森銑三著作集・索引


森銑三には、『森銑三著作集 13巻』(中央公論社、1970−1972)と『森銑三著作集 続篇 17巻』(中央公論社、1992−1995)の二つの正続著作集がある。更に、著作集から漏れた作品を集めた小出昌洋編『森銑三遺珠1・2』(研文社、1996)がある。


初期文章・索引 (森銑三著作集)

初期文章・索引 (森銑三著作集)


著作集の正編と続篇にはそれぞれ別巻として「人名索引」「書名索引」がある。ただし、『続篇 別巻』には、「正続総目索引」があり、五十音順にタイトルの索引が「正続」併せて記載されている。利用する者としては、正続を併せた「人名索引・書名索引」を続篇の別巻に掲載して欲しかったと思う。とりわけ『森銑三著作集』の場合、索引は実に有用であり、最近よく利用している、というより眺めている愛読書の二冊になっている。



新編 物いう小箱 (講談社文芸文庫)

新編 物いう小箱 (講談社文芸文庫)



なお、正編の『愛蔵新装版』は、別巻(1989)のみ「著作目録」が47頁増補されているが、これも続篇刊行時にも『続篇索引』への掲載が望ましい。年譜および著作目録に関しては、『新編 物いう小箱』(講談社文芸文庫、2005)巻末掲載の小出昌洋氏作成の「森銑三年譜」「同著作目録」が詳しい。


木村蒹葭堂のサロン

木村蒹葭堂のサロン


なぜ、森銑三翁に行きついたかといえば、中村真一郎木村蒹葭堂のサロン 』(新潮社、2000)と『蠣崎波響の生涯 』(新潮社、1989)を読み始めたことによる。更にその淵源をたどれば、渡辺京二『逝きし世の面影』に遡ることになる。


逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)


私自身の関心事でもある「近代化論」は、前近代を否定的媒介として近代が成立した(?)ことの意味を問うところにある。そのための資料が森銑三の「索引」であり、中野三敏の「江戸文化論」であり、中村真一郎の「史伝」でもある。近世を肯定的に捉えることで、近代の意味が変容する。と言っても、いま流行りの江戸論とは全く異なる。


近世畸人伝 (中公クラシックス)

近世畸人伝 (中公クラシックス)


思想史的におおざっぱに言えば、江戸時代は官学としての朱子学的思想家・林羅山がまず存在し、この朱子学に対して古人の思想に帰ることを主張した古学派・徂徠がきて、対抗思想としての本居宣長国学という大きな流れがある。ただ、そのような思想史な流れとは別次元のところで、森銑三翁は忘れられた人たちが残した写本という現物をもとに膨大な近世の人物伝を残した。


明治人物閑話 (中公文庫)

明治人物閑話 (中公文庫)


日本の近代化過程における思想について、関心の深いところにあるが、森銑三翁の索引を眺めていると、近世江戸時代の人物が多数とりあげられている。頂点的思想家のみならず、江戸時代の思想家ネットワークを探る手がかりが「索引」に隠されているのではないか。


増補 新橋の狸先生―私の近世畸人伝 (岩波文庫)

増補 新橋の狸先生―私の近世畸人伝 (岩波文庫)


森銑三翁は、「一に資料、二に資料、三に資料」(「人物研究に就いての私見」著作集続篇第12巻)と言及しているように、資料に語らせている。


新編 明治人物夜話 (岩波文庫)

新編 明治人物夜話 (岩波文庫)


「思ひ出すことども」(『森銑三著作集 続篇15巻 雑纂三』pp.1-145)を読めば、銑三翁が勤めていた時代の史料編纂所における、差別的な雰囲気が手にとるように分る。官学への対抗意識も強い。自伝的回想に寄せて、官学批判をしているのが痛快であり、また、『著作集正篇』の『月報』に連載されたものを増補・改訂した内容で読み応えが大きい。


偉人暦〈下〉 (中公文庫)

偉人暦〈下〉 (中公文庫)


『続篇索引』には、初期文章として「偉人暦」が収録されている。一年間にわたり、偉人の命日に該当する人物について簡潔に描写したものである。その人物の多彩さと、銑三翁の人物へ向き合う姿勢にこころ打たれる。銑三翁には、文庫本になっている本も多い。『明治東京逸聞史』(東洋文庫)などは、『著作集』収録にあたり、旧かなづかいに戻しているので、文庫よりも『著作集』に当たることが目下の「趣味」となっている。




【追記】(2010年5月6日)

大事なことを書き忘れていたので追記しておきたい。
『著作集 正編 別巻』には、「近世人物研究資料総覧」が収録されている。人物伝や史伝あるいは、ある人物について実証的に調べる場合は何をみるか、つまり「タネ本」の目録である。人物毎に、資料(史料)が列挙されている貴重な書誌である。しかし、残念ながら「あ」の「會澤正志斎」から始まり、「か」の「高力種信」で終わっている。

銑三翁が個人別に袋に入れて保存していた資料が、戦災により消失したとのことである。戦後、翁の近世人物研究が「西鶴」が中心となり、近世から近代へ移行しているのは、資料喪失という大きな衝撃があったからである。図書館で写本(原本)から書き写したものであるから、原本は所蔵図書館に残されているはずであり、専門分野の研究者には「近世人物研究資料総覧」の「続き」を編集していただきたい。それが銑三翁の意思を引継ぐことになり、研究資料目録の充実につながると思う。資料のオリジナルがアーカイヴとして一部公開されているが、銑三翁の収集した資料については、未だその端緒にすらついていない。銑三翁が収集した人物資料の多くは、近代化とともに忘れられた人物が多いからである。


書物 (岩波文庫)

書物 (岩波文庫)

古人往来 (中公文庫)

古人往来 (中公文庫)