太宰よりも安吾を好む

人間失格

蜷川実花監督『人間失格太宰治と3人の女』(2019)を見た。

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映画の設定は、昭和21年から始まり23年で終わる。戦後の混乱期だが、映像は時代感覚を混乱させるほど美しく、花が絢爛豪華に咲き、画面を浮遊する。戦後の時代の雰囲気や衣装などは、汚れてきたないはずだが、蜷川監督は全く気にせず、全てを美しく撮っている。

 

太宰治小栗旬)は、戦後文壇の中で傑作を書くべく模索したいた。そこに沢尻エリカ(太田静子)から誘いの手紙が届く。太宰の自宅では、妻・美智子(宮沢りえ)が二人の子どもを育てながら夫を支え、3人目の子どもを妊娠している様子。

 

沢尻エリカとの出会いは後に、『斜陽』として作品化され、ベストセラー作家となる。

蜷川実花氏は、実話をもとにしたフィクションとことわっている。

 

ヴィヨンの妻』にまつわる評判や、志賀直哉への批判『如是我聞』を編集者(成田凌)に、口述筆記させる。

更に、後に心中する相手、山﨑富栄(二階堂ふみ)の援助を受けて、『人間失格』を完成させるなど、基本的に事実ベースを押さえている。

太宰治の戦後を、これほど鮮やかに美しく切り取ったのは、蜷川実花氏の卓抜した表現力だったと思う。

 

三人の女性、宮沢りえ沢尻エリカ二階堂ふみは、それぞれ個性が発揮されており、とりわけ、夫人役の宮沢りえは、太宰死後マスコミが殺到しても、平気で洗濯を始める光景は、女性の強さを体現し圧倒される。沢尻エリカも、太宰を利用して自ら作家的に『斜陽日記』を刊行してみせるところなど、誇らしげである。二階堂ふみは、自らの自殺願望に太宰を誘い込み、意地をみせる。それぞれ好演といえるだろう。

 

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太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫)

太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫)

 

 

 

随分長い間、太宰治を回避してきた。持っているのは、ちくま書房版の文庫全集10冊。戦後に関わる作品だけでも再読してみたいと思わせる。

 

もう一つの太宰治伝 桜桃とキリスト (文春文庫)

もう一つの太宰治伝 桜桃とキリスト (文春文庫)

 

 太宰治に関する論文や関係本は多数ある。奥野健男太宰治』を既読しているが、書架を探してもみつからない。長部日出雄『桜桃とキリスト』(文藝春秋,2002)が書家で見つかった。太宰が、美知子夫人との出会いから始める、興味深い評伝だった。

 

 最近では、『太宰よ!45人の追悼文集』(河出文庫,2018)が刊行されている。
如何に多くの作家や、評論家が太宰に想いを寄せていたかが解かる読み物だ。

 

 

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映画では、安吾役の藤原竜也が線が細いのは、やむを得ないだろう。

 

坂口安吾は、太宰の情死について下記のように記している。

どんな仕事をしたか、芸道の人間は、それだけである。吹きすさぶ胸の嵐に、花は狂い、死に方は偽られ、死に方に仮面をかぶり、珍妙、体をなさなくとも、その生前の作品だけは偽ることはできなかった筈である。
 むしろ、体をなさないだけ、彼の苦悩も狂おしく、胸の嵐もひどかったと見てやる方が正しいだろう。
この女に惚れました。惚れるだけの立派な唯一の女性です。天国で添いとげます、そんな風に首尾一貫、恋愛によって死ぬ方が、私には、珍だ。惚れているなら、現世で、生きぬくがよい。
 太宰の自殺は、自殺というより、芸道人の身もだえの一様相であり、ジコーサマ入門と同じような体をなさゞるアガキであったと思えばマチガイなかろう。(「太宰治情死考」)

 安吾の太宰情死解釈は、納得できるものだ。

 

 太宰は文庫版全集だが、安吾は、筑摩書房版『坂口安吾全集』を持っている。

太宰よりも安吾を好むと言いたい。生きることは「堕落」することであり、安吾は47歳で死去するも、最後まで求道精神で生き抜いた。

 

坂口安吾全集〈06〉

坂口安吾全集〈06〉

 

 

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)