愛の神、エロス
ウォン・カーウァイ、スティーブン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニ。
この三人が「エロス」をテーマにオムニバス映画を撮るということ自体が話題であるとともに、では、どのような作品になっているのかは、きわめて興味深い。
いってみれば、いささか過剰な期待でもって観てしまった結果からいえば、まず、ウォン・カーウァイ『若き仕立屋の恋』は、時代設定や雰囲気から『花様年華』を引き継いでいる。高級娼婦コン・リーの服を仕立てること、仮縫い作業をとうして間接的に肌に触れる仕立屋チャン・チェンの一途な想いが中篇として、濃密な空間を成立させていた。カーウァイ的世界が、見事に構築されている。
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ソダーバーグの間奏曲風な『ペンローズの悩み』は、精神分析のパロディ以上でも以下でもない。それで十分だ。問題は、90歳を超えたアントニオーニの『危険な道筋』にある。アントニオーニは常に<愛の不毛>を映像として示してきた。
夫婦関係に危機が訪れているクリストファー・ブッフホルツと妻レジーナ・ネムニは、ドライヴに出かけた先で、美しい渓谷のなかで沐浴している裸の女性たちを眺め、無言で昼食をとったのち、妻は去って行く。クリストファーは、レストランにいるとき見かけたルイザ・ラニエリを訪れる。ルイザ・ラニエリは、古風な塔を住居としており、クリストファーを誘惑しベッドへ誘う。
時間が経過し秋の気配がただよう。草原にドライヴに出たジーナへパリにいる夫から電話がかかる。ジーナは、クリストファーとやりなおしてもいいと言うが、電話の相手は無言のまま。
ラスト・海辺のシーン。裸で舞踊に興じるルイザ・ラニエリのもとへ、レジーナ・ネムニがやってきて同じように裸になりルイザの舞踊を反復する。女性二人の間には、一種の親密感が漂う。「エロス」のテーマで、アントニオーニの意図は、読み取りにくい。『情事』や『欲望』『ある女の存在証明』の延長上にあることはたしかだ。
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言葉ではなく映像で示すのが、ミケランジェロ・アントニオーニの作風。ウォン・カーウァイも、ゆったりしたテンポの映像で、主題を提示する。映像への解説をあらかじめ拒否しているような作風は似ているといえなくもない。しかし、スティーヴン・ソダバーグの作風は、二人とは異なる。それが、この「エロス」を共通のテーマにしたフィルムでは、やや浮いてしまったことは否めない。