「著作権保護延長」に反対する
著作権の保護期間は、現在の日本では著者の死後50年だが、それが70年に延長されようとしている。「朝日新聞」に2006年9月12日から3回連続で連載された「著作権のふしぎ」や、福井健策が『中央公論』10月号に寄稿した「「著作権保護延長」は文化を殺すのか」を読めば、大きな問題が内包されていることが分かる。
死後70年は、アメリカでディズニーのミッキーマウスを保護するために改正されたいわゆる「ミッキーマウス法」による。商業主義による著作権保護の延長が、文化的な創造にどう影響するかについて、福井氏は、シェイクスピアを例を出して、次ぎのように述べている。
好例がシェイクスピアである。そっくりと言ってよい原作が存在した『ロミオとジュリエット』を皮切りに、彼の作品にはほとんど種本が存在すると言われる。しかし、シェイクスピアは単なる剽窃家ではなかった。どの作品も彼が手を加えると見違えるほどの輝きを放つ。つまり「翻案の天才」だった。もしも、シェイクスピアの時代に著作権が死後70年も厳格に守られていたら、彼の作品の大半は誕生しなかった可能性がある。日本が生んだ偉大な監督黒澤明はどうか。シェイクスピアに拠った『蜘蛛巣城』『乱』をはじめ、芥川龍之介、ゴーリキーなど既存の作品に基づいて幾多の傑作を生み出した。(p.278『中央公論』2006年10月)
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著作権保護期間延長で利益を得るのは、子孫たちよりも「古い作品の権利収入で食べている団体」だと、福井氏は指摘する。先行する作品に触発されて、新たな作品を創造するのが芸術家や作家の創作の原点だろう。死後70年に延長することは、創造力を抑圧することになるのではないか。
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「朝日新聞」の調査では、死後30年から50年ほどたつ作家360名について、その著作の絶版率を調査した結果、引き続き刊行中の作家は60名で、97名はすべて絶版という状態であったという。この360名は、おもに戦前戦後を代表する著名な作家であった。読者として、絶版状態にある作品はどうすれば読むことができるのか。web上の非営利事業として、著作権の切れた作品をボランティアによって公開しているのが「青空文庫」*1である。
このように考えれば、クリエーターにとっても、受け手にとっても、死後70年も著作権が保護されることは、作品の死蔵と、新たな創造を阻害するとしか言えまい。文化にとって何が大事か。営利優先に限られた作品から利潤を得ている団体を利するだけではないか。
著作権の延長を主張しているのは、副理事長・三田誠広*2に代表される「日本文芸家協会」などであり、彼らは、自らの首を自分たちで絞めようとしていることが分からないようだ。アメリカから要請されているから、法改正をすべきだという発想の貧弱さに呆れてしまう。創作の根源とは、先行する作品の模倣や翻案にあることを一番熟知しているのが、当の作家たちだと思うのだが。
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いずれにせよ、作家・芸術家やその利用者にとって、利潤追求よりも文化的発展を願うなら、著作権保護期間を延長すべきではないことは自明であろう。
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