脇役本
- 作者: 浜田研吾
- 出版社/メーカー: 右文書院
- 発売日: 2005/07
- メディア: 単行本
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濱田研吾著『脇役本 ふるほんに読むバイプレイヤーたち』(右文書院)は、古書からみる脇役たち、マイナーもここに極まれリ、という傑出本だ。登場する50名あまりの脇役は、主として、映画のなかの脇役だが、本業が演劇である人たち、滝沢修(民芸)・三津田健(文学座)・東野英治郎(俳優座)から、映画の脇役人生をまっとうした人達、山形勲・伊藤雄之助・内田良平・成田三樹夫たちや歌舞伎役者・八世市川團蔵など多彩な陣容に、唖然・呆然・驚愕・感動させられた。
まず、雑本と呼ばれる「脇役本」を収集する対象が、歌舞伎・新派・新国劇・新劇・商業演劇・軽演劇・映画・テレビ・ラジオと、ほとんどのジャンルになっていること。その俳優たちの自叙伝・芸談・エッセイ集・句集・詩集・研究書・対談集・書簡集・写真集・饅頭本・ミニコミ誌など、あらゆる種類の資料を渉猟している。濱田氏のエネルギーに、ただただ感服し、圧倒される。
「ある老優の死 八世市川團蔵」が、読ませる。歌舞伎役者としては評価されなかった市川團蔵が、80歳の引退興行後、四国遍路の旅にたち、霊場めぐりを終えて、小豆島から大阪に向かう船から入水した。皮肉にも、團蔵は「入水」という自殺により、多くの人達の注目を浴びることになる。
- 作者: 網野菊
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/07/05
- メディア: 文庫
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「ロマンティックに捉えている安藤鶴雄」「覚悟の入水を激賞し、芸道と武士道を説いた三島由紀夫」「劇的な幕切れに苦言を呈した大佛次郎」の言及に触れ、作家・網野菊による『一期一会』が、團蔵の死を自己に重ねて書いたことで、高い評価を得たこと。一方、戸板康二は、團蔵の旅の足跡をたどりつつ書いた『團蔵入水』は、詩人の詩碑を見て、船上からの入水を決意した、と解釈する。
「カウンターの詩人 内田良平」では、内田は詩人であり、実際詩集*1を出版していることに触れ、エッセイ『内田良平のやさぐれ交遊録』(ちはら書房、1979)には、高品格、山本麟一、安部徹、西村晃、江見俊太郎、成田三樹夫など脇役好きにはたまらない人物が、目次に並んでいる、という。その成田三樹夫が、文学者であり、およそアクの強い悪役専門であった彼が、急逝したあと、夫人や友人の意向で残された俳句集を出版した。
本業は新劇の俳優である薄田研ニについては、『還暦記念・薄田研ニ写真集』や、佐野繁次郎装幀の『暗転』など、ファン垂涎の稀覯本がある。薄田夫人であった内田礼子『一女優の歩み 井上正夫・村山知義・薄田研ニの時代』(影書房)*2があることも付け加えておきたい。
といったように、50余名の脇役(故人)について、関連する古書から引用し、書影を掲載している貴重本だ。
ともあれ、趣味が高じて、一冊の書物となる。実に、刺激的であり、感動ものだ。濱田研吾『脇役本』は、集書と関心が見事に融和している。著者の本や人物にたいする熱い想いが伝わり、その姿勢は、いさぎよい。
- 作者: 浜田研吾
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2003/12/01
- メディア: 単行本
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■補記
上述した人物以外で『脇役本』に収録されている「脇役俳優」を以下に列挙しておく。
小林重四郎・加東大介・小沢栄太郎・青山杉作・三世河原崎権十郎・上山草人・志村喬・古川緑波・有島一郎・芦田伸介・加藤嘉・三世市川左團次・徳川夢声・三國一朗・浪速千栄子・小杉勇・秋月正夫・大矢市次郎・浦辺粂子・河津清三郎・細川ちか子・小暮美千代・草野大悟・田崎潤・佐分利信・岸田森・佐々木孝丸・永井智雄・木村功・左卜全・若水ヤエ子・山村聡・二世市川小太夫・八世坂東三津五郎・高橋豊子・天本英世・菅原通済・松本克平・柳永二郎・中村是好・久松保夫・内田朝雄・志賀暁子・中村伸郎・龍岡晋・宮口精二など。
それにしても、まったく知らない俳優もいるし、錚々たるメンバーである。
- 作者: 加東大介
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/08/01
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- 作者: 天本英世
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2000/01/01
- メディア: 単行本
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