パッチギ!LOVE&PEACE


井筒和幸の傑作の続編『パッチギ!LOVE&PEACE』(シネカノン,2007)を観る。前作は1968年の京都が舞台であったが、それから6年経過した1974年の枝川。アンソンとキョンジャは、井坂俊哉中村ゆりに交替している。オモニはキムラ緑子が前回に引き続き出演。アンソンは、自分の幼い息子が筋ジストロフィーという難病に罹っていて、その治療のために、伯父(風間杜夫)のもとで、病院に通わせ治療を試みようとする。



冒頭では、東京朝鮮高校の生徒と国士舘大学応援団の学生の大喧嘩が展開され、『パッチギ!』(2005)冒頭部の、喧嘩風景にリンクする。電車の運転手だった佐藤(藤井隆)が、国鉄を首になり、アンソンの家に同居することになる。物語はアンソン一家を中心に、妹キョンジャは芸能界入りし、そこで在日に対する偏見と差別に耐えてゆく。アンソンが息子の治療費を稼ぐために金の延べ棒を闇で売却するシーン。一方、1944年の朝鮮・済洲島にいたアンソンの父親たちが、日本軍の徴兵から南方の島へ逃れ、生き延びようとする過去が、フラッシュバック的に平行して描かれる。構成としては、前作より複雑になっている。


「パッチギ!LOVE&PEACE」オリジナルサウンドトラック

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芸能界でのキョンジャ(中村ゆり)の上昇ぶりが、いかにもの感覚で捉えられ、ついに戦争映画の主演女優にまで登りつめるが、その過程は、新人アイドルの水着水泳大会の出場や、オーディション風景や「水戸黄門」のロケ風景など、時代の雰囲気を見事に写している。男優野村(西島秀俊)との関係が、在日という事実の前でもろくも消え去るシーンは哀しい。プレイボーイ役を西島秀俊が生真面目に演じていて好感がもてるけれど、中村ゆりが両親に会わせる話をするや否や、本能的に拒否するシーンなど、在日への差別が刷り込まれていたことを証明している。昨今の韓流ブームで韓国俳優を相手に、騒ぎまわることなど、70年代では思いもよらなかったことだ。


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もちろん、クライマツクスは映画の上映にあたり、キョンジャが朝鮮人の父親が徴兵忌避したこと、生き延びたからこそ、現在の自分があることなどを率直に話してしまうシーンにある。当時、いわばタブーとされていた在日のカミングアウトは、会場の雰囲気を一変させる。それが、このフィルムの狙いでもあるわけで、副題の「LOVE&PEACE」の意味が解かることになる。家族愛を在日の視点から視る過激な映画であるとともに、井筒流のフィルムワークが随所にみられ、エンターテンメントとしても楽しめる映画になっている。




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続編は、オリジナルを超えることは困難であるという一般的図式が、本作でも該当するかどうかは、観るものの判断によるだろう。第一作がシンプルに作られていた分、感情移入がしやすかった。


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喧嘩にあけくれる高校生たちを描いた『ガキ帝国』(1981)、ほぼ同じパターンの『岸和田少年愚連隊』(1996)の系譜を引き継ぎながら、『のど自慢』(1998)の明るさを併せもち、しかも思考を強いるフィルムとして、『パッチギ!』は、アンソン一家の出自、オモニと父の結婚のくだりが欠落しているので、シリ−ズとして続くことを予感させる。


宇野重吉役で中村有志が紙芝居を枝川の子どもたちにみせるシークエンスがある。紙芝居の内容は、東京オリンピック(戦前)のために、在日朝鮮人のひとたちを、枝川に集めて住まわせる国策が、語られている。『パッチギ!LOVE&PEACE』は、日本人は単一民族国家ではないことを、周縁に生きる人たちの家族の絆を中心にして描いたフィルムでもあるのだ。


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エンディング曲は、北村修と加藤和彦の「あの素晴らしい愛をもう一度」。

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■追記(2007年5月20日


朝日新聞の5月20日(日)の「ひと欄」で、主演の中村ゆりが紹介されている。大阪出身。父親が在日3世、母が韓国生まれ。15歳で「YURIMARI」としてデビューして10年。デュオ解散後、女優を志し「メッセージのある映画にかかわりたい」と、『パッチギ』続編の2000人のオーディションに参加してキョンジャ役に選ばれた。沢尻エリカよりも、<在日>としてのアイデンティティが強く感じられたのは自らの存在にかかわるからだった。