことは、膨大な収蔵スペースが不要であるし、また、絶版の心配もなく、契約さえしておけば、いつでも、どこでも、読…

フレンチなしあわせのみつけ方

シャルロット・ゲンズブールといえば、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンを両親に持つサラブレット女優。パートナーであるイヴァン・アタルは、監督と映画のなかでも夫役を演じている。『フレンチなしあわせのみつけ方』(2004、仏)は、中年男性3…

サマータイムマシン・ブルース

映画には、「タイムマシン」ものは数多くある。しかし、『サマータイムマシン・ブルース』の面白さは、遠い過去だの、未来へタイムッスリップするのではなく、昨日・今日の間を往復するだけで、これほど、刺激的でスリリングなフィルムを撮ってしまう本広克…

奥さまは魔女

アカデミー賞女優ニコール・キッドマンが「魔女」を演じるという話題性。なにより、ニコール・キッドマンがコメディに出演しているだけで、嬉しくなってしまう。60年代のアメリカンドラマ『奥さまは魔女』の映画リメイク版。監督は、女流のノーラ・エフロン…

ラブレーの子供たち

ラブレーの子供たち作者: 四方田犬彦出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/08/24メディア: 単行本 クリック: 8回この商品を含むブログ (53件) を見る かつては月刊四方田と呼ばれたほど、新刊書の刊行頻度が多かったが、現在では落ち着いてきている四方田犬…

宇宙戦争

スピルバーグ『宇宙戦争』について、何かを積極的に語ることは避けたい。スピルバーグであれば、どんなテーマの映画も撮ることができるはずだ。『宇宙戦争』の宇宙人とは、『激突』のトラツク、『JAWS』の巨大なサメなどと同様、正体不明な異物であり、『宇…

愛についてのキンゼイ・レポート

伝記映画流行りのハリウッドだが、ビル・コンドン監督、リーアム・ニーソン*1主演『愛についてのキンゼイ・レポート』(Kinsey, 2004)は、発売当時大ベストセラーとなりながらも、キリスト教右派から厳しい批判にさらされた「キンゼイ・レポート」の背景と…

姑獲鳥の夏

京極夏彦の『姑獲鳥の夏』を、実相寺昭雄が映画化した。この種の映画としては、市川崑の『金田一耕助』シリーズを想起させるが、探偵もの映画としては、戦後の時代を示す建物のセットや風景の美術はよくできているし、論理的な語りを朗々とみせる堤真一の京…

愛の神、エロス

ウォン・カーウァイ、スティーブン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニ。 この三人が「エロス」をテーマにオムニバス映画を撮るということ自体が話題であるとともに、では、どのような作品になっているのかは、きわめて興味深い。 いってみれば…

帰郷

きわめて平凡きわまりないタイトルの萩生田宏治監督『帰郷』は、小品ながら実に良い味わいあるフィルムになっている。東京で独身のサラリーマン生活を送る西島秀俊のもとに、母・吉行和子から再婚披露案内の葉書が届くシーンから始まる。電車の中の不安な様…

若い読者のための短編小説案内

若い読者のための短編小説案内作者: 村上春樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1997/10メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 12回この商品を含むブログ (15件) を見る若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)作者: 村上春樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売…

樹影譚

三浦雅士著『出生の秘密』は、丸谷才一『樹影譚』*1の解読から始まっていた。その『樹影譚』については、村上春樹の唯一の日本文学についての作家論・小説論である『若い読者のための短編小説案内』(文藝春秋、1997)で、吉行淳之介「水の畔り」、小島信夫…

出生の秘密

出生の秘密作者: 三浦雅士出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/08/11メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (25件) を見る 三浦雅士『出生の秘密』(講談社、2005)は、『青春の終焉』(講談社、2001)に続く、表面上は日本近代文学の新たな…

対幻想の危機=私の困惑

オヤジ憲法の第四条である「真理ヤ理想ハ幻想ナリ」にかかわる問題が私自身に迫ってきました。<「いいかげん」な態度でそれらに付き合っていくこと>が困難になりつつあり、一度、私的な事情を記した文章は削除しました。ここが、「ブログ」のいい(あるい…

オヤジ国憲法でいこう!

オヤジ国憲法でいこう! (よりみちパン!セ)作者: しりあがり寿,祖父江慎出版社/メーカー: 理論社発売日: 2005/08メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 33回この商品を含むブログ (37件) を見る しりあがり寿・祖父江慎著『オヤジ国憲法でいこう!』(よりみち…

ウィスキー

日本初公開のウルグアイ映画『ウィスキー』(2004)は、寡黙さと無表情と暗い不思議なユーモアをかもし出す雰囲気を持つミニマム・フィルムである。こう書けば、ただちにフィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキを想起するだろう。実際、映画のスタイル…

魅せられて

魅せられて──作家論集作者: 蓮實重彦出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2005/07/21メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 19回この商品を含むブログ (19件) を見る 蓮實重彦『魅せられて』(河出書房新社)には、作家論集という副題が示すとおり、蓮實好…

男はつらいよ

全48作という映画史上異例のシリーズ、偉大なるマンネリと称されながらも、第47・48作には、主演の渥美清の体調がすぐれず、観るのも痛々しい思いを伴ったけれど、今回、NHKBSでシリーズ全作の放映が始まった。未見の作品があるので、まず第一作から観…

脇役本

脇役本―ふるほんに読むバイプレーヤーたち作者: 浜田研吾出版社/メーカー: 右文書院発売日: 2005/07メディア: 単行本 クリック: 12回この商品を含むブログ (22件) を見る 濱田研吾著『脇役本 ふるほんに読むバイプレイヤーたち』(右文書院)は、古書からみ…