シュガー&スパイス


山田詠美『風味絶佳』(文藝春秋,2005)の中の一編、表題作の「風味絶佳」を映画化した『シュガー&スパイス』を観た。『誰も知らない』でいきなりカンヌ映画祭主演男優賞を受賞した柳楽優弥くんの主演作。また、相手役に『パッチギ』で注目を浴びた沢尻エリカとの共演とくれば、見逃せない。


風味絶佳

風味絶佳


柳楽優弥は高校卒業後、大学へ進学せずとりあえずガソリンスタンドに勤めている。そこへ、女子大生・沢尻エリカがアルバイトとして入ってくる。沢尻エリカが、元カレの医大生・高岡蒼甫への想いが断ち切れず、柳楽くんを憎からず思うものの、純情少年の初恋・失恋物語になっている。


シュガー&スパイス~風味絶佳~VISUAL BOOK (Angel Works)

シュガー&スパイス~風味絶佳~VISUAL BOOK (Angel Works)


ガソリンスタンドが郊外にあり、エドワード・ホッパーの絵を思わせるような背景に位置する。物語の進行が、スローテンポで映像も緩慢なリズムで綴られるので、124分は長い。短編の映画化であり、純情少年の年上女性に翻弄される初恋・失恋話なのだから、90分に詰めると画面が引き締まるはず。


原作では肉体労働をしている男たちの魅力を書き込んでいるが、柳楽くんはどうみても高校生程度の存在感であり、『パッチギ』のコンビ沢尻エリカ高岡蒼甫に勝てるわけがない。


首都大学東京(旧都立大学)の図書館の閲覧机でノートパソコンを持ち込み、分厚い図書を見ながら勉強している医大生高岡くんのもとへ、沢尻エリカに連れられて柳楽くんがついて行く。そこで鍵を返すのだが、二人の雰囲気に圧倒された柳楽くんは先に帰ろうとすると、突然の雨。


雨の中を一人だけ先に帰ったことを責める沢尻エリカと受け止める柳楽くん。二人の位置関係は明らかだ。女性の優位さと残酷さがよく出ている映画だ。誰もが経験するであろう初恋と失恋の痛手。柳楽くんはひたすら受身なっている。


この映画の中でもっとも存在感があるのは、柳楽くんの祖母で「グランマ」と呼ばせてる夏木マリ。70歳でアメリカかぶれ、若い男性を恋人のように従わせている。台詞もややオーバー気味だが、今でも現役でアンティークなバーを経営している夏木マリの怪演ぶりが見事。


しかし、全体に映画としてみれば物足りない。「恋愛もの」ブームだとしても、原作の良さを生かしきれていないし、何より主役として柳楽優弥は、若すぎるというより幼なすぎる。特に、ラストの失恋シーンに30分以上費やしているが、ここはあっさり短く留めるべきところ。余韻が残らない。


冷静と情熱のあいだ [DVD]

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冷静と情熱のあいだ』(2001,124分)に続く第2作が『シュガー&スパイス』であり、いずれも124分。映画として決して長い時間ではないが、冗長なリズムは如何ともしがたい。