チャーリーとチョコレート工場


ティム・バートンの完璧映画だ。ロアルド・ダールの原作をこれほど巧みに、映画化できるのは、ブラックユーモアが身上のティム・バートンだけだろう。今年一番の収穫だった。


タイトルバックが、チョコレート工場で自動的にチョコレートが生産される工程を示し、その中に「金のチケット」が挿入される。このチョコレートの生産工程を、冒頭に見せるのはアキ・カウリスマキ『マッチ工場の少女』がそうであった。もちろん、このシーンは、チョコレート工場内が自動化されていることを示しながら、5枚の招待券がそれとなく混入されるシークェンスになっている。

招待された5人の子供とは、両親とそれぞれの祖父母の7人が狭い小屋で暮らしている貧乏少年チャーリー(フレディー・ハイモア)、イギリスの裕福な家庭に育ったわがまな少女ベルーカ、チョコレート大好きの肥満児オーガスタ、チューインガム噛みの世界チャンピオン少女バイオレット、TVゲームおたくで科学的思考を自慢する傲慢少年マイク。このメンバーを見れば、後の展開に無理ないと思わせる。


チョコレート工場の持ち主ウィリー・ウォンカ(ジョニー・デップ)が、なぜ、少年・少女を招待したのか、本当は、他者との接触を極端に嫌うウィリーの目的とは?


招待された5人の子供と、その付き添いの家族1名づつ、計10名を、ウィリーが工場内を案内しながら、子供たちと交わす会話は、絶妙の味わいがあり、たとえば、ウィリーが両親を表わす「Parents」の発音が「ペ・・・」で止まってしまう。ウィリーには家族コンプレックスがあるようだ。


工場の中は、一種のワンダーランドで、まずチョコレート川が流れる、緑の広場に出る。そこで肥満児のオーガスタが、チョコレート川で溺れる。ウンパ・ルンパ(ディープ・ロイ)のダンス音楽に乗って、チコレート川で、『水着の女王』*1のような水泳シーンが披露される。(もちろん、これもパロディ)


「フルコースディナーガム」なる実験中のガムを食べるバイオレットが、デザートの段階で、副作用に襲われる。次いで、リスが胡桃割りをしている「ナッツ選別室」。何でも欲しがるわがまま娘ベルーカは、リスをペットに欲しいとリスを刺激したため、リス軍団に襲われる。そして、ダストシュートへ!、この子供たちが消えるシーンには、必ず、ウンパ・ルンパの唄とダンスが披露されるから、観るものは、思わず楽しくなってしまう。


TVゲームが得意なマイクは、キューブリックの『2001年宇宙の旅』のモノリスにチョコレートを見立てた見事なパロディの後、自分が現実からTVの世界への移動を試みる。『2001年宇宙の旅』は、音楽まで「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れる徹底ぶり。

といった按配で、次々と子供が消えて行き残ったのは、チャーリーと祖父(デイビッド・ケリー)の二人のみ。さて、ここからが、家族を大切に思うチャーリーと、歯科医の父親(クリストファー・リー)から逃れて孤独なチャーリーとの対比が際立ち、エンディングへと。。。


極彩色の映像処理、数多くのパロディ、シャワー室で、ナイフで何度も突き立てられるヒッチコック『サイコ』の殺人シーンのパロディありで、チョコレート工場の仕掛けの数々。いずれをとっても、実に楽しく、また、ユーモアが、ロアルド・ダールのブラック風に味付けされ、観るものを唖然・呆然・陶然とさせる。これぞ、見世物としてのムービーの楽しさ、素敵さ。

ティム・バートンの集大成にして、最高傑作=究極のファンタジーになっている。また、ジョニー・デップの屈折した青年実業家の演技は、素晴らしい。ジョニー・デップが、様々な役柄を、たとえば陰鬱な探偵や作家から陽気な人物まで幅広く演じ別けることが出来、アメリカ映画界の同年代の俳優では、ブラッド・ピットと並ぶ名優といっても過言ではないことを強く印象づけるフィルムだ。


『チャーリーとチョコレート工場』の公式HP


ロアルド・ダールの原作は未読だったので、柳瀬尚紀の新訳を購入してきた。

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

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ロアルド・ダールの傑作

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

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ティム・バートンジョニー・デップの映画

エド・ウッド [DVD]

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